第一夜(大学生×歳下の家庭教師な幼馴染み)

 こんな夢を見た。

 まだまだ惰眠を貪っていたい日曜日の午前九時、部屋の窓がガラガラ、ぴしゃん! と乱暴に開け放たれる音で飛び起きた。
「――まだ寝ていたのですか」
 ため息もそこそこに、二階の窓のサッシをよいしょと乗り越えて無作法に踏み込んできた男、十条要。隣ンちに住む俺っちの幼馴染み。あだ名はメルメル。
「くぁあ〜……ンだよ泥棒さんかと思ったじゃねェかこの野郎……」
「はあ。俺がいつ来てもいいように年中鍵を開けっ放しにしてるのはどこのどいつですか。早く顔を洗ってきたらどうです?」
「ん〜……」
 隣同士の一軒家で育ったメルメルと俺っちは、この窓を通じて知り合った。むかァし、夜、ふと窓の外を見たら隣ンちのベランダで歌を歌っている奴がいた。ガキは怖い者知らずだ。プリティなガキの頃から幸いにして運動神経の良かった俺っちは、小学校で習ったばかりのピアニカを背負って手足を目一杯伸ばし、お隣のベランダに降り立った。ドラマチックな出会いっしょ? さしずめ俺がアラジンであいつはジャスミン。空飛ぶ絨毯はねェけど、あいつの歌に合わせて適当にピアニカを弾いてやったらもう、俺らの間に友情は生まれていた。夜だってのに騒ぎすぎて互いの両親に叱られたモンだが、それも絆を結ぶのを手伝った。メルメルとはそれ以来の付き合いだ。
「いい加減起きなさい、寝坊助」
「いッで! 可愛くねェ!」
 ぱしん、平手で頭を叩かれた。付き合いが長いと良くも悪くも遠慮が無くなる。今や連絡も無しにずかずかと人の部屋に上がり込んでくるし、顔を合わせりゃお小言だし、それに加えて。
「可愛くなくて結構です。院試、もうすぐでしょう。今日は刑事訴訟法の百五十六ページまで終わらせるのですよ」
「厳しすぎっしょ……」
 そう、奴は俺っちの家庭教師でもあるのだ。
 あまりに成績優秀なメルメルは某有名大学法学部の飛び級卒業を決めた(後から入学して来たのに先に出ちまいやがる。そんなのアリか?)。俺っち自身は一応弁護士になるつもりで、大学院に進学するべく試験勉強をしている。そんな折「俺が教えましょうか」と奴から声を掛けられたのだった。
「無理に決まってンだろ!」
「――何故」
「流石にキツいっしょ、俺っちのが歳上で先輩なのにおめェに教わンの? 俺っちにもプライドがあるっつうの」
「……また、」
「あん?」
「また昔みたいに天城と、部屋を行き来して小さな頃みたいに……会えると思って。はしゃいでしまいました、すみません。嫌ですよね」
「ヒェッ⁉ ちょ、嘘嘘! ごめんメルメル、俺っちのカテキョやってくれンの超嬉し〜! おめェなら安心だわ!」
 今思えばあの時のアレは嘘泣きだったわけだが、お兄ちゃん気質の強い俺っちはコロッと騙されてそんなことを言ったっけ。メルメルが家庭教師になってまでウチに通いたがったのは、同居人のニキが日替わりで作ってくれる飯と手作りスイーツにありつくためだということに、のちに気付く(あいつもメルメルの数少ない友達だ)。
 先生としてのメルメルはそれはもうスパルタだった。ノルマをこなすまで休憩すらろくに取らせちゃくれねェし、論文の出来が良かったところで褒めてもくれねェ。今日だって十分休憩を一度挟んだだけで、午後の二時までノンストップだ。
「この問は昨年似たようなのが出てますね。重要度はSランク、判例集の八十八ページを――こら天城、居眠りをやめなさい」
「ん、あァ、きーてるきーてる」
「あんたな……。肘置きにしてるそいつの角でぶん殴りますよ」
「六法全書を人殺しの道具にしちゃ駄目っしょ〜?」
「なら俺が人殺しに走らなくても良いように真面目にやってくださいね」
 メルメルは本当に熱心に教えてくれる。それは大いに結構。けど俺っち的にはそれだけじゃつまんねェンだよなァ。
「な〜ァ、メルメルゥ」
 上体をぐでんと倒し、机に頬をくっつけて右斜め前の彼を上目遣いに見上げる。一緒の炬燵に入っているそいつは長い脚を真っ直ぐ伸ばして座っていた。俺っちはそろりそろりと胡座を崩して、つま先で悪戯を仕掛けることにした。
「ひゃっ⁉」
 炬燵の中で器用に足を動かしてメルメルのメルメルをつんつんしてやる。びっくりしたのか可愛い声が上がった。
「セ〜ンセ♡ 過去問よく出来てたっしょ? 俺っちそろそろご褒美欲しいっ♡」
「ン、天城っ、やめ」
「やめろだァ〜? おめェだって期待してる癖に」
 そう断言すれば奴はぴくりと肩を揺らした。図星。
「今日おめェはウチに俺っちしかいないタイミングを見計らって来たよなァ? 手ェ出されンの待ってたンじゃねェの? ……反論は?」
