3話

BACKBONE.
3、13 - one three - 


  株式会社C0LT。
 元は子役の養成を主としていた小規模のプロダクションだったが、近年のアイドルブームを受け二年前からアイドルタレント育成マネジメントの展開を始めた。
 その最初の広告塔として世に放たれたボーカルアイドルグループ“ワンスリー”。
 現在のグループの露出としては、主に伝手のあるテレビ局の深夜番組への出演、WEBラジオ、ドラマのちょい役、細かいものを入れればお菓子のパッケージコラボや雑誌のコラムなど下積み時代として考えるなら申し分はない露出である一方、肝心のボーカルユニットとしての活動には未だ大きなスポットライトは当たらずにいた。
 活動のメインである楽曲のリリース時ですら地上波で放映される音楽番組から声がかかることもないし、グループ最大の露出と言えば発足当初のUニカビジョンのジャック止まり。メジャーデビューしたと言っても名ばかりで、実際ワンスリーという名前の世間への浸透率などほぼないに等しかった。
 勿論、日夜小さな箱でのライブ活動はしているのでアイドルに興味があって界隈に詳しい人にならグループ名ぐらいなら知れてもいるだろう。だが、湯水のごとく日々沸いて溢れるほどに新しいグループたちがデビューしてくるこの時代、一体いつまで誰がどのぐらいの興味を持って見ていてくれるのかなどたかが知れているようにも思えた。

「おお、今回のメインみゅうじゃないじゃん。いいの?」
 メンバーの一人である永久陽が新曲の歌割を見ながら悪びれも無くそう言った。悪い奴ではないのだが、言葉選びが上手いとは言えない上に根本的に無遠慮な物言いが目立った。
二十二時を過ぎた暗い高速道路を走る社用車は男六人で乗るには少し手狭。例えいくら声を潜めたとしても車内での発言は全員に聞こえていた。
「え。逆に何で俺が毎回メインになるって思うの……」
「なんでって。リーダーだしィ。その方がしっくりくるっていうか」
「こねえよ。だったらグループでやる意味ねえし。皆同じラインに横並びで立ってるイメージって最初に言ってたじゃん」
 なるべく邪険にはならないようにグループの平等性を説いたつもりだったが果たして彼にはどれほどの真意が汲み取れていたのかは分からない。どころか、誰もが反応し辛い話題だということを意にも介さずあっけらかんと目を丸くする。
「……はえ~。ほんとお前、なんつうか欲? がないよねえ。あわよくば自分だけでも売れたいとかちょっとぐらい思わないの?」
「……。悪いけど、今んとこ思わないかな。どうせ売れるならグループとして売れたいじゃん」
「ねえーーみゅうと陽くんうるさ~い。移動中ぐらい寝かせて~」
 綺麗ごとを並べているのは十分承知の上。歯の浮く様な真面目な言葉の連続に耐えきれなかったのであろう袴田春頼が絶妙なタイミングで仲裁に入ってくれてほっとする。このグループ唯一のオールラウンダーで空気を読むのがダントツに上手く、意見が割れそうになるとすぐに打開策を打ち出してその場を丸く収めてくれた。
 いつも中立で真っ当な意見を言ってくれるので恐らく他のメンバーからの信頼も厚いし自分自身、春頼と同じ現場でいる時が一番安心して自分の役割に専念できていると感じる。
「ごめん……」
「すまーん。ふーん。ま俺は正直普通に売れたいけどぉ。一人でも別にさ」
「はいはい。陽くんだったらすぐ売れるよ。歌上手いし。ね、みゅう」
「うん」
「そ~かな~~。みゅうの方が先にソロデビューしてバーンといきそうだけど~」
「……」
「……」
 ため息が出そうになるのをぐっと堪えて、これ以上は相手にしないと頑として誓い窓の外に目をやる。というか、デビュー後念願の初ツアーをやっとの思いで一か月後に控えたタイミングの今、個人的にでももっと売れたいと思えるような余力があるのには正直とても羨ましいと思ってしまった。
「…………」
 満を持して十六歳で家を出てから頼った先で、真っ先にぶつけられたこのグループ活動という提案とは恋にとっては想定外の露出の形でもあり思い描いていた未来とは全く違う芸能活動の始まりとなってしまったのは言うまでもなかった。
