第三夜(高校教師×生徒)

 こんな夢を見た。

 俺っちは教師である。名前は天城燐音。某有名私立高校で社会科の教鞭を執っている。専門は政治経済。もうここに勤めて五年になるが、まあ悪くない日々を送っている。何せ女子の制服が可愛い。就職の決め手の八割、いや九割はそれだ。
 おツムの偏差値は勿論、お顔の偏差値もやたら高いこの高校、何だか全体的にキラキラしている。素人じゃなさそうな奴もわんさかいる。そんなわけでウチの生徒達は街を歩いていても目立つらしい。青春なんざウン年前に通り過ぎた夢も希望もない大人には眩しくてかなわねェ。

 ゆうべは同僚の朔間先生(ジジイ口調で英語を教えてるわけわかんねェ奴だ)と飲んでたから、普段は自家用車で通勤している俺っちも今日ばかりは電車で出勤だ。まあまあ早い時間だが、そこそこ混雑していてうんざりする。車通勤こそが最強にして最高っしょ。
 ドアの脇にボンヤリ立っていると、見慣れた制服が目に入った。グレーのブレザーにグリーンのチェックのスラックス。ウチの男子生徒だ。彼は背を向けているから俺っちには気付いていない。通学中に教師と鉢合わせるなんてちょっと気まずいだろうし、こちらも知らんぷりを決め込むとする。これは気遣いだ。
 しばらくの間床に目線を落としていた。がたん、ごとん。心地好い揺れは眠気を誘う。ふああ、とでかい欠伸をひとつ、それからふと思い出して先程の男子生徒の方に目をやった。
(……? 何だ、あいつ)
 様子がおかしい。向かいのドアの横に立つ青空にも似た髪色をした生徒の、背中にびたっと張り付く男がいる。一見普通の、通勤中の中年サラリーマンなのだが。
(あ〜あ、下手クソ。バレバレっしょ)
 奴はどこからどう見ても痴漢をはたらいていた。少年を背後から抱き締めるみたいに両腕で抱え込んで、身体をまさぐっているのが見て取れる。近くの乗客も奴の狼藉に勘付いているはずだ。けれど悲しいかな、誰も厄介事になんて関わりたくないから、助けに入る者はない。
 仕方ねェ、ここは俺っちがひと肌脱いでやりますか。可愛い教え子のためだ。
 少し前から密かに動画撮影モードに切り替えてそちらへ向けていたスマホを大きく掲げ、そこらの乗客を退かして歩み寄る。
「はよ、どしたァ〜? そいつ知り合い?」
「ぁ……っ、天城先生……!」
 可哀想に、男子生徒――教え子の十条要――は、恐怖で声も出せなかったらしい。俺っちの姿を認めて殆ど泣き出しそうな掠れた声で名前を呼んだ。『先生』という単語に面食らったのは痴漢野郎で、途端に慌てだした。てめェ気持ち悪ィンだよ。
「こっち来な十条」
「は、はい」
「てめェは逃げンじゃねェ……ぞ!」
 そそくさと去ろうとする痴漢野郎の首根っこを引っ掴んで捕まえて、腕で頸動脈を締め上げる。ものの数秒で男は落ちた。一丁上がりだ。こいつは降りる時に証拠の動画と一緒に引き渡そう。
 と、きゅ、と控えめに袖が引かれる。
「――あの、せんせ……ありがとう、ございました」
「ん? あァ、良いって良いって。怖かったっしょ?」
「平気、です。……ふふ。ちゃらんぽらんの天城先生が、初めて格好良く見えたのですよ」
「なァんだよそりゃ」
 笑って冗談が言えるなら大丈夫だろう。痴漢被害によって心に傷を負ってしまう子供もいると聞くから、心配していたのだ。ほら、一応は俺っち、先生だし。
 大きなターミナル駅のホームに特急電車が滑り込む。大勢降りて、その倍くらいの人数が乗り込んできた。人波に押しやられ、十条をドアに押し付けるようなポーズで身動きが取れなくなってしまう。思わず舌打ちをした。やっぱり電車通勤なんざクソだ。
「――っ、先生⁉」
 腕でつくった囲いの中の少年が小さく声を上げる。あァ、バレたか。さっきこいつがオッサンに襲われてンのを見てから、どうもムラムラして息子が元気になっちまっている。だって妙にエロいンだもんこの子。潤んで赤くなった目元も、戦慄く唇も、制服が覆い隠す白い肌もどこか扇情的で。今は身体が密着したことで、数センチだけ背が低い十条の、尻の割れ目に股間を擦り付けてしまっているらしい。
 ああ――イイコト思い付いた。
 唇の前に人差し指を立てて「静かに」とサインを送った俺っちは、今度はその指で彼の頬から顎のラインをするりと撫でてやる。明確な意図を持って触れるとびく、と震えた背を優しく擦りながら、悪巧みを打ち明けるみたいにそっと耳打ちをする。
