I、ミゼリコルド家

  ミゼリコルド家─死刑執行人─



  1743年11月25日、私は死刑執行人の家系であるミゼリコルド家の長男として生まれた。
 ミゼリコルド家は、イヴェール王国の首都リュエイユのはずれの方に存在する「アンシャン」という地域に代々暮らしている。
 両親は紛れもなく死刑執行人の一族である。父トマはミゼリコルド家の三代目当主で、私が成人する前までは現役の死刑執行人だった。
 この国には「死刑執行人組合」という組織が存在し、死刑執行人(の家族)とその助手が所属している。死刑執行人は地域ごとにそれぞれ割り当てられており、ミゼリコルド家はリュエイユに配属されている。
 先代が腕のいい処刑人として名を馳せ、国の命令で首都に配属されることになったようである。処刑技術や知識は地方の処刑人の水準を上回るほどだったらしい。それもあっていつしか死刑執行人組合の首領のような存在となった。リュエイユではでミゼリコルドの名を知らない者はいないとさえ言われていた。
 イヴェール王国の死刑執行人は世襲制である。その家に生まれた男子は将来の死刑執行人になる他に道はない。私も例外なくその運命を背負う身であった。
 ところで、死刑執行人の存在について語るには、我らは世間から忌み嫌われているということも忘れてはならない。
 忌み嫌われている理由としては、その役職そのものに原因があると私は思っている。
 多くの民衆の目には我らの姿が恐ろしく映っているのだろう、無慈悲に見えるのだろう。
 残酷な人間だとか、もはや人間ではないとか、そんな言葉は何度も耳にした。死神とすら比喩されているのだから。
 街に出れば白い目で見られ、避けられたりもする。買い物すらままならないこともある。私たち死刑執行人も同じ人間であることには変わりないのだが、社会的地位はあまり高くなく、それに加えて特殊な役職であるためこうした扱いを受けてしまう。
 死刑執行人組合の中の頂点に君臨するミゼリコルド家でさえこうした忌まわしい目で見られている。
 幸か不幸か、生まれて数年の間は自分が処刑人の子供であることに気付きもしなかった。
 私が本当にそれを知ったのは─自分の運命の歯車が動き出したのは─わずか八歳の時だった。
 恐ろしくも残酷なことに、「無垢な子供の世界」でそれを知ってしまうこととなる。 
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