 もっとも、その話がされた時点で歌やダンス、表現の基礎を学べる体験レッスンと銘打っていた事務所の養成スクールの指導を受け始めてからは半年ほどが経っていて、指導体制自体も悪くないうえ、子役時代の経験もあるとなれば、プレ募集で集まった素人集団である一期生に紛れている中では当然ながらかなり飛びぬけた存在だという自覚はやはり恋にもあったわけで。
 真っ白な壁に囲まれ、デスクと応接セットだけが置かれた殺風景な社長室。対面する叔父である愛野由多加とは子役で世話になって以来、おおよそ九年ぶりにちゃんと顔を合わせたようなものだった。
「ん? えっと、グループ……ですか」
「そう。今度うちもアイドルグループみたいなプロジェクトを立ち上げることに決まって、ちょうど売り出すユニットを検討していたんだよ」
「……アイドルグループ……」
「六人組を予定していて。ああ、基本的なスタンスはアイドルじゃなくてダンスボーカルユニットなんだけれど、どうかな。恋にもメンバーに入ってもらえたら嬉しいんだけど」
 無論、正直に言えばグループ活動など全く乗り気でなかったが、そもそもを言えばこちらが先に昔の伝手を利用しなんとか素性を隠して芸能活動をさせてもらえないかと頼み込んだという大きな負い目があった。
 ここならば出自を誤魔化す必要もなければ社長の口が滑らない限り、親バレするリスクも最小限で済む。この先自分が真っ新な状態で芸能活動を行っていく条件としてはここ以外の選択肢は無いと思っていたからこそ、社長じきじきの頼まれごとを断れる立場でもなければ、個人的な感情でやりたくないとはどうしても言えなかった。
「……」
「勿論、ずっととは言わないよ。要はコルトが大々的にそういうプロジェクトをやってるってことが周知されたら、養成所に人数が集まるでしょう。その子たちを君たちの後輩として育てていってどんどんデビューさせていきたいって魂胆さ。まずはこの事務所の顔として活動してもらって。まあお試し、だと言い方が悪いけれどさ……。復帰戦が一人だと心細いかとも思うし」
「……」
「嫌かな? 少しの間でいいんだけれど……」
「……嫌とかじゃないけど……。できるかなって」
「何言ってるの、できるさ! 君には人の心を惹きつける魅力が既にある」
「そうかな……」
「保証するよ! 自分は輝けなかったけれど、昔から人を見る目だけはあるんだ。それから、これまでの楽曲も、もし可能ならこれから作るものも、良かったらユニットで使っていかないか?」
「えっ?」
 青天の霹靂に思わず顔を上げると、貪欲な昂ぶりに満ちた由多加の目には支配の気を強く察して素早く目を逸らす。捕まりたくないのに今更逃げる術などないことに気が付いて俯いたまま口ごもる。
「いや……。一応、仕事の話なんでそのグループ活動の方は俺がやれること頑張りますけど……曲はさすがにまずくないですか……?」
「? どうして? 完成度は十分だし、嫌でなければ六人用に編曲を依頼することも出来る。負担なら仕方ないが、せっかくいい曲が作れるんだしやってみたらいい」
「…………」
「本気で創ったものは必ず受け取る側に誠意が伝わるものだよ。音楽への丁寧な愛情がちゃんと曲として成り立ってるんだ。発信しないのは勿体ないよ」
「……そんな風に言ってもらえるのは嬉しいけど……」
 悪気はないにしろ“せっかくだから”という安直な理由でワンスリーの楽曲制作を提案されたのにはさすがにすぐには頷けなかった。
 自分で自分の歌を歌う分には自己満足だし気負いもしないが、他人の声でしかもアイドルグループで使うとなるとその心境は全く違うものになる。どんなメンバーで、どんな声質で、どんなグループにしたいのか、というか、そのグループの印象を決める大事な楽曲をそもそもメンバーの一人である自分が勝手に作っていいものだろうか。
 曲作りとは何も持たない恋にとって唯一のアイデンティティだった。言われなくても大事にしていたつもりだったし、その作業自体に苦はなく寧ろ大好きと言えた。
「……やっぱちょっと、考えさせてください……」
それでも、自分だけならいざ知らず他人の人生を堂々と請け負えるほどの自信はその時の恋にはなかったわけで。

