6話
BACKBONE.
6、偽物の個性(上)
さて、例によって“晴祝慶人”というキャラクターが界隈中に知れ渡ったのは言うまでもなかった。
渦中の慶人が何より驚いたのはたったあの一瞬とも言える露出ひとつで、これまで百数人程度だった公式のSNSのフォロワーがあっという間に三千人を超えて今も少しずつ増えていっているという恐ろしい事実だった。
分かってはいたはずなのに望幸恋の影響力の強さはやはり尋常ではなくてとりわけ身近なところで起こっていった現実的な変化についていけずにもたもたしてしまうのは実に欲目のない慶人らしくもある。
実際このあたりから、周囲との関係性がいい方向にも悪い方向にも変わったのを敏感に察していた慶人にとって“今まで通り”に“自分らしく振舞う”のを貫くこと自体が何よりも疲弊の根源であったのは間違いなかった。
「ハレさんー、写真とろーー」
「あ、うん」
「ハレ、次こっちにも入ってくんない?」
「あー、うんー……」
さして仲良くもなかった同期生や先輩後輩までもが印象操作の為に毎日毎日撮りたくもない写真をせがんでくる地獄。
元から他人との距離が近くはない傾向にもあったし、烈火の如く発せられる他者からの剥き出しの闘争心に翻弄されて慶人の心はより深く疑心暗鬼に陥った。
本来こんなに目立っていいほどの実力など全くないと自覚もあるから尚更。名前が売れるということとはそこに他者にとっての価値がないと意味がない。慶人にとって有名になることが目標でないという時点で名ばかりが先走って光ってしまうのは強い焦りを生んだ。
以前に比べ見られているならもっとちゃんとやらなくてはという気持ちが芽生えたのは確かだが、だからと言って、急にパフォーマンス力が向上するわけでは当たり前だがないわけで。遥か先に行ってしまった自分の名前を追いかけながら今やれるだけのことをコツコツやっていくしかないという現実とは、慶人にすればどうしようもなく高い塔を地べたから見上げているようなそんな焦燥でいっぱいだった。
「晴祝お客さ~ん。オンナ~~」
「ええ……」
「ファンレターってやつじゃね~~~???」
「……ああ……」
そしてそれはついに、今までどれほどコルガバで暴れても全く話題にはならなかったはずの学校生活にも影響を及ぼしはじめた。
呼び出してくれたクラスメイト越しにちらっと教室の入り口を見てみると、他学年のリボンをつけた女の子が二人立っていて確かにこちらを見つめている。
逃げるわけにもいかないので、渋々向かうと心持ち教室内が静かになった気がした。
「あの、晴祝くん……ええと……」
眼鏡の彼女が何やらもじもじとしていたがこの話の行く末を慶人は既に知っていた。否、もう分かっているも同然だった。だってこの一年何度このやり取りをしたと思っている。
やれ彼女は事務所所属のメンバー宛の手紙を持っていて、何かのついでに渡して欲しいと言うことだろう。だが残念、コルトの規約で事務所の窓口を通していない一般の贈り物は一切受け取れないことになっている。もう何度も何度も同じことを言ってきた。百回は絶対に言った。だから分かる。
彼女が自分目的ではないことぐらい、十二分に。
「あの、ごめんなさい。事務所の規約でメンバーへの贈り物は受け取れないことになってて」
「え……」
「皆絶対喜ぶとは思うんで、申し訳ないんですけど事務所に送るか直接受け付けに持って行ってもらっていいですか? ごめんね」
「…………」
一瞬呆けた顔で固まった眼鏡の彼女だったが、次の瞬間パッとほっぺたを赤くしてちがうの!と首を振った。
「え」
「あのね! これっ、みゅうくんウルトラレアの誤植版あげたいの……!」
