第二夜(アダルトグッズメーカー社長×秘書)

 こんな夢を見た。

「三月からのEコマースのデザイン案いくつか出しといたので、今日じゅうに確認してくださいね。燐音しゃちょー」
「明日にはデザイナーさんに発注するんだから、ちゃんと見といてよね燐音しゃちょー!」
 企画デザイン部の元気な双子がぱたぱたと駆けて、社長室まで報告に来る。お行儀悪くもデスクに片脚を乗せてタブレットを操作していた〝燐音しゃちょー〟こと俺っちは、片手を上げて「お疲れさん」と告げた。
「あれ、今日はHiMERUさんいないの? めずらしー」
「あ〜、メルメルはアレだ、新しい事務所の下見に行ってもらってる」
「へえ。頼りにしてるんですねHiMERUさんのこと。敏腕秘書さんですもんね」
「まァな〜。つうかおめェらもう定時っしょ、早く帰りやがれ」
「はあ〜い。お疲れ様でした☆」
 ぱたぱた、明るいオレンジ色の頭がふたつ、また仲良く並んで駆けていく。おいコラオフィスの廊下を走るンじゃねェよ、メルメルがいたら大目玉喰らってンぞ。
 なァ〜んつって、大嘘。
「おい、行ったぜ」
「ぐ、う……ッ殺ふ………」
「あァ駄目駄目、俺っちはまだイッてねェっつーの」
 デスクの下で俺っちのものを咥えさせられたまま、物騒な恨み言を吐いたのはメルメルその人だ。騙して悪ィなヒナにユタくん。でもこんなとこ見せるわけにゃいかねェし、おめェらだって見たかねェっしょ?
「あんたな、こんなところで、ぇう、」
「まだだっつってんの〜。さっさと帰らせたンだから有難く思えよ。もっと長引かせても良かったンだぜ? その方が興奮するって言うなら♡」
「……っ、……ッ!!」
「ぎゃはは、怒ってやんの。がんばれがんばれ〜♡」
「んぶ、ンン!」
 後頭部を掴んで喉奥に押し付けてやれば苦しげに呻く。お小言はこうして物理的に封じてやりゃあ良い。ちっとやりすぎたか、なんてそんなのは杞憂だ。メルメルは苦しいのも痛いのも気持ちイイに変換しちまう変態ちゃんなので。今だって不満げに文句を垂れる一方でしっかりおっ立ててンのを、俺っちは知ってる。
 HERMESのネクタイ、四万。Diorのセミオーダースーツ、百二十万。時計は国産が良いとかでSEIKOのやつ、七十万。お顔に関しては言うことナシ。どの角度から見ても完璧で有能なこの麗しい男が、着衣を少しも乱さず、けれどじゅぽじゅぽ下品な音を立ててこの俺の股間に蹲ってるってワケだ。堪んねェだろ?
「あ~出そ、メルメル、イく……ぜんぶ飲めよ」
 発射してから思う、眼鏡にぶっかけとけば良かったな、と。よく手入れされた細身のセルフレームはどこの製品か知らねェが、身に着けるものに並々ならぬ拘りを持つこいつのことだ、きっとどこぞのブランド物だろう。マジでぶっかけたらバチバチに怒るンだろうな、次こそやってやろう、絶対だ。そう決意してもその時になると毎回忘れる。
 それはそうと、メルメルは命じられた通りに俺っちの精液を一滴残らず嚥下したらしかった。顎に親指を添えて軽く持ち上げるとお約束のように小さな唇を開いて綺麗になった口内を見せてくれる。敏腕秘書さんは俺っちによって調教済みなのだ。
「よしよし♡ 社長様のザーメンの味はどうよ?」
「馬鹿言ってないで、目的は試作品のテストでしょう。どうだったのですか、実際」
「ン〜、まァ悪くなかったンじゃねェの」
「――星みっつ、と。次のサンプルにいきましょうか」
「待て待て、ちょい休憩させろ。俺っちそんなバカスカ撃てねェから」
「……あなた三十路になって精力落ちたんじゃないですか? うちの代表ともあろう男が情けない」
「おう……身も蓋もねェじゃねーの……」
 アダルトグッズメーカーを経営する俺っちと社長秘書のHiMERUは、度々こうして自社で開発した試作品の体験レビューを行う。頭の沸いたカップルが勤務中にイチャイチャしてるわけじゃねェから安心してほしい、これもれっきとしたオシゴトの一環なので。
 ンで、今試してたのはしゃぶる側が口に装着してフェラしながら振動させるローターのプロトタイプ。数種類テストして技術部に報告するつもりだ(涼しい顔で報告してるHiMERUがてめェの身体で試してたなんて、勿論だァれも知らない)。とは言えこの案件は急ぎでもねェし、今日はこのへんで良いだろう。退勤したならここからは俺っち達大人の余暇だ。
