第六夜(血の繋がっていない兄×弟)

 こんな夢を見た。

  俺っちには元々一彩っつう弟がいるが、二十一にしてもうひとり弟が出来た。みっつ下で、一彩よりひとつ上の、名前を要という。養子らしい。この歳で家族が増えるなんて考えてもみなかったし、物珍しくてやたらと話し掛けていたら鬱陶しかったのか、なんか嫌われていた。歩み寄りたかっただけなのに上手くいかねェモンだなと思う。
 要は穏やかで丁寧な奴だ。基本的には。例外は知る限り俺っちだけ。一彩には勉強を教えてやったり飯を奢ってやったりする良い兄ちゃんなのに、俺っちにはちょっと凹むくらい冷たい。昨日も「俺とあなたの洗濯物は分けて洗うようにと言ったはずですが? 不愉快です」とゴミを見るみたいな目で言われた。
「あんたさ、俺っちの名前覚えてる? 一度も呼んでくれたことねェけど」
 そう尋ねたら、
「ゴミクズの名前など覚える価値もないのです」
 なんて一蹴された。確かに俺っちはパチスロでバイト代をスっては大学の単位を落とすようなクソ野郎だけど、そこまで言われる筋合いはない。というか普通に傷つく。
 直後に何も知らない一彩に「要さん、冷蔵庫にプリンがあるんだ。食べるかい?」と声を掛けられた時は「ありがとうございます、一彩。喜んでいただきます」ってにこにこ笑顔で応じてたのに、この違いは何だってンだ一体。

 元々不在がちな両親は例によって家を空けていて、一彩も空手部の合宿だとかで帰ってこない夜のこと。要は「絶対に俺の部屋に近寄らないでください」と言い残して自室に籠ってしまった(近寄るなも何も隣の部屋なンですけどォ⁉)。
 そんなわけで俺っちも自分の部屋で何をするでもなくだらだら過ごしていたのだが、風呂上がりにストレッチをしていたら異変に気が付いた。ちなみに「あなたが使った後の風呂に浸かるなんて御免です。気持ちが悪い」と言う要の主張により、一番風呂はあいつに譲った。俺っちは思春期の娘を持つ父ちゃんかっつうの。
 ……ンで、異変っつうのは隣の――つまり要の部屋から聞こえる音だ。音ってか声っつーか……なんか呻き声みてェな、苦しむみてェな声。魘されてンのか? と思って部屋のドアの前に行って声を掛けてみても反応はない。
「要ー? 要ちゃん、どした?」
 軽くノックしてもなんの返事もないから流石に気になって、悪いとは思いつつもそっとドアを開けて様子を窺った。
 ハイ、突然ですがここでクイズです。要は何をしていたでしょ〜か? ちなみに俺っちは今めちゃくちゃ動揺しています。いや途中から薄々勘付いてはいたよ、ノックしたあたりから。けど声掛けた手前引くに引けなかったっつうか。いっそ逆に見てやれ的な気持ちになっちまったっつうか……ハイ時間切れ! カンカンカン! 正解は