「…………へあっっ!?!?!?!」
「この前SNSでいいねしてくれたでしょ? 私が持ってるより絶対いいと思ってっっっ」
「え、これあれ?? 裏がサンくんのやつ!?!? こ、こんな、ダメだってっ貴重でしょ!?!?!? ああっでも写真だけとらせてくれっっそれで満足するからっ……」
「ううん、いいの。みゅうくんの誤植そんなに欲しがるの晴祝くんだけだからきっと」
「そんなことっっっ……あ、ちょっと触っちゃったごめくぁwせdrftgyふじこlp……」
予想外の展開過ぎたがコレクターとしては正直欲しすぎてテンパった。両手にカードを乗せたまま震えているとその様子を満足そうに見ていた眼鏡の彼女はじりじりと後ずさりながらとても嬉しそうな顔でこう言った。
「コルガバ見たよ! 次のテイクオフ選抜、センター投票晴祝くんに入れるからね!!!!!!」
「…………は!?!?!?!?!?」
「絶対みゅうくんパートとってね!!!!!!!!」
「いやは!?!?!?!? 待て!!!!!」
春風のような軽やかな笑い声が去っていくのを呆然と見遣るが、気が付けば手元にはレアカードがぽつんと残り、耳の奥には(((センター投票晴祝くんに入れるからね)))がこだましていた。
その壮大すぎる彼女の幻想が今の自分にはちょっとショックでふらふらと自席に戻ると前後左右でだべっていた中学からのオタク仲間が満面の笑みでヨカッタジャン!と笑う。
「よかねえ、俺にそんな期待されても困る……」
「も~チョーネガティブ~~。どうせデビューするつもりなんだし別にセンターぐらいやったれよお。背もちょっと伸びたしさあ~」
「簡単に言うなよ。ただでさえ土日しか入れないのにこれ以上俺のこと焦らすのやめろよお!」
「イマドキ小学生だって歌って踊れんだよ!? 一年も金払ってレッスンしてんだからそれなりのこと出来るようになってんでしょさすがに」
「小学生のポテンシャル舐めんなよバカヤロー!!!!」
「やれよそんぐらい~。因みにあたしら全員もう晴祝に投票入れてるからヨロ」
「……………………え…………………?」
「てかあのコルガバの放送直後にテイクオフで選抜とか、絶対皆みゅう枠にハレぶっこむでしょ。空気読めよ」
「え…………全世界敵って、こと……?」
「馬鹿だね~あんた。この場合普通”全世界味方”でしょ。しっかりやれよ!」
楽曲選抜。
これは、コルトガバメントサタデーのゲスト回のみに発動する独自企画の一つであり、番組の最後にゲストが”事務所所属グループの楽曲”が書かれたくじを引きその曲を披露するメンバーを”アンダー生”から”視聴者”が”投票制”で決めるというもの。
つまり、今回のゲストであった望幸恋が自身の楽曲テイクオフを引いたので、それを番組内で披露するメンバーを決める投票が絶賛行われているということだ。
因みに、この企画に実力の有無は関連しないが、だからこそパフォーマンス力に秀でた目立つ気概のあるメンバーが毎度選ばれる傾向にあった。全てが視聴者の投票に委ねられているのが売りなので事務所の調整は一切入らず八百長も然り。
勿論、晴祝慶人としては入所して約一年間、選抜メンバーに選ばれたことなど一度もない。例え身内がこぞって投票したとていつもの数十票という投票数に多少の色がつく程度。クラスの女子のカミングアウトには一瞬ドキリとしたものの、冷静になれば万が一にもセンターに選ばれる確率などゼロに等しい。それが良いか悪いかなど微塵も考えたことなどないほどに今の自分には関係のない話だと高を括っていたのだけれど。
