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いつ行ってもさほど顔触れの変わらない地下のバーで、見かけない二人が並んでカウンター席に座っていたのは今から十年も前になる。一人は終始にこにこ笑っていたが、もう一人は辺りを伺いながらそわそわしていてなんだか訳ありな感じで面白そうだったのでついちょっかいをかけた。隣に腰かけて二人は恋人同士なのかと聞くと、落ち着かない方が恥ずかしそうに眼を伏せ曖昧に頷いた。その向こうで「お兄さんこっち来なよ」とやけに強い牽制の眼差しで睨まれるものだから笑ってしまった。
望み通りに笑顔のはりついた男の隣に回り込んで座った。
「名前は?」
「さくや」
「そっちのお兄さんは?」
「教えない」
「ええ~あっはは! ケチすぎ! 別にとって食ったりしないよ俺。確かに美人だけどさ」
「……。だから言ったろ? 外で飲むのにお前が目立たないとこなんてないって」
「え、俺が目立つって話じゃなかっただろ……二人でいたら目立つって意味でっ……」
「てかそもそも何が嫌なんだよ。別に二人でいるだけじゃん。誰も見てないし、どこもおかしかねーよ」
黙って聞いていたなりにそれは強い口調で言ったらいけないだろ、と思った瞬間やはりあからさまに顔色を変えた美人がすっと立ち上がった。
「あー、今のでもうすげーやだ、帰る、そういう無神経なとこがいやだっていつも言ってんだよ」
「あーあ」
「!! 朗! ま、おいって……! あーもーっっ」
「ねえ」
言わんこっちゃないと思った。そこで、慌てて立ち上がったさくやの腕を掴んで美人の言う無神経さというものについてちょっと真顔でアドバイスしてやることにしたのだ。
「さくやはあの子が大事?」
「あ?」
「二人でいるだけで傷つくぐらい繊細ならもっとあの子の負担にならない方法を考えてあげらんないの」
「は、うるさ。何お前。じゃあ聞くけど、」
「……」
「好きな子と二人でいるだけの何がそんなダメなの? どこが恥ずかしんだよ、おかしいのは俺たちじゃないのに何であいつが傷つく必要があんの? 意味わかんない、繊細とかの問題じゃ絶対ない。じゃあ俺はお前にとって恥ずかしい存在なのかって話になんだよ! てか、なんも知らないくせに余計なことすんな! あと俺だけが悪いみたいに言うんじゃねえ!」
手を離すと一目散に恋人の後を追っていくうしろ姿を見て不覚にもなんかちょっとかっこいいじゃんと思った。同時に、羨ましいなとも。さくやはきっと所謂フツーの感覚で生きてはいないのだろうが、無神経なわけじゃない。好きな人が同性だというだけで堂々と道を歩けないと憂える大事な恋人の世界観を必死に塗り替えようとしているだけだ。ならば確かに余計なことをしたと思う。大いに反省した。
説教する方を間違えたなあと静かに口にしたカンパリの味は今でもはっきり覚えている。これが、嶋田朔夜と嶌田朗二との一番最初の出会いだった。
「お、いらっしゃい。奥どうぞ」
「どもども。仕事立て込んでたから超久々~。元気? さみ~ね外」
こうして朗二の顔を見るたびにその時のことを真っ先に思い出す。あのあと結局不機嫌なまま地下に連れ戻された朗二の“世間体”という、マイノリティをこの国で生きるにあたって当たり前にぶつかるであろう苦悩を聞いてやったことで意気投合した縁が今日までこうして続いている。ありがたいとも思う一方で、ちょっとだけ、ほんのちょこっとだけ、憂鬱に思ってもいた。
「……てかおま、隈すごいよ。今日泊まり行ってやろうか?」
「世戸くんにも言われたな。そんな寝てないつもりないけどね。ま、忙しくなくなったらいつでも来て」
「いや忙しくなくなったら終わりなんだよ……あ、こちら俺の雛ちゃんです。今年から付き合ってます」