「なァ、俺っちに上書きさせて」
 息を呑む音が聞こえた。
「頼む、我慢出来ねェ。触らしてくんね?」
「や、」
「しぃ……。断っても良いけど、そしたらさっきの動画ばら撒くぜ。嫌っしょ? ××大目指してンだもんなァおまえ」
「……」
「良い子。だァいじょぶ、ちゃんとヨくしてやっから。俺はテク無しのあのオッサンとは違ェ」
 仔猫にするかの如く指先で喉元を擽る。話の分かる聡い子は好きだぜ。弱みをチラつかせて脅すみてェなやり口はアレだが、助けてやった恩もあることだし、許されると思いたい。
 十条は所謂優等生だ。きっちり留められたブレザーのボタンを外すところから始めねばならない。ネクタイは緩めずに、スラックスに仕舞われたシャツを引っ張り出して、下からみっつほどボタンを開けさせてもらう。片手をシャツの中に突っ込み、もう片方はベルトへ。俺っちともなれば後ろから、しかも利き手じゃない方の手で他人のベルトを緩めるくらい造作もない。
「ふ、ッぅ」
 滑らかな腹へ手を滑らせると色っぽい息が僅かに漏れた。慌てて自らの手の甲を唇に押し当てる様がいじらしい。ほんのり汗ばんだ素肌は掌に柔らかく吸い付いて、落ち着くどころかますます劣情を煽られる。これはどうしたモンか。
 寛げた前に手を伸ばし、下着の中で反応を示し始めた性器を軽く握り込む。ひゅっと気道が鳴る。敏感でよろしい。そこを扱きつつも俺っちの口は耳を構うのに忙しい。ふうと息を吹き掛けては耳朶を甘く食んで、耳殻の形をなぞるように舌を這わせてもやる。びちゃ、と空気と唾液の混ざる音がする度に十条がぴくんぴくんと肩を揺らす。正直言ってめちゃめちゃそそる。
 このシチュエーションもいけない。周りじゅう人、人、人だらけだ。誰が見ているかわかったモンじゃない。そのことに堪らなく興奮を煽られる。――ああ、俺変態なのか。
「っ、ん♡ ン、んぐ、ぅ♡」
「ほォら十条、静かにしねェと聞こえちまうっしょ……? ここが何処だかわかってるよなァ?」
 後孔の淵をくるりとなぞってからカウパーで濡れた指でとんとん、入口を叩いてやれば、きゅんと嬉しそうに収縮するそこ。こいつ絶対ケツの才能あるわ。
 喜ばしい発見にほくそ笑んでいると、不意に窓の外が暗闇になった。同時にガー、と喧しい走行音が耳につくようになる。トンネルに入ったらしい。そこで目に飛び込んできたのはドアに嵌め込まれたガラスに映った十条の顔。才色兼備の優等生様が電車で痴漢されて蕩けきった面ァ晒してンだぜ? こんなの誰にも見られるわけにゃいかねェよなァ。
 悪戯を仕掛けていた右手を追い詰める動きに変える。一定のリズムで扱き上げて、トドメに親指の腹で先端をぐり、と圧迫する。次いで耳に触れるほど唇を寄せ、俺っち史上最高にイイ声で囁いた。ガラス越しに彼の金色の目と視線がかち合う。
「イッていいぜ、要」
「〜〜〜ッッ♡♡」
 十条は俺っちの手の中で、声で、視線で盛大に果てた。力が抜けて崩れそうになる身体をすんでのところで支えて、乱れた衣服を整え終える頃にトンネルを抜けた。掌についた精液はスーツのポケットから出てきた皺だらけのハンカチで拭って、そのまま駅のゴミ箱に捨てた。うーん電車通勤も悪くねェな。

 それ以来俺っちと十条要の不埒な関係は続いている。なお件の動画はとっておきのオカズになった。
 放課後、人気も疎らになった校舎でお決まりの番号をコールする。
「……お、十条お疲れさん。そう俺っち♡ うん、ちょっと手伝いに来てくんね? すぐ終わるから。そ、第七準備室な」
 用件を伝え終えると速攻で切られてしまう電話は、しかし最近少しずつ長くなっている。気がする。あいつも絆されてくれてるってことかな、とニンマリだ。
「さァて……卒業までに陥落させてやんねェとなァ」
 攻略難易度が高ければ高いほど燃える|質《タチ》なんでね。





【特急電車禁断の泥沼行】 





・28歳社会科教師×高3
・英語の朔間先生のほかに古典の蓮巳先生、生物の羽風先生、体育の鬼龍先生もいる
・文化祭で教師バンドをやった。燐音はベース
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