 ぐにぐに。足の裏の広い部分と指を使って中心を刺激してやれば、炬燵の中だということを差し引いてもそこは明らかに熱を持ち始めた。
「ッふ、まだ、昼間ですっ、からぁ」
「へェ、昼じゃなきゃ良いンだ? 幼馴染みの『生徒』とエロいことしても」
「揚げ足を取るなっ……あ♡ 駄目、だめっ♡」
 抗議にも構わず足で刺激を与え続けていると、メルメルが顔を隠すみたいに背中をぎゅうと丸めた。おや、と思った次の瞬間には靴下越しにじんわりと生温いものを感じる。隠れて見えないけれど、彼の履いているスキニーの股間部分は今頃エラいことになっているだろう。
「きゃは、ちょ〜っと早えンじゃねェのメルメル? 最近抜いてなかった?」
 メルメルは机に突っ伏したまま、急激に高められて乱れた息を整えながらこくこくと頷いた。思い通りに事が運んで俺っちはにやけ笑いが止まらない。この幼馴染みに家庭教師を頼んで良かったことは、『先生』に手を出す背徳感をお手軽に味わえるということだ。我ながら天才的。
「うぁ、何す……」
 俺っちはメルメルの背後に回り、後ろから抱き締めるようにして炬燵に押し入った。勉強してる間ずっと気になってたンだよなァ、白いふわふわのニットの、Vネックから覗く胸元が。
「『生徒』を誘惑するなんて悪ィ『先生』だなァ、ん〜?」
「誘惑なんて、してな、ァ、天城っんん♡」
「小せェ頃みてェに呼んでくれねェの?」
「っく、り、んね……♡」
 広く開いた襟元はあっさりと手の侵入を許して容易く乳首に辿り着いてしまう。触りやすくて良いし、今度から毎回これ着て来させるか。
 先端をかりかり引っ掻くと、そこに弱いメルメルは身を捩って抵抗した。けど今はでかい男ふたりで炬燵の中だ。逃げようとしたところで満足に身動きも取れないどころか、下手に暴れるとそこらじゅうぶつけちまう。
「あッあ、ッ! 痛った……」
「あ〜あ言わんこっちゃねェ。大人しくしてな〜?」
 膝小僧を強かに打ち付けたらしくメルメルは涙目になって逃げるのをやめた。そのままじっとしててくれると有難い。
 室内とはいえ冬の冷たい空気は容赦なく肌を刺す(エアコンをつけると俺っちが居眠りするから使用禁止らしい)。ニットをたくし上げて胸を露出させれば、寒さのせいか慎ましく尖った乳首がお目見えする。つっても俺っちの位置からは見えねェので手探りなのだが。
 あえて敏感な場所には触れずに周りをまさぐって、肉の薄い胸を揉んでみたり乳輪を撫でてみたり。時折事故みたいに指が先端を掠めるとひゅっと息を呑む音が聞こえて気分が良い。固唾を飲んで俺っちの指の動きに集中する奴を、翻弄する快感。優越感。愉しくて仕方ない。
「も、触るなら、ちゃんと、触ってくださ……」
「ん〜。メルメルこっち」
「ん……♡」
 実はコウイウことをするのが初めてではない俺ら、こう言ったらキスの合図だということをこいつにはもう仕込んである。はふはふと息を荒げたメルメルが首を傾けて振り返る。首席卒業の優等生様も今だけは俺っちのモンだ。
「ふ、う♡ ン、んむ」
 息をするのもやっとという様子で必死にキスに応える幼馴染みは可愛い。女を知らねェうちに俺っちとこんな関係になっちまったのは、ちょっとばかし気の毒だとも思うが。
 逆に経験豊富で器用な俺っちは、口内を舌で嬲りつつも乳首を苛めるのを忘れない。メルメルの腰が揺れ始めて、長いキスで目もとろんとしてきた頃、そろそろかと舌を絡め取ってじゅうっと強く吸い上げた。同時に焦らし続けたふたつの突起を摘んで引っ張ってやれば、そいつは固く目をつむってびくんびくんと大きく痙攣した。
「〜〜〜ッ! っ♡ っん♡ うう♡」
「っは、どォ? 乳首でオンナノコみてェにイく気分は♡」
「は、あ……♡ さいあく、です……っ」
「ウーソ、〝ヨかったです♡〟の間違いっしょ」
 メルちゃん十点減点。今度は俺っちが家庭教師よろしく告げてやる。素直じゃないのはいただけないが、とは言え初めての乳首イキは『大変よく出来ました』なのだ。
「メルメルが可愛いから今日の課題は中断な〜。おまえが素直に気持ちいいって言えるまで、ずーっと乳首弄っててやンよ♡」
 ここからは燐音先生のエッチなお勉強のお時間でェす。なんつって。
 涙を溜めた瞳が物欲しそうに見つめてくるから、今日は当分課題に戻れそうにねェなァなんてにやけながら、ひとまず机の上の参考書をバサバサ床に落とした。





【きみ(ンち)との距離50センチメートル】





・大4の22歳×大卒決まった19歳
・いずれ燐音が弁護士、HiMERUが検事になって法廷で対決します
・ニキは飲食のバイトを掛け持ちする料理人志望のフリーター
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