「あ、ええっそういう……ど、どうも……すげえお洒落なお店で俺なんか……もっとちゃんとした服着てくりゃよかったです……」
嘘をついても仕方がないからなるべくさらっと通過したい一心での事だったが、一瞬びっくりした顔をした朗二は次にはごゆっくり!とぱっと笑ってから、すぐにカウンターへ戻っていってしまった。途端、やっぱり連れてくるんじゃなかったかな、と後悔する。時期的にもタイミングはあまり良くないと分かってはいた。
久しぶりだしゆっくりしたいと思っていたけれど、今日は早めに切り上げるのが得策だろうかと考えながら席についた。
「ゆみさん」
すると、やや緊張した面持ちの和眞が大丈夫ですか、と声を潜めた。
「てかさ、俺が思ってたよりもむちゃくちゃイケメンで存在感あってびっくりした」
「え、……おいぃ……」
「いや、ゆみさんと比べてとかじゃないよ……!? でももっとなんか、話的に壊れそうな感じなのかなって思ってたから……」
「っは~~ん、ふーん、へー、あ~~~いう顔がタイプだったんだ和眞クン……ちょっといらっとしたね~~……」
「ねえええ……!」
ともすれば、壊れそうに脆くは見えないという和眞の見解はもしかしたら嶌田朗二という人生に触り慣れていない人に対する朗二なりの見せ方の一つなのかもしれないと思った。つまり、いくらかの心の余裕が出来たという見方も出来る。
だが、少なくとも今日の朗二が“絶対に死なない”という確証は自分にはまだ持てなかった。何かの弾みで投げ出す可能性がゼロだとはとてもじゃないが言い切れないのは、とっくの昔にめちゃくちゃに壊れた瞬間を知っているからなのだろうか。それこそ、八年前の今頃から今日までの間に朗二が前を向いた、強くなった、と思えたことなど一瞬もなかった。
「ゆみさんお久しぶりです」
「あ、世戸くん。久しぶり~。なんか元気そうじゃん。あいつにもちょっと分けてやってよ」
「……顔色ひどいっすよね。もう時期的にそろそろ人居ても泣き出すと思いますよ」
もう長いことここのバイトを続けている世戸くんはすこぶる合理的で無駄のない生き方に努めている印象が強い青年だった。懐いている人間にはとても献身的になってくれる一方で興味のない人間とのコミュニケーションが大の苦手。前者である自分が言うのもなんだが、普通の社会人としてはかなり生きづらい部類だろうなと察する。
でも、だからこそ大学を卒業した今でもここを手伝ってくれているのだろうけれど。
実際毎日休みなくここに通って朗二の世話を見ているも同然なのは世戸くんしかいない。本人はそんなつもりなどないのかもしれないが、朗二の命を今日まで懸命に繋ぎとめてくれているのは世戸くんだと言っても過言はない。
それぐらい世戸くんは朗二のことを気に入っている。
だって、そうでもなければ普通の人間の感覚でこんなことは絶対に出来ない。
「去年よりひどくなってません? 来年もっとひどくなったらどうすればいいんだろって最近思うんです」
例え自分が自殺を止めてしまったからという罪悪感があったとしても三百六十五日、その対象を身をもって監視し続けられるなんて。
世戸くんは滅多に感情的になったりしない冷静さを常に持ち合わせているように思うしいざとなったら頼りになる人だと信頼している。万一朗二が精神的に脆くなってしまう瞬間があったとき、タイムラグなく手を差し伸べてくれる存在がすぐそこにいるのといないのとでは全く安心感が違う。
「……世戸くんがそういうなら、去年より今の方がしんどいんだと思うし、来年ももっと、しんどくなるんだろうなあ……」
でも時折、真に人生をかけて朗二を守るべきなのは誰なのかと思うことがある。
あれ以来朗二は実家には寄り付かないと聞いているし、そうなると大方朔夜と二人で買ったマンションとこの店だけを行き来するだけの毎日。
