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 兄さんは与えることに特化したひとなんだと思うよ。受け取ることはすこし苦手なのかな。
 昔……故郷にいた頃、狩りでウサギを獲ったことがあってね。いつだったかの兄さんの誕生日に、どうしても何かを贈りたくて、初めて僕ひとりで狩りに出たんだ。獲物を持って帰ると兄さんは「よくできたな」「すごいじゃないか」ってたくさん褒めてくれた。でも受け取ってはくれなかった。「おまえの手柄を横取りしろって言うのか?」って、苦笑いしていたのをよく覚えているよ。兄さんが狩った獲物を独り占めするなんてことは、決してなかったのにね。
 ……そういえば、山を歩いていたら偶然美しい沢を見つけたことがあってね。太陽がいちばん高くまで昇ると、水面が眩しいくらいに煌めいて本当に綺麗で。どうしても兄さんに見せたいと思って、連れていったんだよ。兄さんはそれはそれは喜んでくれた──「俺達だけの秘密ができたな」って、初めて見る顔ではにかんでいたっけ。

 ……急に兄さんとの思い出話が聞きたいなんて、どうしたのかな? 故郷での話をすると、藍良にはよく「信じらんなァい」って青い顔をされるんだけれど……ウム。HiMERUさんは、昔の兄さんに興味があるんだね。それもそうか、あなたは兄さんにとっての大切なひとだから……どうしてぎょっとするんだ? 僕はおかしなことを言ったかな。
 おや、巽先輩。まだ起きていたんだね。「愛は惜しみなく与うもの」……? どういう意味かな、HiMERUさんは知って……困ったな、顔を隠されてしまったらわからないよ。
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