「さて、投票の集計が出たのでテイクオフの歌唱メンバーを発表する。ひとまず今回のセンターは晴祝慶人」
「うそだっ」
「何事も経験! 初めてのMV撮り頑張ってネ!」
「えうそだ!?!?」
「えー続いて、サンを深艶。レンを松。すーを真木。陽をタイラ。春瀬をシイナ。面白い振り分けになったね。晴祝は初めてなので皆上手くリードしてあげてね。以上、午前の部は解散」
「いやー流石に無理かも」「まあまあ~」「てか今評価どこにいんの?名前なくね?」
「……は、え……? うそ……?」
「オーラ無さ過ぎてカメラに映るんかこいつ」「オーラなくても映るから厄介なんだろ」
こういう日に限ってマツリは本業でいなかった。あいつはいつもそうだ。現実を受け入れられずにぽつんと座ったまま放心しているとやれいつもの選抜常連メンバーが軽やかに談笑を始めたのが耳に入ってきてなんとなくぼんやりとそちらに目を向ける。
いつも自信に満ち溢れていて喋るだけでもきらきら輝く。誰の前でも努力を隠さずどこに立っても自分の全力を遺憾なく発揮出来る。それは間違いなく選ばれる素質のある人達、なわけであって。
「てか、サン様て。声質全然ちげぇ俺終わった」
「いいじゃない。挑戦挑戦~」
「いつも通りレンくんやるお前が言うとクッソ嫌味だな~~」
「しかもテイクオフか。音域やばいな。俺のどこに陽くんみを感じたのか後でアンケとろ……」
「顔じゃね? フツーに考えて新規の投票率が多いんでしょ。ゲスト出ると視聴者層一気に濁るから」
「晴祝大丈夫? 俺らいつも選抜決まるとそのまま飯行くから一緒に行こうね」
「えええ、え、……」
カーストトップクラスの|松崇仁《まつ たかひと》から優しく話しかけられ突如世界にフェードインされてどもるとその様子を見ていた|真木英央《まき はなお》と|景裡深艶《かげうら みつや》が舌打ちをしてぼそっと呟く。
「お前いつ見てもどんくさいよねまったく」
「ほんとだよ。言っとくけど、ダサいのだけは勘弁だよ。とりあえず見られるぐらいには仕上げてもらわなきゃ困るから」
急に歯に衣着せぬ悪口を浴びせられたが、正直自分でもそう思っているので真剣な顔でうんうんと頷いてしまう。
「ねえ言いたいことめっちゃ分かるよ……これって……辞退とかって……」
二人が呆れた顔になるや否や、後ろからおい、と低い声で咎められ恐る恐る振り向く。現アンダー生の中では間違いなくトップクラスのダンサーである|平良廣祐《たいら りょうすけ》だった。何も言わなかったが喜ばしくはない表情で|神戯シイナ《かなぎ しいな》も肩を竦めていた。
「歩け邪魔。辞退したい? なら手っ取り早く事務所辞めればいいんじゃね?」
「……な、なるほど~……」
言いつつ怖いので目を合わせずにすごすごと身を引くと最後尾にいた松がパン!と一度手を叩いてにこやかに笑った。
「ハイ平良言いすぎ。素直に謝って」
「……すまん。でもヌルすぎ」
「晴祝は真に受けない。大好きな推しのポジションなんだから辞退とか言わない」
「好きとなりたいは違うんだ松くん」
「お黙り♡ 晴祝がセンターで一曲やらなきゃならないって事実は”みんな”変わんないんだから頑張ろうね!」
「……えっ……?」
かくして選ばれし強者の坩堝に紛れ、選ばれざる弱者達の視線を背に浴びる晴祝慶人の運命やいかに。
楽曲『Takeoff/13』
望幸恋:晴祝慶人 14,683票
伊波連:松崇仁 10,056票
福多三千:景裡深艶 8,154票
松永陽:平良廣祐 8,099票
雀田光:真木英央 7,875票
袴田春瀬:神戯シイナ 7,859票
「あれっ俺晴祝に総票数めちゃくちゃ抜かれてるっウケる、どんなチートだよ」