この先誰がどれだけ真摯に朗二を想っても、きっと朗二は朔夜を忘れないし生涯苦しみながら愛し続けていくんだろうと思う。どんな人にも自分の人生がある。死んだ恋人をいつまでも想って憂える他人を自分の人生をかけて一生愛して見守り続けられる人なんていないのではないかと思ってしまうのだ。
世戸くんはまだ若いしこれからの出会いがないわけでは決してない。今は朗二の生き方を目の当たりにして責任を感じていられるかもしれないが、これがあと十年も二十年も続いたら果たしてどうだろう。
期待するのは酷だし、そもそも押しつけがましくまた、無責任だと思う。
どうしたものか、なんて一人で勝手に朗二の扱いに困っていたら世戸くんがぽつんと「俺」とつぶやいた。
「……いつか、もうちょっとだけでいいからあとほんとにちょっとだけ、悲しくなくなってくれる日が来たらいいって思うんですよね」
「…………」
「今はきっと、どんどんいなくなったってことを実感している最中だと思うから。そりゃ、何してたって悲しいっすよね」
思わず世戸くんを見上げると、いつもの無表情に更に拍車をかけた無表情でなんだか不思議な気持ちになった。
こんなに人の気持ちを上手に分かってあげられるのに、どんだけ無愛想な顔だよ、とちょっと面白くなってくる。
「世戸くん」
「はい?」
「朗二の悲しいの底まではあとどれぐらいかな」
「……えー……。まだまだじゃない……。少なくともあと数年はもっと底まで落ちていきそうでしょ?」
「……いつ頃になったら許せるようになると思う?」
あえて茶化さずに真顔で見つめると、世戸くんは仏頂面のまま少しの間考えて「老眼でもきたら、さすがに我に返るんじゃないですか」と言ってのけたのだった。
帰り際になってほろ酔いの和眞が手を繋ぎたがった。外に出てからがいいんだけどな、と思いつつ無下には出来なくて思い切ってぎゅっと握ってやると和眞は下を向いて嬉しそうにはにかんだ。可愛くて幸せだけれど、見せつけたいわけじゃないから心の奥底が痛烈に軋む。
見送りで側に立ってくれている朗二の顔は見られずにそのままドアに手をかけ外にでた瞬間「雛ちゃん」という朗二の声がして振り返った。
「雛ちゃん」
「はいっ」
「…………」
「こんなとこだけど、良かったらまた二人で来てね。忙しいと思うから体には気を付けて」
「あっ……ありがとうございます! 料理もお酒もおいしくてお洒落で、絶対またきますっ」
「いい子で良かった。ゆみをよろしくお願いします」
思わずぐっと手に力が入った。朗二はもう二度と朔夜と手を繋ぐことは出来ない。頼ることも縋ることも言葉を届けることもまた、愛されることも。その現実をつきつけたのは自分? 罪悪感で吐きそうになってしまう。やっぱりまだ早かった。連れてくるんじゃなかった。大事に思っているはずなのに傷つけてしまう可能性のある選択をどうしてしてしまったんだろう。
人生とはどうしてかこう、いつも後悔ばかりだった。
「……ゆみさん」
そんな気持ちの硬直が触れている手のひらから全部伝わった、のかは分からないが、和眞は握っていた手を突然離してしまった。
そして二人の間に立って朗二の右腕、自分の左腕を掴んで強く引き寄せた。
「俺もがんばる、けど、これからもゆみさんのこと、どうかよろしくお願いします」
「……っかずまく……」
「今日ここに来るまで行先知らなかったし、多分俺と来るかは直前まで迷ってたんだと思います。ゆみさんは俺のことすごく大事にしてくれますけど、同じぐらい店長さんのこともお友達のことも大事に思ってる人でしょ。なのに、二人で勝手に傷ついて何も言わないでこのまま帰ったら、もしかしたら次来られなくなるかもしれない。俺はそれ絶対嫌なんで、ちょっとでいいから、触ってください。またくるって、……ゆみさん。くるよね?」