「そう言うおめェはどーなのよ、オラ」
「ひょわ⁉」
「ほれほれ、どうなってるか見せてみ? おめェのこーこ♡」
 ここ、と言って立っているメルメルのアナルを指先でぐいと押してやる。スーツの上からでも的確に場所が判っちまうあたり、流石俺っちとでも言っておこうか。
 最高品質のものに身を包んだこいつも、服を取っ払っちまえばただの男だ。気持ちイイことが好き。射精は気持ちイイ。そんでもってケツはもっと気持ちイイ。それを一度でも経験したら、もう知らなかった頃には戻れない。
「メルメルゥ〜、いつもみたいに見せてちょ〜だい♡」
「う……クソッ……」
 メルメルは上のおクチで可愛くない悪態を吐いてからスラックスとパンツと靴を脱いで、社長デスクの上に仰向けに寝転がった。俺っちが視線で促すと自分で両脚を抱えて大きく開いてくれる。降伏のポーズ。アナルプラグが突き刺さった下のおクチが丸見えだ。これは終業後に恋人同士に戻った俺っち達が夜を目一杯愉しむための仕込みで、今日も一日頑張った俺っちへのご褒美でもある。
「うはァ〜。エッロ。誰がこんなこと教えたンですかねェ」
「……社長……です」
「誰だって? もっかァ〜い♡」
「燐音社長、です……っ」
 優秀な秘書はオンとオフの切り替えも早い。こうしてちょっと意地悪してやれば早くもレンズの奥の瞳が淫らに蕩け出す。ド淫乱。最高っしょ。
 俺っちはアナルプラグのハート型の取手に指を引っ掛けて、そいつが何か言う前に一気に引き抜いた。まあるい玉が数珠繋ぎになったそれはナカのしこりをごりゅごりゅ押し潰しながら抜け出ていく(コレも弊社で開発しました♡)。ほォら、上手にイって見せろ。
「あっあ♡ あ〜♡ いぐ、いッううう♡」
 殆ど叫ぶみたいに派手に喘ぎ散らしてメルメルはドライでイッた。腹につきそうなくらい反り返った中心はぽとりとひとつ雫を落としただけで、絶頂の余韻にぴくぴく震えているのが可哀想で可愛くて、も〜笑いが止まらない。
「くく、メルメルの穴が空っぽになっちまったの寂しい〜つってヒクヒクしてンよ」
「ぁ、うぁ、や、だぁ言うな、ばかぁ♡」
「ダ〜メ♡ 脚はそのまま自分で持ってな、そーそ、偉いなァ〜♡」
 今日の俺っちは機嫌が良いから、偉い子なHiMERUちゃんにもご褒美をやらなきゃなァ。挿入ってすぐの浅いところにカリを引っ掛けて軽く揺さぶると、内側から一日じゅう圧迫されてぐずぐずになったナカがすぐに絡み付いてくる。やァだ、メルメルってば俺っちのこと大好きね♡
「りん、ね……んっ、あの」
「なァにィ〜?」
 そう、今日の俺っちは機嫌が良い。だから馴染ませてる間は質問にも答えて進ぜよう。
「燐音は、バイブだけは俺で試そうとしません、よね? あう、ど、して……」
「ん〜……そんなのよォ」
 戯れに前を扱いたり太腿を撫でたりしていた手を止めて、両手で細い腰を捕まえる。指が食い込んで跡がつきそうなほどにきつく掴むと一度己の腰を引く。ギリギリ抜けそうなところからひと息に奥まで突っ込む。骨盤どうしがぶつかる鈍い痛みと、どちゅん! とまァ酷い音がした。
「……せっかく長い時間かけて俺のカタチにしたンだぜ、おまえのナカ。バイブなんか使ったら勿体ねェだろうが」
 繰り返し刻み付けるみたいに抱く度に、俺のものにぴったり吸い付くように内壁が形を変えていくのが堪らないと思った。そこを俺を受け入れるためだけの器官に作り変える背徳感と全能感はとんでもなかった。だから。答えはそれだけ。
「だからこれは、俺の独占欲のあらわれ」
 許してくれるよな? 
 いつもより容赦なく腰を打ち付けながら逆に問うてみたけれど、激しい快感に狂ったように喘ぎ続ける彼にはきっと届いていない。
「……まァいーや。今日もたァっぷり甘やかしてくれよ、メルメル♡」
 こちとら毎日クソみてェな労働に勤しんでンだ、アフター5にはこんな愉しみがあったって良いだろう?





【アフター5は俺らの|王国《くに》】 





・31歳若社長×28歳秘書
・社訓は『旨いズリネタを独り占めするべからず』
・葵双子はWebデザイナー。社長と秘書のただならぬ関係には薄々勘付いてる
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