「課金勢こんなにいないだろ普段。みゅうインフレ異常だなやっぱ」
「…………フウウ…………」
「前回センター誰だっけ?」
「侑真先輩」
「てことはワンスリーの曲だいぶ久しぶりか」
ほぼ無理矢理かきこんだ素うどんはまあいいにしろ、こうして改めて鏡の前で真ん中に立たされてみると、一年の時を経てなお驚くほど垢ぬけない自分の全身にいたたまれなくてどうしてもちゃんと見られず目が泳ぐ。
そしてなんとなく向かった隣の松の姿を見つめ、なんてすらりとした今流行りのイケメンなのだろうかとうっとりしてしまう。そりゃこんなスタイルと顔に生まれたらアイドル目指すよ誰だって。歌も上手いしかっこいいし、これだけ出来が良ければきっと自信も自然とつくでしょうよと。
その途端、反対隣の深艶から勢いよく背中を叩かれてぐえっと声が出る。
「お前ほんと……、もっとシャキっとしろせめて……」
「げほ、む、む、っ無理だよーーーっ……!!!!! 俺トータルまだ118日しかレッスン受けてないんだよっっ……!?!?!?」
「え、うるさ、普通にでかい声でるんだなお前」
「は? 週二しか入ってないってこと?」
「マジかー。100日で選抜歌えるのシンデレラボーイにも程がね?」
「この場合ほぼアクシデントだけどな」
深艶と平良がケラケラと笑うのを見ていると、確かに二人とも声質こそ違うけれど、どことなく漂う雰囲気はサン様こと福多三千とすーくんこと雀田光に似ているなと思う。普段から二人のことを見ている人は気が付かないし得意な音域も知っているだろうから選ばないのだろうが、初見が顔と雰囲気だけで判断するのならあり得ない人選ではないなとまじまじと見つめてしまう。
純粋に、本人たちも面白い挑戦だろうなと思った。否勿論、ベースに自信と実力があればこその話である。
というか、現実逃避が過ぎて出来る側の人の心境を想像して楽しんでいる場合じゃない。そもそも挑戦を楽しむとか初めてのMV撮りがどうとかそういうレベルに達してすらもいないのに投票で選ばれたからセンターどうぞという状況が急に心底不安になって胃がピリっとする。
「……」
無言で足元を見つめていると気を遣ってくれたのか、譜面を持った松が穏やかな声で話しかけてきた。
「ねえ、晴祝はみゅうオタだしもしかして振りとか歌詞とか覚えてたりするの?」
「え? うん、多分」
「あ、やっぱり? すごいね」
「えっあ、いやあの、みゅうさんみたいには出来ないよ!?」
「あっはは。そりゃそうだよね。出来てたら多分今ここにいないだろうし」
「ああ、はは……うん……」
変なことを聞くんだなと内心思った。というのも、ワンスリーのミュージックビデオなど振りも歌詞も正直間違いようがないぐらいには今日までに数えきれないほど見てきた。その中でも、デビュー曲でもあり個人的にも大好きなテイクオフとなれば大袈裟でなく本当にたくさんたくさん見てきたのだ。
そもそもオタクとして言わせてもらえば振りも歌詞も極力は全部覚えるのがステータス。無論、振りコピが正しいとかは決して思わないが簡単なアクションなら推しと一緒に身振り手振り出来ればその一体感も楽しめて一石二鳥なわけで。これまで絡んだ周りのオタクはそういう方向に熱心な人が多かったので若干当たり前のことだと思っていたかもしれない。
というか、今気が付いたが自分はワンスリーオタクだから振りつけも歌詞も愛ゆえに覚えられたわけだけれど、そうじゃない人は一体何のために歌ったり踊ったりするのだろう!?そして、極端に言えば興味関心のない曲やグループの振り付けをどうやって皆は身に着けるというのだろうか!?