「みゅう。パーキング。便所いいの」
「んえ、……ああ、……降りる、ありがと……」
 とにかく露出を稼ぎたい時期でもあるし、本業の音楽活動に加えて長時間の野外ロケや炎天下での長回し、バラエティに呼ばれれば黙って座っているわけにはいかないし、常に体力勝負の毎日は嫌でもあっという間に過ぎ去って行った。
今日も今日とて早朝集合のごぜんさま帰宅は免れずいつの間にか眠ってしまっていたようで、隣に座る福多三千に揺すられ寝ぼけまなこで深夜のパーキングエリアに降り立った。
「陽ちゃん、あっちに串焼きの自販機あったよ! 食べよー!」
「おー、いいねいいね。え、串焼きの自販機???」
「春頼もいこう!」
「え~~……」
 グループきってのムードメーカーである霍田光を中心に、最年少の三人が自動販売機の並ぶ明るい方へと歩いていくのをぼんやりと見ていると近くで“レン”と名前を呼ばれて思わず振り返る。
 束の間ピンと来なかったが、そこには年長の二人がきょとんとした顔で立っているのを見てやっとレンとは伊波連を指していたことに気が付いた。
「あ、ごめん俺はみゅうでした……」
「だいじょぶか……。まあちょうどいいや、連、ここからみゅうと助手席変われない? この通りなんかしんどそうだから」
「おう、いいよ。あと少しだって言ってたし今のところ酔ってもないから」
「ええ、ごめん……余計な心配かけてるな……大丈夫なつもりなんだけど……」
「もちょっとだけでも座席広けりゃな」
「これからよこれから。売れたらせめて二台は出してくれるようになるっしょ~」
「……」
結局、あれからデビュー曲を用意するギリギリの期限まで悩みぬいた末に、名前を伏せての提供なら精一杯頑張るなどと言ってしまったのには、やりたいことをやるという観点では大幅に間違っているわけでもないと狡猾な気持ちが沸いたからでもあった。
 ある程度プレッシャーのある場所で自分の実力を確かめたいと思ったのは言うまでもないし、あえて名前を出さなくていいのならそれはやはり好都合。今までやってきた環境とほとんど変わらないままやりたいことを試せるということでもある。
つまり極論は、断れなかったのではなくて“断らなかった”というのは自身が一番よく分かっていた。
実際、いざ全てが始動しワンスリーの望幸恋として振舞うのを始めてしまえば、目の前をこなすのに手一杯で曲がどうとか身バレがどうとかいう細かなことをいちいち気にしている余裕など微塵もなかった。
ふと振り返ればこそ、やりたいなんて一度も言った覚えのないセンターボーカル兼グループリーダーまでもを任されていて、否、任されたからには自分なりに納得のいく程度には活動のクオリティを維持しながら、裏ではコンスタントに曲を作り、そして、いかにバランス良く自分がグループに埋もれられるかという、思えばそういう調整ばかりしてきた一年ちょっとだったように感じる。
流石にツアーアルバムの全曲を一人で担うのは無理があったので、最近は外注の曲も組み込んでもらっていたけれど実質ワンスリーの楽曲のほとんどを自分が手掛けグループの指針を支えているということは約束通り周囲には伏せたまま。
そのうえで、ありがたいことにワンスリーは曲がいいと褒められることは少なくなく、素直に嬉しいと思える反面、やはり名前を出さなくて正解だったとも心から思った。
 平行に並んでいるはずのメンバーのうちたった一人が曲を作ってそれを残りのメンバーが歌う。
すると、歌が上手いでもダンスが上手いでもなく曲がいいと褒められる。作者が関与していないからこそあたりさわりのなかったグループへの誉め言葉は、作詞作曲望幸恋になることで途端印象がおかしくなってしまう。
 それは決して誰が悪いという話ではないのも分かっていた。でも実際そうなったら、誰だっていい気にはならないのは当然の心理だとも思う。
 最低限のやりたいことこそ、やりたい形で出来ている。でも、少なくともアイドル紛いの装いでするグループ活動やそれに付随する格付けと人気争いにはつくづく向いていないと実感しているのも事実だった。
「……」
 二人に合わせて曖昧に頷いていると、ふと真剣な眼差しの三千が真面目なトーンで口を開く。
「ま、悪い意味じゃなく、みゅうがいるからそのうち売れるとは思うんだけどねえ」
「うん。陽じゃないけどそれは俺も思うな」
「……もう、だからそういうのが俺の血流を悪くしてんだって……やめてよ……」
「何だよ、期待してんだよ期待。お前がそこにいるだけで絵面がパッとすんのは事実なんだから」
「これでもっと性格でも悪けりゃそれなりに僻みも出来んだけどな。頼むぜリーダー。ソロで売れる気がないんだったら尚更さ。早いとこ一人一台社用車出してもらおうや」
「いやそれ売れてないの全部俺のせいみたいじゃんんん……」
「はは、それは卑屈すぎるな~」
こうして、陽だけでないにしろ、嘘でも本当でもメンバーは日々売れたいと口にしたが、本来の在り方という側面でそれほど盛り上がっていないというだけであって、グループ活動としてや個々の露出は十分恵まれているほうなのではないかと思っている。
そもそも、売れると言えば聞こえはいいが、現象として見れば界隈に詳しいわけでもない世間一般の多くの普通の人間が自分達の名前を、顔を、歌を目にする機会が多くなるということでもある。
つまり、見られる母数が増えれば増えるほど、それらはファンとして、またはアンチとして、行動、発言、アイドルとしての生き方だけでないすべてを、面白おかしく見世物みたいにされる可能性があるということだった。
「売れたらきっと不自由なこともあるだろうけどな……」
「不自由?」
「例えば週刊誌とかさ。SNSもそうだけど」
「ああ、有名税ってやつか」
「……有名税……」
 恋は、嫌でもこれまでの人生を回顧せざるを得なくて目を伏せる。その大半を大物芸能人の二世として過ごした時間の窮屈さが未だ根を張り続けるのは既に枯れて渇き切ってしまった心の土壌だ。
人当たり良く喋ったが深くは関わろうとしない慎重な人付き合いの姿勢や、裏の裏まで人の気持ちを捉えられてしまうその鋭敏な感覚のほとんどは、他者から受けた心無い数々の言葉にルーツしていた。
 例えば、父の仕事仲間。
 慎さんの息子ならさぞ立派に育つことだろうね。男の子ならなおさら楽しみですな。
 母のマネージャー。
 ひー様のお子さん本当に凛々しくて可愛らしい。きっと素晴らしい未来があるのね。
 雑誌のインタビュアー。