台本があるわけでもないのに何を食わせたらこんなにドラマチックな言葉がアドリブで出てくるだろう。何か言わなくちゃと思えば思うほど何を言っても今は朗二を傷つけてしまいそうだと思うとそれだけで怖かった。気の利いた言葉、当たり障りのない雰囲気、いつもどんなことを話していたか思い出せない。好きな人と幸せでいるだけで朗二との接し方が全く分からなくなる。それは誰にとっても不幸なことだった。頭で理解は出来るのに。
和眞にいくらそう促されても狼狽えた自分の喉からは言葉が出てこなかった。黙ったまま俯いてしまう。
「……」
「弓美弥」
名前を呼ばれて恐る恐るようやく目を合わせると、疲れ果てたその柔和な笑顔の裏に隠された今までの何から何までが一瞬で自動再生されてフラッシュバックする。
二人は恋人同士なの? さくや 教えない 何が恥ずかしいんだ 好きだから傷つくんじゃないの? 幸せになってほしいって思うもんでしょ 不幸上等 一緒にいられるなら別に泣かせたっていいもん 平等。どっちが弱い立場とかない 明日わたそっかなって 雨なのに? うそだ 朔夜 朗 朔夜、起きて 死なないで 死なないでよ 朔夜がいない どこにもいないよ ここでずっと待ってる 弓美弥 すごい寂しい 今日はいて おかしくなりそう どうしたらいいか分からない
「朗……」
死んでも会えないって分かってるのにこのまま悲しいのもう嫌だ ころして 楽にして 会いたい 朔、会いたい 一年経ってもつらい 会いたい 世戸くんが来てやめろって でも会いたいよ もう皆帰れよ もう三年って言われても分かんないよ 一人にして 疲れた 誰にも会いたくない 誰も俺の側にいてくんないじゃんか 忘れたいんだろ? うそつき 寂しい 助けて朔夜 どこにいんの もう一回会いたい 会いたい
「大丈夫。もう八年も経つんだから」
もうみんな忘れちゃったのかな? 俺が泣かないと誰も朔夜のこと思い出してくれないんじゃないかって 今度はそれが悲しくて誰のこともころしてやりたいぐらい嫌いになりそうなんだ 変だろ おかしいよね? でも
「弓美弥がそんな顔する必要、もうないからね」
弓美弥は分かってくれるよね?
俺の気がくるってるって最初に教えてくれたのは、弓美弥だもんね? 弓美弥ならこういう気持ち、理解してくれるでしょ? 誰の幸せも俺まだよろこべない ひどくても許して 朔夜がいないのに俺もう一生幸せになんてなれない それでも死ねないなんて馬鹿みたいだと思うか いつかもっと呆れたら 頼むからころして
弓美弥が幸せになろうと思ったらでいいから
「…………ごめ、……ごめん、朗……違う、ちがうよ…………」
気が付けば必死になって愚かな今日の自分の選択について弁明しようとしていた。心からのシャットアウトにも思える朗二のよそよそしい言葉に自分でも信じられないぐらい傷ついてしまってパニックだった。朔夜が死んでしまった事実を忘れたわけでも増してや一人で幸せになろうと思ったわけでもない。でも、けれど、本当はよく考えたら自分の人生に夢中になる時間が多すぎて、朔夜が死んだことが意識しないあいだに過去になってしまっていたのかもしれないことは否定できなかった。
何年経っても命日が近づくにつれて不安定になる朗二が求める存在になりきろうとすればするほど、自分ではその役に力不足だと何度も思った。支えたい気持ちは嘘じゃないのに応えられないと目を、心を背けるその度に罪悪感は重たく腹に溜まっていった。
