すだち
あくる日の話
「喜代美ちゃん、聞いてくれ……! 四草のヤツ財布にオヤジのピカピカしたシール入れててん…あれほんま浮気やで~!」
「シール、てもしかして、……。」
「そうや、あのシールや。」とオレが言うと、喜代美ちゃん、真面目な顔して「四草兄さんの師匠シール、レアなやつ当たったでえ、肌身離さず持っててもおかしないと思います。」と言ってハンドバックの中をごそごそと漁ってる。
え、何?
何が始まってんのや、と思ったら、やおらパスケースを取り出して、中から定期券を出して来た。
「わたしのはこれです!」
いきなり目の前に出されたオヤジのシールは、なんと蜂蜜みたいな黄色に光っている。
「ええ?」
「オレのもこれや!」
草原兄さん……いつからそこにいてたんですか?
まあええか、怖いから聞かんとこ。
「若狭お前、なんでこんなギンギラのシールなんか作ってんねん! しまいにはバチ当たるで!」
「……そうかて、子どもが起きてくるの、五時前ですよ?」
「オチコちゃんか……。」
「締め切り前で布団に入ったの十二時やのに、お腹空いた、て身体の上に乗られて。草々兄さんはいびきかいてるし……寝てないときに作ったグッズなんて、こんなんなるに決まってます。」
草々は、腕組みしてしまった草原兄さんの後ろで、何か言いたそうにぼんやり突っ立っている。
お前、もしかしたら、そらええわとか、お前の好きにせえとか、喜代美ちゃんに適当に返事してしもたんと違うか?
『草若ちゃんの底抜けステッカー』が一時バカ売れしたからって、拗ねてもうてまあ……。
「それにしても、ギンギラにして色違い作るとかやり過ぎと違うか?」
「兄さんのそれでええやないですか…オレのなんか色がこないですよ?」とやっと草々も会話に参加して来た。
お前、珍しく黙ってたと思たら、財布から自分のシール出してただけかい!
「おっ、紫で座布団みたいで渋いやないか……俺のと交換するか? 金のエンゼルならぬ、金の師匠やで!」
「!?」
これで宝くじ買ったら当たるかもしれへんぞ、と適当なことを抜かしてはる。
「いやあの…こっちでええです。」と草々が引き下がった。
まあ、喜代美ちゃんのとこのおじさんみたいなことをオチコちゃんが言い出しても困るし、お前はそれでええ。
ってどないやねん!
なんでみんなそないにおっさんのシールに必死やねん!
オヤジのシールやぞ!?
……まあええか……オレも一枚普通のヤツもらっとこ。
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