 お父さんはお家でどんな風に過ごしているのかな。一緒に遊んだりするのかい。
 バラエティ番組の司会者。
 恋くんはご両親のような表現者になるのが夢かな? お芝居が得意でよかったね。
 名前も知らない週刊記者。
 武良さんは家でもお酒を飲まれるのですか。家事や子育てはどうされているのですか。今朝愛人のお宅で慎さんをお見掛けしましたが家にはどのぐらい帰っておりませんか。
 その他、ネットの不特定多数。このイロ俳優が。ひー様をビッチ呼ばわりしないで。本当に慎の子供なのか。あれだけいろんなとこでヤりまくって武良との間にだけできるのおかしい。親子のつながりはありますか。似てない。演技下手。不細工。臆病。おどおどしてる。男? 女? 武良の不貞。不倫。慎は種なし。じゃあ武良と誰の子? 名前は? 顔は? 今現在はいくつで何をしているの?
 極めつけは小学校の同級生の女。
 なんで子供なんかつくっちゃったんだろうね? 大事にできないのに。恋くん可哀想だからうちの子になりなよ。
 嫌なイメージ。強い強迫観念。過去の癒えない傷達は深ければ深いほど未だこれほど鮮明に心に居残り、恋を蝕み日々蔑む。
 必然的にグループとして露出が激しくなる度に向上心とは裏腹に身バレの恐怖が常に恋の脳裏にはあった。バレたら死ねばいいなんて身軽な思春期の走り書きはこうして歳を重ねるたびにその意味の重大さを増していく。
 実際、仕事として一から初心で取り組み始めた今、音楽にしろ芝居にしろ自分の中にある潜在的な欲を形にする行為にはやはり本能的な愉悦を感じるのだと正直に認めた。
 だからそれは父も母も同じなのだと素直にそう思えた。この欲望に対していつでも忠実で夢中なだけ。それこそ家庭や家族なんか本当はいらなかったぐらいに。
 それが自分にとって良いか悪いかは度外視するとしたら、彼らが純粋に好きでしたことが世間の注目を集めたという事実があるだけで、その裏にある人格や生活のすべてを、その後に上手くいかなかった人生のあれこれを赤の他人から詰られていい理由にはやっぱりなり得ないとつくづく思った。
 いつかこんな風潮が変わっていく時がくるかもしれない。でも今はまだその気配はちょっとも感じられない。
 ならば今のところ、売れて有名になりたいと思うこととは、どこの誰かも分からない「匿名」から好きとか嫌いとかもっと言うと生き方の全てに関しての価値観を二十四時間問われ続ける覚悟のことでもあると恋には思えた。
 それでも発信したい何かが、果たしてこの寄せ集めのアイドルグループにあるだろうか?
 人生の履歴は仮に隠し通せたとて消し去ることはできない。たとえ一瞬だったとしても“売れた”瞬間を一生背負って生きるビジョンが本当に今の自分達に見えているか?
 或いは、いつかどこかで望幸恋の真相にたどり着いた誰かの暴露で全てが明るみになったとき無責任に死んで逃げる勇気が、その時の自分にあるだろうか?
「みゅう?」
「っはい……」
 突然呼びかけられてハッと我に返ると、いつの間にか全員が集まってこちらを見ていてびっくりする。
「へ? ごめん、聞いてなかった」
「……マジかよ」
「疲れすぎててウケるんだけど」
 呆れ半分に笑った連と春頼の代わりに陽が串焼きを頬張りながらやや大きめの声でこう言った。
「もし今度のツアーで爆売れしたら何したいってハナシ! 俺は海外進出!」
「陽はまあぶっ飛んでるから別だけど、考えてみたらそんな未来全然しっくりこないよねって言ってたの」
「…………」
 春頼の言葉に何も言えないで黙ると、三千がため息交じりに呟く。
「そう思ったら芸能界に入りたかった動機なんて、今となっちゃちっぽけだよな。実際やればやったで簡単に“仕事”ってルーチンになってんだから」
「えーでもだから売れたいんじゃん。今以上に“俺”ってだけで胸張ってお金貰えるようになりたくない?」
 売れたいか売れたくないか、その答えは出せずともひとまず仕事として、傍らに人生としていつでも真剣にそれらと向き合っている一方で、恋には真摯に売れたいと思う彼らの気持ちも分からないわけでは決してなかった。
「…………」
 だって恋とて一度は“思った”からこそ、子役の仕事もやってみたし歌や音楽も気が付けば夢中になって取り組める好きなことにもなり得た。
そう“感じて”しまったことがあるからこそ、結局は自らここに戻ってきたのもまた事実だから。
 それは例えば身体から熱い湯気のたつような汗だくのステージ。
息をのむほど圧倒的で凄まじい自らの表現のあとに朴訥と空を見つめて蕪武焼は言う。
「俺がいまからやることに今は何の価値もなくてもね、俺がやったから価値のつくものにしたいのよ。他は何もいらない。そういうものを作っていたいの俺は、死ぬまで一生さ、ありがとう、いい夜に」
 深い一礼に鳴りやまぬ喝采。男も女も大人も子供も情動の理解出来る者に一切の垣根などないということをこれほど早くに知ったのはいっそ罪だった。
 表現者は見せる者を選ばない。見たもの全てに無条件に身勝手に理解を求めるものであれという姿勢は蕪武焼をこの目で見て学んだことでもある。
 はたまた目が眩むような金吹雪のド真ん中、強い意志の宿る乾いた瞳が冷静に瞬く。
「見てください。私が人生をかけて向き合ってきた全ての集大成が今この瞬間です。何の恐れもありません。ここがゴールです。三年間ありがとう! ここは私の人生で一番素敵な場所!」
 少女のような顔をしてはにかんで綻ぶ武良が駆け抜けた約千日間の果ての壇上で、こうして笑う姿を千日も前に夢見た人々がそこには犇めいていた。
 雨の日も風の日も彼女のステージは止まることなく続き、武良に夢見る、また夢を見せる側である武良にとってもそれがどれほど幸福な出来事であったのかを、全身に浴びる拍手の音で感じ取る。言わなくても分かる。本物の感情とは口にせずとも十分に伝わるものであること。
 言葉はときにまやかしであり心からの情動はどんな誰にも隠すことなど出来ないのだと思い知る。
 それは間違いなく、父と母の燦然と光り輝く表舞台の表情に、毎度胸が焦がれる熱い熱いエモーションを感じた瞬間を今もこうして忘れられずにいるからこその感覚だった。
 本当は恋だってずっとそれに憧れている。ずっとそれに夢を見ている。
 ならば、恋が本当に心から求めているものとはその瞬間だったのだろう。知りたかった。あの頂にあるものがどれほど光に満ちた欲の果てであったのか。人生を投げうってでも掴みたい光に手が届く瞬間が、どれほど満ち足りたものであったのかを。