やれ以前にも散々本物の望幸恋に諭された慶人の詰めの甘さと視野の狭さは生まれつきの悪癖とも言え、ただでさえ人の癖とはよほど気を付けて直そうとしない限り自然治癒は到底難しいものである。
ともすれば己の浅はかさに気付くのは、いつも自前の愚かさを口にしてからばかりだった。
「……え? 皆ワンスリーのことは好きなんだよね……?」
「え?」
「急~」
「俺はまあ、あの人達とは仲イイしフツーに好きだけど……?」
「好き嫌いではないかな。単純にすごいとは思う」
「先輩グルの中では好きな曲多いけど。クオリティも高いし」
「分かる。作者非公表だけどいい曲多いよね」
「……」
「てか売れてるからカッコいいこといっぱいさせてもらってて羨ましいかも~」
「ま、いうてワンスリー以降あんまりパっとしないもんね」
「深艶何したいの?」
「表紙とビジョンジャック! あと食玩系もいいよね」
「めちゃ王道な~。てかUニカはワンスリーしかやれてねえし」
「で、言い出しっぺは? デビューしたら何がしたい?」
そうして途中から、いやでも自分が異端だったのだと思い知らされてしまっては、論点の大幅に上へずれた話を松から悪気なく振られてもすぐにはいい答えが思い浮かぶはすもない。
「……うーん、えっと、俺はまだそこに行けないってことしか、分からない……」
「……」
「え~……」
だがただひとつ、この五人の言葉から分かったことがあるとすれば例えその曲に興味がなくても誰が好きでも嫌いでも自らがステージ上で歌って踊り何かを表現して生きていくという未来をもう既に決めてある人達なのだとそれだけはとてもよく理解できた。
所謂既に向こう側だった。未だ同じ世界に生きているとは認められていないみゅうさんと同じ世界側。そこに立つためにもうずっとずっと昔に決めたのであろう弛まぬ努力への覚悟を持っているからこそ踏み込むのを躊躇うほど美しく輝く向こう側の世界に自分は相応しいと思えるだけの自信が”ある”人達。
よもやここに来るまで想像も出来ないほどの時間を費やしてきたであろうその各々の年輪を思うと何故だかとてもまっすぐな気持ちになる。
ならば、これほど真剣に人生を輝こうとする人たちの足を引っ張るわけにはどうしたっていかないだろう。やれることをやるしかない。そう静かに覚悟を決めた瞬間だった。
「でも分かった! 精一杯頑張る……! いろいろよろしく頼みます!」
「やだ急にやる気になった怖」
「オウよく言った。じゃあ振りも歌詞も完璧っつーお前の本気を見せてみろ」
「ほ、本気を……?」
「いいね。最初のやばさを形に残しておくのは大事だよね」
「が、がんば、る、?」
「じゃあ先生来る前にMV仕様でやってみようか~。テンポは60ぐらいかな~~」
「ちょ、急すぎやしませんか、」
「いくよ~~、ファ~イ、シックス、せ~ぶ、えい~」
ような気分になったのはつかの間で、いざ鏡に向かってパフォーマンスの披露となるとやっぱり自分の姿がいたたまれなくてサビ前にはもう既にぐだぐだで死にそうになる。
サビが終わったタイミングで、ようやく松が拍取りに使っていたBPM60と表示されている動画を笑顔のまま止めにいく。
「うん、まずは褒めるね! 確かに歌割も振り付けも身体的には覚えてそうだったね~!」
「んじゃあ俺貶してい? オーラなさすぎヤバすぎ」
「う……」
「てか仮にさ、振りも歌詞も完璧なのになんでこんな地味のドヘタクソに出来んの!?」
「すみません……」
「細かいことできないのは仕方ないにしても118日は表現学んでるわけでしょ。さすがにセンターとしての影薄すぎてお客さん見たら引くレベルだよ。少なくとも習熟度とは関係なく皆みゅうくんのパフォーマンスを期待してお前のこと見るんだよ? それでこれはないよ!」
「ン~、深艶の言い方もキツイようだけど、確かにここからどうしていこうかってなるぐらいにはあまりにも個性がないよねえ。今からひと月、晴祝の場合はまあ実質一週間弱かあ」