 オ ナ ニ ー を し て い た

 でした〜!! ごめん要。もうなるようになれだ。
「要く〜ん。兄ちゃんそっちのけで楽しそーなことしてンじゃんか、ん?」
 ベッドの脇に腕組みして仁王立ちしてやっと、壁の方を向いていた要は俺っちに気付いたらしい。ンなに夢中になってたのかよ? なんかますます悪ィな。
「なんっ、えっ⁉ あ、うえぇ?」
 おうおう、お手本みてェなテンパりっぷりだ。ちょっと面白い。今の状況をちゃんと飲み込ませてやるために、俺っちもベッドに乗り上げて要に覆い被さる。脚をばたつかせて抵抗してきたけれど、高校までバスケ部のレギュラーでフォワードのエースだったこの俺に細っこいこいつが敵うわけない。鍛え方が違う。
「ドーゾ、続けて?」
「なに、言って、嫌です! ていうかなんでっ……」
「え〜ちゃんとノックしたっしょ〜?」
「知らない、出てけ! すぐ! 今!」
「ンなこと言うなよ寂しいじゃねェか。『兄弟』だろ?」
「……あんたが『兄』だなんて絶対に認めませんから……!」
「まあまあそう言わずに。兄ちゃんが抜いてやるよ、溜まってンだろ」
「うわ⁉」
 俺っちの下で後退りしようとしてた要の脇に手を差し入れてひょいっと持ち上げる。向かい合わせに腿の上に座らせれば焦って真っ赤な顔が目の前だ。
「さっすが高校生、元気がよろしいことで」
 こんな状況でも萎えないどころかサイズも太さもなかなかのものをお持ちじゃねェの。他人のナニなんざ見る機会はそうそうないし(あっても困る)、珍獣でも眺める心地でまじまじと観察させていただいた。
「……っ、見るな……」
「そんな反応すンのォ? 変な気分になるからやめろよ」
 事実こっちも部屋着のスウェットの中で完全に勃ち上がっちまってるわけ。相手は男で血の繋がってない弟で、なのにこの妙なシチュエーションに興奮してしょうがない。自分のものをスウェットから引っ張り出して硬いままの要のそれに擦り付ける。
「んっあ、あ、なに」
「んん……一緒にシコシコしてやるよ」
「いらな、ひっ」
 はは、声が上擦ってら。自分の掌が大きい自覚はある。ふたり分の逸物もきっちり包み込める。右手でひとまとめに握って上下に扱いてやると、彼は未知の刺激に喉を晒して喘いだ。
「やめ、は、ああ♡ 離し、て……っ」
「やーだ♡ ……はっ、要ェ、おめェみたいな潔癖な美人に、こーんなデカくてグロいちんぽがついてるなんて、っ、ギャップっつうの? きゃはっ、コーフンすンねェ」
「ッ♡ さい、てい」
 手を止めずに、わざと辱めるような台詞を吐けば綺麗な面を泣きそうに歪める。あ〜癖になりそ。男に欲情する趣味はなかったはずなのに、この清く正しく美しい弟に対してだけは変なスイッチが入っちまいそうだ。いつだってつんと澄ました鉄仮面を剥がすのはえらく愉しいし。
「ン〜、ふふ、でも気持ちイイっしょ?」
 快感に耐えながら必死に頷く要。答えはイエス。俺っちの勝ちも同然だ。
 緩急をつけつつ竿を擦る手は時々気紛れを起こし、輪っかをつくった指で括れのところをくるくると苛めてみたり、我慢汁を掬っては先っぽのつるっとしたところに塗り付けてみたりする。どっちのものともつかない体液がぐちゃ、ぐちゅ、とやらしい音を立てる。意味がわからないくらい気持ちイイ。
 それから俺っちは、半開きで短い息と控えめな喘ぎ声を零す目の前の唇の、その更に奥でちらちら揺れて誘う赤い舌にしゃぶりつきたくて堪らない。何だこれ、『弟』に抱く感情じゃねェぞ。どうかしてる。
「く、っ、う……要」
「うあ、ア♡ や、あ、あ」
「かなめ……、いつもああやって、ひとりでシてンの、かよっ」
 気を紛らわせようと咄嗟に投げた質問は、しかし逆効果だった。
「――と、……」
「ん〜?」
「今日はっ、ァ、燐音、にいさ、っ、とふたりきりだと、思ったら……あ、ふ、勃起止まらなくてぇ……」
「……へ?」
 潤んで彷徨っていた要の瞳からついにぼろっと涙が溢れた。それを目で追う余裕なんてない。
「からだ、熱くて♡ すきっ、好きなんれす……りんねにいさ、ッあ♡ ひ、ぐぅ、いく♡」
「――、っ、ぁ、ウッソ……!」
 急激に訪れた嵐に怒涛のように押し流される。気付いた時には右手にふたり分の精液がたっぷり絡まっていた。普通ならここで賢者タイム、すうっと脳が冷えていくモンだが。
「か、なめ、おまえ今の……」
 慌てて目線を上げた先、腕で顔を覆って呻くそいつはバッチリ賢者タイムらしかった。だがンなモン知るか。禁忌のスイッチを押したのはおまえだ。
「おまえ、俺のこと好きなの?」
 努めて平坦に吐いたつもりの声は、胸焼けがしそうなほど甘ったるかった。





【俺っちの|義弟《おとうと》がこんなに可愛い】





・21歳クソ大学生×真面目な高校生18歳
・燐音のバイト先はラーメン屋と雀荘
・バスケ部時代はSDの仙道に憧れていたため背番号7番
・要は塾通いの帰宅部
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