「……俺は、今みたいに外向けに自己表現してられたらそれだけでも正直充分。もし売れても、ずっと音楽で生きていきたいかな……」

 けれど、こうして時折胸に込み上げる光の渦とは裏腹に、一心にしてやればやるほど世界に対して強く感じる劣等感は、もともとそんな頂に行けるような素質など自分は生まれもってはいなかったという結論に容易に結び付いてしまうものでもあった。
 世の中にはこんな中途半端な自分よりも選ばれるべき人間がたくさんいて、望むことすらままならない自分なんかよりもっともっとこの業界に適正のある人など腐るほどいる。
 他人が夢中になって|欲《ひかり》を追う姿を羨ましいと思いはすれど自分に何ができるのか、自分は具体的に何をしたら満たされるのかを常に自分自身に問いかけながら未だ欲を欲する矛盾を抱えている恋にとって日の目を見ずに地に埋もれている現状とは、やはりとても安心するものでもあって。
「まあ、俺なんかがしがみ付いてていい場所なのかは分かんないけども」
「……おお……無欲な……」
「みゅうって人生何回目……?」
「思っっった、あたかももう一回売れてきたような口ぶりだったよな」
「もしや前世の記憶ある系の人」
「うんー、俺やっぱギャグ要因でしかねえんだなあ…………」
「まー時々ちょーーっとポエマーよなあ~」
「ポエマーいうな恥ずかしいわ!」
「みんな~、そろそろ出発しますよ。あと一時間もすれば着くのでもう少し頑張ろう!」
 車内で仮眠を取っていたマネージャーがウインドウを下げ、栄養ドリンクを片手にそう言う。こればっかりは考えるのにも限度がある。矛盾と葛藤の中に答えを探すのは諦めてあくびをしながら乗り込もうとすると連に横から引っ張られて留まる。
「お前はこっちだって。はい、酔い止めね」
「い、いいのに……ありがとママー……」
「産んだ覚えはねえ」
 年上二人の気遣いに甘えて一人助手席に乗り込むと、大袈裟でなくそれだけでも大分気持ちが楽だった。等間隔のハイウェイ灯がスピードに乗って流れるように過ぎ去って行くのを眺めていると疲れた身体は休息を求めてすぐにうとうとと微睡む。裏腹に、心配事の尽きない思考は落ちきれない無意識の狭間で心の深い部分をぐらりと揺るがす。
真っ暗な渦の中心。孤独な自分の幻影に、かつて未熟な自分では手に負えず先送りにしてしまった悪魔の問いが巡るのが分かった。
売れても売れなくても音楽活動が出来たらそれでいい?
 そんなのは大嘘だ。あの頂の先が欲しい気持ちは自分自身ですら制御出来ないほどの大きな大きな欲望。ならばそれは大前提としてまず売れる、即ち多くの人から求められなくては成り立たない。
 頂を造るにはたくさんの他者の力が絶対に必要で、それと同じぐらい欲しいと望むそんな自分を心の底から愛し肯定し奮い立たせながら一人で登る強い覚悟が不可欠。
 なのに、周囲との摩擦を恐れるあまり自分のアイデンティティだと自負してきた歌が、音楽が、今も十割味方かどうかを疑い始めるとするのなら、では一体何のために自己表現をするのか、誰のためにこんなどうしようもない自分がいるというのかと全てを無に帰すような問いしかやはり残らなかった。
ワンスリーで活動を重ねる度にじわっと胸に広がる焦燥は、売れた先の頂を望む心とこびり付いた有名税への恐怖心との強い摩擦のせいだ。
 万一夢の途中で出自が露出すれば、そこまでの経歴は間違いなく全てが親の恩恵と言われるだろう。持って生まれた顔や才を妬む声。この自我の中に蕪武焼と武良の片鱗をこじつけては今まで見向きもしなかった誰彼が一斉にこちらを見て「素晴らしい」と手を叩くに決まっている。
 蕪武焼のような、武良のような、と言われるとどうしても自分の人格が否定されているような気分になるのは屁理屈じゃないはず。ここに自我がある限り誰のようでも決してなく、御幸恋として、引いては望幸恋としてこの物語に受け入れてもらいたいと強く強く欲してしまうから。
元より、自分の背後にあるのが自死という無様な逃げであるという事実にはもう大分慣れてきた。だから選択肢が前にある限り後ろに下がることは絶対にあり得ない。自分で自分を大事に出来ないのを理解したうえで、とっくに尽きかけている前進への熱意に鞭打って無理無理進む。
 それは武良の頑ななプライドのようでもあり、蕪武焼の狂った貪欲さのようでもあった。
ただ、二人には当然のように備わっているが恋には培われなかった自らを愛する力という致命的な欠陥を抱えたままでは苛烈な動力に脆い器はすり減っていくばかりなのも事実。
既にこれほど複雑に“生きること”自体に疲れてしまっている恋は本当のところ、自己表現で輝ける余力などないにも等しいと言っても過言ではなかったというのに。
「……う……」
 底なしの虚無に落ちるのがとても怖くてどうにか振り払ってしまいたいのに、疲弊しきった身体はぴくりとも動かなくて苦しかった。
 大きな檻を自力でこじあけた自由なはずの人生だった。否、今が最も自由でいられるはずだった。そうあるべきだった。
 だが、幸せかと問われたら正直どう答えたらいいのか分からないのだからどうしようもない。
涼しい顔で万事そつなくこなす優等生がまさか今にも狂いそうな焦燥の中辛うじて平静を装って生きているなど誰に思われるはずもない。様々な葛藤を抱え空回りながら少しづつ焼けていく身心で、今この瞬間も世界の多くに正解のない幸福の答えを無意味に問うている御幸恋とは、美しくもちっぽけなひどく未熟な脆い器に過ぎないのであった。