「……うう……」
「無理が濃厚で草」
「一週間で自信養えりゃ苦労しねえわな」
「……ドえらい企画になったなこりゃ……」
文字通り地獄の様な空気になったが、それを作り出した自覚もあるのでここで単純に落ち込んでもいられない。大体にして没個性なのは今日までのレッスンで口酸っぱく言われてきたウィークポイントであることは重々承知していた。
だから、その”個性”とやらを自分なりによくよく考える機会は存外多く、その度にでは例えば彼ならどんな風に笑っていたかとかこんな時どんな仕草で何を伝えていただろうかという表現力のド基礎の引き出しで言うと正直に言って全てが望幸恋にあるとうっすら分かりはじめていたところでもあった。ならば、例え付け焼き刃でもなんでもいい。突破口は今のところそれしかない。
「……みんなすみません……この企画、趣旨変えたら怒りますか……」
「趣旨を変える?」
仮に普通の人間が一朝一夕でゼロからヒャクに成ることなどまず不可能。だって恐らく|元々出来ないこと《ゼロ》を|出来るよう《ヒャク》にするには相当な時間が対価としてあてがわなければならないはず。
もしも突然に変わった様に見えたことがあるとすれば、それは元々”持っていたもの”であることの方がパターンとして圧倒的に多いわけで。
その理屈に無理矢理あてはめて考えるとするならば、今自分がしかも長い時間をかけてこの手にしている(仮)のは望幸恋のパフォーマンス力の全て(仮)。ならばそれをこの不遜な身体を通してなんとか表現するしか手段がないということだと思うのだ。
そしてつまり、それがどういうことかと言うと。
「いや、ていうかもう多分真面目に真似することでしかこの企画俺間に合わないと思う!!!!!! だからここは一旦ワンスリーの完コピじゃダメですか…………!?!?!?!?」
五人全員の訝し気な目にしげしげと見つめられて怖気づくが、ここで怯んでも己の実力が上がるわけじゃなし。ぐっと踏みとどまって一人一人の目を順番に見てまわる。
「は~~~~????」
「? 真似ってどういう意味なの松」
「ええ、俺翻訳機じゃないんだけどなあ……完コピならモノマネって意味じゃない? 俺はまあどちらかというといつもそっち寄りだからそれは別にいいけど」
それを聞いた平良が腕を組んで物凄く嫌そうな顔をしたのでこちらとしても物凄く嫌ではあるが我慢して受けて立つ。
「え、つかそれでお前は今よりマシになれるって思ってるってことか?」
「……え、多、分、いや、……多分……」
「多分じゃねーよふざけんな。今回俺がこの短期間でタイプ全然違う人の”モノマネ”を仕上げるって展開を受け入れなきゃならない根拠はなんなんだよ?」
「……。それは、ごめん……。でも、多分、てか絶対、俺が一か月かけて見つかってもない個性とからしさを伸ばそうとするよりも、平良が陽くんを演じた方がマジで絶対、絶対絶対絶っっっ対にクオリティは高いものになると思うっっっ」
「……え、……ん……?」
「まあそう言われてみればそっちのほうがまだ希望を感じるかも。平良が頑張れればだけど。あと深艶もかな?」
「ええ~~……? 俺がサンくん真似るのがどんだけ厳しいと思ってんのさ~~……クオリティの平均値落ちてもキレないでよ真木」
「俺かよ。別にキレたことないが。ダサいダサいうるさいのはいつもお前じゃね? ま、俺はまとまりがないのが一番ダセーと思ってるとだけは言っとく」
「むっかつく言い方だな?? いつも終盤でクソ細かいとこ詰めてくるくせにさあ」
「そんなの、ダサくなきゃ言わない」
「?? え、待て待て。受け入れる気かよ? つか例えば俺と深艶がハンパなモノマネでやって万一誤魔化せたとしても、こいつの言う真似ってのがそれを上回るもんになるって保証は無くないか?????」
