あるって、すげーんだぞ?
エアコンの効いた部屋の中で、ギターを抱えて交野を眺めてる。
交野は、イヤホンしてスマホを両手で持ってる。
透夜が仕上げたデモ音源に、さっき仮録音した。それを聴いてる。
ふと指を動かしては、目を閉じたり、そろそろどんぐらい時間経ったっけ。
交野は音楽が嫌い、っつーわりに音に載せる歌詞は……熱いと思う。その歌詞を謳う歌声も含めて。
……なんで音楽が嫌いだなんて言うのか、わっかんねー。そんな歌声持ってんのに。
もし俺が天才ギタリスト様じゃなくて、交野みてーに歌える天才ボーカリスト様だとしたら、ぜってー自慢すると思うけどな。んで、クソみてーな演奏する楽器隊とはケンカする。と思う。
俺様の歌声に相応しい音を奏でろヘタクソって。
んなこと考え出すと、誰に言われたかも覚えてない言葉を思い出す。
「誰もがお前みたいだと思うな」
ンなことわかってんだよ。
人それぞれ、音楽への向き合い方なんて。
楽しく弾ければそれでいい、技術はいらねーって奴らもいる。俺とは合わねーだけ。
そんなの繰り返してきた。たくさん。
でも。
奇跡みてーに演奏が、歌がが重なっていくと音楽が出来上がる。すげー楽器隊とボーカルが揃えばバンドになる。
今は、ハウロがある、そこに俺が居る。交野、メガネ、透夜、想吾さん。
この五人が揃って、バンドデビューして、リリースしてる。
この奇跡みてーな集まりの一番の鍵は、交野の歌声だった。んだと思う。
詳しくは知んねーけど、想吾さんとか、透夜の感じとか見て考えてれば、そんな気しかしねー。
そんな奇跡の中で、歌ってても、歌うことは嫌い……とまでは言わなくても、音楽は嫌いってなんの、何?
美容師辞めてまで、歌うことを選んだのかも、そのくせに嫌いとか言う、クセにクソ仕事相手にキレたりする。
交野が何考えてんのかも、どうして音楽のこと嫌いっつーようになったのかとかも、……俺、知らねーな。
昔同じクラスだった、それだけ。
別に特に仲が良かったとかでもねー。
けど、人に興味なさそうな交野が俺を覚えてた。いや忘れてたけど思い出した程度に。
……あんとき、俺がライブ連れてかなかったら、ハウロもなかったんかな。
もし、……そうだとしたら、俺すごくね?
「なあ円藤、そんなこっち見ないでくれる? 集中できない」
「あ? 見てねーよ」
「見てる……視線がうるさい」
視線がうるせーってなんだよ。
「……ていうか、ずっと抱えてるけど、弾かないの?」
「お前今曲聴いて考えてんだろ? ジャマになんだろ」
それもそうか、みたいな顔で交野はイヤホンを外した。
「あー、ちょっと休憩。円藤、なんか弾いて」
「なんかってなんだよ」
「なんでも。……あ、ルビレの曲にする? やっぱり一番最近出た」
「それはねえ!」
弾くなら俺らの曲しかねーだろ!