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BACKBORN
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1-1 株式会社C0LT

 恋の母、日登美の親戚がやってる芸能プロダクションです。親戚つっても微妙に疎遠。社長の愛野由多加ですが自身もシンガーソングライターとして表に出たことがあります。売れませんでしたが。
 ただ話術に長けていて誰とでも友好的な関係を築けたので現役時代のコネクションを活用して経営者になりました。現在軸四十九歳独身。
 恋のことは子役で預かってからずっと気にかけてきましたが同時にダイヤの原石であることに恐怖も感じていました。本来ならこんな弱小事務所じゃなくてもっと力のある大きな事務所から金をかけてもらって大々的にデビューするのが一番いいはず。本人の意思を尊重したいのは山々でしたが実際これでいいのかどうかをかなり真剣に悩みました。
 それに親との兼ね合いもあるし正直手に余るなあという心境のところ、蕪武焼から電話があります。恋が家を出た当日でした。

「愛ちゃん? しばらく。家の行ってる?」
「ご無沙汰しております……実はええ……今ちょうど事情を聞き終えて……」
「やっぱりそうか。申し訳ないねえ。たまたまさっき家に帰ったら書置きなんてしてあって」
「はあ、書置きですか……」
「俺の人生に口出すなだと。ガキがひと様に迷惑かけてまで何言ってんだと思うがしかしさ、」
「……」
「もしも愛ちゃんが迷惑でなかったら、しばらく面倒見てやってくれませんか」

 こんなん由多加が絶句するのも無理ないですよね。おめ~の子供やろがいと。たまたま帰ったってあんた毎日家にぐらいちゃんと帰りなさいよって。ふと横で疲れて寝てるあどけない顔見て一体どんな色の血が流れてたらこれを放っておけんのかしらってね。
 詳細は知らんこっちゃないけど日登美ちゃんも入院してるとかいう報道も見たしこの家どうなってるんだろうなとは思っただろうな。
 でもそれでもさ、いくら親戚の旦那とはいえまさか大物中の大物俳優の蕪武焼慎に人生の説教たれるわけにもいかないし、ましてや芸能の道挫折してて結婚もしてない子育ても経てない自分が何を言うことがあるってさ。
 しかも本人から直接電話で頼まれちゃったら由多加くんは実質イエスという以外ないわけです。こういう人間なんすよ蕪武焼っつーやつは!!!

