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リク 耳掻き(つどい)

 縁側に並んだ子供たちが、順番に土井の前に座っては耳掃除をしてもらっている。年長の子も、他の小さな子たちも、大人しく土井に身を任せていた。
「はい、次」
 土井の慣れた手つきを、利吉は感心しながら見守っていた。最後の子供の番が終わって遊びに出かけていくと、土井は耳かきを手にしたまま利吉を見た。
「利吉くんも、やろうか?」
「あ、はい」
 利吉は素直に土井の前に座った。土井の膝枕に頭を乗せ、横を向く。その自然な仕草に、土井の中に遠い記憶がふいに蘇った。
「……昔もよくやったっけ」
 まだ利吉が幼かった頃。山田家に世話になり始めて間もない土井に、利吉の母が頼んできたのだ。『この子の耳掃除をしてやってくれる?』と。
 人の耳の中など覗いたこともなかった土井は、恐る恐る耳かきを手に取った。傷つけたらどうしよう、痛がったらどうしようと、忍務ですらめったにここまで緊張しなかったというほどに緊張したことを覚えている。
 けれど利吉は、初めから何の躊躇もなく土井の膝に頭を預けてきた。まるで当たり前のように、完全に身を委ねて。
(あの時に耳掃除をしなかったら……子供の耳掃除なんて一生しなかったかもしれないな)
 今では定期的に孤児院の子供たち全員の耳掃除をするのが、土井の仕事の一つになっている。全ては、あの日の利吉から始まったのだ。
 耳かきを動かしながら、土井は利吉の無防備な横顔を見下ろした。目を閉じて、完全に土井に身を任せている。その信頼の深さに、土井の中でふと悪戯心が芽生えた。
「今私が君を殺そうと思ったら、一瞬で済むな」
 冗談めかして呟くと、利吉は目を開けもせずに答えた。
「別に構いませんよ。あなたなら……」
 あまりにもあっさりとした返答に、土井の手が止まる。
 胸の奥で、何かが熱く疼く。利吉は本当に、命さえも土井に預けている。土井は耳かきを置いた。そして膝の上の利吉の顔をじっと見下ろした。
「利吉くん」
「はい?」
 目を開けた利吉と、視線が合う。土井は少し躊躇ってから、言葉を紡いだ。
「……今夜、部屋に来て」
「え?」
 利吉が驚いたように目を見開く。昼間からこんな誘いをするなんて、土井らしくない。けれど、もう止められなかった。
「なんだか……」
 頬が熱くなるのを感じながら、土井は続ける。
「私のものなんだと思ったら」
 土井の頬がほんのりと赤く染まっている。普段の落ち着いた様子からは想像もつかない、熱を帯びた表情。利吉は一瞬呆けたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「……ええ。私は先生のものですから」
 そっと伸ばした利吉の指が輪郭を確かめるように頬を掠めるのに、土井は利吉の髪を優しく撫でた。まだ昼間だというのに、夜が待ち遠しくて仕方がない。
「続き、するね」
 再び耳かきを手に取ると、利吉は素直に目を閉じ、再び土井に身を委ねた。
 穏やかな昼下がり。風が心地よく吹き抜けていく。子供たちの遊ぶ声が、遠くから聞こえてきた。