「ちがう、違うけど、……ただ、俺もう…………朗の人生に責任もてなくなってくのが怖いんだよ……慰めて満足するならいくらでもするよ……でもさ、死にたいって、ころしてって言われたら、……俺嫌だってやめてって言うしかないだろ……去年も一昨年もその前も、毎年毎年引き止めるたび、おれたちほんとにこれでいいのかって、朗の人生ってこれで合ってるのかって……」
雪のちらつく大通りで、大の男がこれまた男に縋りついてしゃくりあげる光景がまさか現実にあり得るシーンだとは今日まで思ってもみなかった。道行く人の視線を痛い程感じたが、それでも八年分の鬱憤は止まらなかった。どうしても生きていてほしいと思う反面、それを求める責任を果たせていたかどうかという葛藤が芯から身体を震わせた。
「しんでほしくないよ……生きててほしいけど、こんなに苦しいままずっとずっと生きてくのを見るのも、俺はつらいんだよ……世戸くんはあと何年もかかるだろうって平気な顔して言ってくれたけど、俺それが正しいことなのかわかんない……朗……ごめん、俺一人だけで幸せになりたかったわけじゃない……喜んでほしかったわけでもなかった、だから今日は俺が悪い……ごめんね……ごめん……」
さながらノンストップでの長まわしだった。でもそうして息を切らして今まで言いたかったことを根こそぎ全部吐き出してしまったら、頭のなかが空になったみたいにすっきりして同時にのぼせていた思考は嘘みたいに冷えた。
「…………」
だから急にめちゃくちゃ寒くて驚いた。吐く息が真っ白に形づいている。そういえば朗二は薄着だったのに、と突然思いだして身体を離そうとしたが割と強めに抱きしめられていて身じろぎした。
「……朗、……寒いな……」
「さむくない」
「……風邪ひく……なんかいきなりすごい感情的になった、ごめん……絶対またくる……店戻って……」
「馬鹿じゃねえの、戻れるかよ」
より強くぎゅうっとされたせいか目から涙が出た。朗二の身体はとても温かかった。真横では和眞が鼻を啜るのが聞こえる。
それから、朗二の息で耳元が何度か繰り返し湿っては冷たくなった。静かな言葉が脈打つように規則正しく続く。
「あってるかは、もうわかんないけどさ……みんながいるから、ずっと悲しい悲しいって言いながら生きられるのは間違いないんだよ……」
「……」
「マジで死にたいと思うこともあるよ、でも……それもやんないまま前にも進まないのは俺の意思で、たぶん死ぬまでこうだからさ……それは、変えられ、ない、……けど、弓美弥が付き合えるときだけでいいから、朔夜がいないって言っちゃう俺のこと、見捨てないでいてくれよ……」
「…………」
それは、死ぬまで悲しむという地獄を選んだ嶌田朗二という終わり方の話でもあった。一生苦しむ代わりに死ぬまで生きる。無論、はじめから正解などない人生の歩き方を本当は誰に決められるはずなどなく。
何でか心にすこんと穴があいた気がした。
「…………わ、かった……」
そこで初めて、ずっとこの八年間求められているものだと思っていたのは自分だけで、実際はこちらが過剰に求めすぎていただけのことだったのかもしれないと思った。
こういう風に生きて欲しい。ああいう風になって欲しい。何より自分自身が一番に、そういう期待を疎んで生きてきたはずだったのに。
いい加減身じろいで離れると、もう一回真正面からちゃんと見た朗二のひどい顔はやっぱり八年前と何一つ変わっていなかった。ともすると、変わらないでいようと無理に頑張って努めていたのかもしれないとすら思う。
ふと世戸くんの言葉が過る。いつか、もうちょっとだけ悲しくなくなってくれる日が来たらいいと思う。今聞いたら悪魔の言葉にしか思えなかった。
「…………」
だってそしたら、果たしてそれは誰にとっての幸せなのだろうなと、また分からなくなって少し俯いてしまった。
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