「どうか頼む。かかった金はこっちに請求してくれて構わないから」
「……はい。慎さんと日登美ちゃんさえ良ければ責任をもってお預かりさせて頂きます。本人もだいぶ覚悟を固めて来てくれてるみたいですから」
「そう。役者になりたいって?」
「え? いえ、一応歌を歌いたいとは聞いてます」
「歌」
「歌。一緒に何曲か持ってきてくれて。完成度も高いのでデビュー用に仕上げましょうかって話をして」
「へえ、大したもんだね。全然知らなかったよ。曲なんていつの間に作れるようになってたんだか」

 ほんとこういうやつなんですよ蕪武焼慎というおとこは……。
 因みに恋は生活費を前借でと由多加には懇願しました。デビューさせてもらえたら仕事は選り好みしないで何でもやるし足りない分は他でバイトして賄うから最初の今だけはどうかってことですね。言ってることはまあ慎とあんま変わりませんね。血は争えないとはこのことですよね。

「仮にね、途中で嫌になったって泣き言言ったらペナルティでもなんでもつけて追い出してやってよ。何せ真面目なふりして投げ遣りなとこがあるから」
「はあ……」
「親の愛情のちっともしらない子だから、上手くいかなきゃすぐに癇癪起こすかもしれない。悪いのは全部俺よ。でもいつか大きな迷惑かけたら……本当にごめんね」

 再三言いますが、慎はこういう人です。核心として何を一番心配すべきなのか、例え側にはいられなくとも己の血を分けた恋という人の生まれ持った思考の癖みたいなものを理解できているところもある。それは自分が今までの人生で死の概念についてをそれなりに畏れていたことにもありますが、一番は経験上、にっちもさっちもいかなくなった時自分ならどうしたか知っているからでした。
 実は慎も十代半ばで夢に溺れて家族との縁を切っています。それからは自分ひとりで役者の道に邁進しましたがいつかぶち当たった自己表現のなんたるかという壁に向かってノイローゼのようにして突き詰めてきました。正解はありません。先人もおりません。ただただその壊れそうにもない圧倒的空虚感と、今になってすれば迫りくる余生というリミットに対して必死になって抵抗しているだけの滑稽な人です。
 だから恋の誓約書を見たとき下手をすれば「本当に死ぬ」可能性があると思ったからこそ由多加を頼りました。

「……わかりました。肝に銘じておきます。でも、なるべくそうならないようには善処しますから」
「そう? 悪いね。何もかも任せちゃうけど後で事務所に何か足りそうなものでも送っておくね」

 もちろん由多加くんは書置きになんと書いてあったのかなんて知りません。ただ、親バレしたらその時点で何があっても芸能活動は続けられなくなること、それだけは絶対に譲れない条件とだけ恋からは言われていました。その時点で預かるには普通に考えて十分なお荷物なわけですけれども……。
 それから恋はひとまず社員寮に入居させてもらえることに決まり中学卒業の資格を得るまで事務所のアンダー生と一緒にレッスンを開始します。簡単なダンスや歌唱、表現の基礎は一通り子役時代に身に着けていたこともあり周囲にはすぐに人が集まりました。
 学校に行っていなかったと聞いていたので他者とのコミュニケーションに多少なりとも何かしらの問題があると思っていた由多加くんですが、驚くほどその場所場所にすぐ馴染み誰とでも堂々とお喋りができる恋の様子を見て圧倒的なカリスマ性を見出しました。
 一応、これまでに子役として預かってきた人間に関しては絶対に一度は自分の目で見て資質を確かめてきた身。蕪武焼や武良の後ろ盾が例えばなかったとしても、これはもしや原石なんかじゃなくて既に本物のダイヤなのではないか。
 そう思った時、由多加にはかつて自分がシンガーソングライターとして見ていた景色が浮かびました。小さなライブハウス。まばらな客。どこに行っても売れない音源。由多加にとってはその時代全てが苦い経験として今も心にありました。ですから、若いうちからそんなことをさせて芸能の道に失望させるわけにはいかない。もったいない。せめてもっと人をよくよく惹きつけられる広い場所に立たせてあげられたら。ソロデビューはそれからだって全く少しも遅いなんてことはない。
 だって恋ならきっと、どの道へ行ったとしても成功するに決まっているんだから。と、いい意味でも邪心としてもそう強く思いました。