「ん? ちょっと難しい」
「だって、大前提が望幸恋なんだぞ? こいつが一体どこまで望幸恋に寄せれると思ってんの??????」
平良の至極最もな意見に一瞬全員が黙り込んだ瞬間、タイミングが良いか悪いかレッスン室の扉が開く。特徴的な美しいスキンヘッドが覗いてボイストレーナーのミミココ先生(本名と性別は不明)が現れた。
ハッと気が付けば時刻は十三時を少し過ぎていて、慌てて譜面を取りに荷物へ走る。
「おはよ~~! 聞いたよお! ハレくん初めての選抜おめでと! 気合いいれてこね♡」
「っっは、はいぃ~、ありがとうございます……」
「よしじゃあまずは崖っぷちのハレくんからいってみよっか~!」
「くっ…………」
そんな調子で、その日のレッスンは午後いっぱいまで歌唱中心に終わってしまった。それぞれ多忙な各々はあとの予定もあるようで基本いつも居残りはなしだそう。
その代わり、帰り際のエレベーターホールで次のレッスン日までにとりあえず各自モノマネのていで練習してくること、それから晴祝慶人はレッスン前にまずその真似とやらを全員に向けて披露すること、という課題を持ち帰ることになったのであった。
>>>>>後半へつづく
私は非常に楽しいんだけど皆これ大丈夫??www
下におまけあり
月曜日
「なあ下駄箱に手紙クソ入ってんだけどどゆこと?」
「しらね~!! てかねえマジで選ばれてるじゃんウケるんだけど!! 何気に初めての選抜じゃね!? 髪とか染めないの!?」
「染めません! 全部お前らのせいだからな……でも、しょうがないから頑張るしかない……」
「えーーほんとだすげーーー、すっげーーーーー、スカしたこと出来ないじゃんどうすんのハレイワ!」
「だからどうもこうもねえ、ヤルしかねえんだ、とりあえず明日の中間テストを殺す」
「真面目か~~? も~超応援する~選抜がんばろうねハレイワ~🥺」
「お前らも中間テストはやんだよ! グミ食ってねえで勉強しろ!」
火曜日
「!?!?!?!」
「すごいな晴祝くん……本当にアイドルになるの?」
「え? 予定は未定だけどひとまずこの下駄箱、漫画みたいですごくね委員長?」
「うん、すごいすごいっ……て君の目のクマのほうが凄いよ!?!?!?大丈夫!?!?」
「ちょっと動画と勉強の塩梅が……だがこれで赤点とったら俺が俺を許せない」
「いやえらいけども……倒れないようにね……キットカットあげるよ……」
「えやったあ! ありがとお委員長、優しいーー!」
「因みに目標点数は?」
「50点✨」
「ンン……」
水曜日
「慶人~朝~~。遅刻するよ~!」
「…………ん」
「慶人~朝~~~。遅刻するよ~??」
「……ふ、…………ぅん……いま…………zzz」
「慶人~~。ほんとに遅刻するよ~!?」
「……ぃやだ……けど……いまいく………zz」
「ちょっと慶人!!!!!! 夜中までドタバタしるからでしょ!!! いい加減起きなさい!!!!!!」
「!? いだっ、あまぶし、っ……ウウ~~~~~……」
木曜日
「~~♪~~♪~~♪~~♪~~♪ていくおおふ♪」
「レッツジャ~ン!」
「はい!はい!!はい!!!」
「やだ~!出だしからめっちゃみゅうじゃん!案外いいじゃ~ん!」
「あ、はy、ちょちょちょストップここ思ったより早い間に合わないっ」
「えー、萎え。歩幅あ? ま足短いからなあ」
「じゃもっかいサビ前からね、3.2.1」
「はぁええよっ……ったと~えば~きみのせな~かに♪」
『はねがは~えて~いなくてもっおっお~~♪』「いぇい!」
金曜日
「……」
「……」
「…………かっこいい……(吐息)」←満員電車イヤホン視聴
「…………;///」隣
「……;////」隣
「……?///」正面
がんばれがんばれ晴祝慶人!
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