「ん? えっと、グループ……ですか」
「そう。今度うちもアイドルグループみたいなプロジェクトを立ち上げることに決まって、ちょうど売り出すユニットを検討していたんだよ」
「……ユニット」
「六人組を予定していて。アイドルとしてではなくダンスボーカルユニットなんだけれど、どうかな。恋にもメンバーに入ってもらえたら嬉しいんだけど」
「……」
「勿論、ずっととは言わないよ。要はコルトが大々的にそういうプロジェクトをやってるってことが周知されたら、養成所に人数が集まるでしょう。その子たちを君たちの後輩として育ててデビューさせていきたいって魂胆さ。まずはこの事務所の顔として活動してもらって。まあお試し、だと言い方が悪いけれど……。復帰戦が一人だと心細いかとも思うし」
「出来るかな……」
「何言ってるの、できるさ! 君には人の心を惹きつける魅力が既にある。これまでの楽曲ももし可能ならこれから作るものも、良かったらユニットで使っていかないか?」
「えっ? いや……一応、お仕事の話なんでそのグループ活動の方は俺がやれること頑張りますけど……曲はさすがにまずくないですか……?」
「? どうして? 完成度は十分だし、嫌でなければ六人用に編曲を依頼することも出来る。負担なら仕方ないが、せっかくいい曲が作れるのにもったいないじゃないか」
「……。やっぱちょっと、今は自信もってはいって言えないかも……考えさせてください……」

 良くも悪くも恋はこれまでの人生の影響で客観的視点が成熟していました。これをしたら第三者からはどう思われるかにしぬほど過敏になってしまうとでもいいましょうか。さぞ生きがたかろう。アイドル的な活動とか最初は正直むっちゃ嫌だったろな。でも、生活費をお願いしてるしなんでもやるよって言っちゃってるし、、笑
 なんというかここにきて由多加が思ったよりも浅はかな考え方の大人だったってことに気づいて少し諦めたとこもあると思います。自分だったらそうはしないけど今はやるしかないよねっていうせっかく思い切って全てを捨ててきたのに自分勝手に振り切りきれないのが恋の可愛いとこですね。飽くまでも育ちがいい恵まれた環境の子だっていう潔癖感とか清潔感を忘れたくない設定のひとつでもあります。
 まあ、おちとしてそんな由多加が代表なので残念ながらコルトとは大企業にはなれない宿命ってとこでした。ちゃんちゃん。









1-2 ワンスリー

 〝みゅう〟というあだ名が生まれたのは、ワンスリー内にレンという名前の子が二人いたからですね。
 同年代にあるあるの現象ですよね。多分生まれ年の人気の名付けが影響しているとみた。
 事前にメンバーとなる人達の名前が一覧で知らされていたこともありまして、顔合わせでは自己紹介もそぞろにして早速呼び方の話になりました。

「伊波連と望幸恋かあ~」
「まあ今までも結構れんいたけど俺ずっとれんだったなあ~……」
「なら伊波くんがレンでいいんじゃん? 俺は苗字でしか呼ばれてなかったし」
「ちな望幸恋って本名?」
「うん。でも字は社長があててくれたんで実質芸名っす」
「なるほど。みゆきィ」
「ミユキ~」
「は~い」
「えーあのあの、でもさ、みゆきちょっとアレじゃない? イメージ戦略で既に負けてる気しない?」
「あ分かる。あず麻みゆきちゃん?」
「ああ……」
「ンン~否めないっ」
「え……? そもそも彼女グラビアだが」
「おっぱいでかいもんね……」
「可愛いし……」
「聞いてる……?」
「みゆきれん……みゆ、ゆき、ゆきは北条優希ちゃんいるし……ミ~?」
「み~???? さっきからグラビアが引き合いなのは何で?」
「ん~……みゆかあ……」
「みゆ……」
「聞けよ。しかも何でちょっとしっくり来てない感じなの??? もう別にみゆきでよくね?」
「みゆ~」
「みゆゆ~~」
「うわなんかちょっとヤダなそれもう」
「きゃ~~みゆ~みゆく~んこっち向いて~」
「わ~アリガト~~」
「わはは。美人の割にノリヨ。俺みゆきのことスキ」
「ありがとな……」
「ねえでもみゆは確か有名なティックトッカーが……」
「もういいよ」
「じゃあみゅうは?」
「みゅう」
「みゅう……」
「ポケ●ンじゃん」
「うん。マボロシのね。白くてつるっとした」
「人をモンスターにするんじゃないよ」
「ま、語呂いいしひとまずそれでよくね? よし、次はメンバーカラーか」
「よかねえわ」
「おっみゅう赤じゃん。センター抜擢?!」
「ア、まっ……じか。待て、リーダーって何だ? 聞いてない……」
「戦隊ものみたいだなあ~。まあみゅうはキャラ的にもリーダーっぽいし異議無~し」
「初回から既にツッコミだもんね。頑張って」
「部活みたい~。よろしくねみゅうちゃ~ん」
「……書いてあるならしゃあないけど……言っとくけどさ、何でもかんでも押し付けたら病んで自殺するから」
「コワ!!! メンタル豆腐じゃん!!! リーダー向いてないよ!!!」
「強制の肩書は連帯責任だから」
「まあまあ」

 こうしてデビュー当初からメンバーから積極的にみゅうと呼ばれているのを聞いたファンがこぞって真似して早々に定着。そのうち呼び分けの為にマネージャーやスタッフからも呼ばれはじめ、今では唯一無二のものとなりました。ちゃんちゃん。
 たまにいるよね。いや一体どんな経緯でそのあだ名?????って子。
 思ったよりヘビーな理由からくだらん成り行きまで幅広くてそういう逸話おもしろくてだい好きです。



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