07. マスカット カエルの合唱(YOI)

「きめぇ……」

 顔を青ざめさせ一言呟いたユリオに、ヴィクトルが深くうなずいた。うーん、気持ちはわかる。そんな中、オタベックだけは普通の顔をしている。
 普段はハスなどの水生生物などが見える綺麗な沼地には、見渡す限りの青、そして点在する紫に埋め尽くされていた。そして鳴り響くゴワッゴワッという濁った声の大合唱。

「冒険者諸君、よく来てくれた。俺はグルーヌイユ領の冒険者ギルドのギルドマスターのグロッカヌだ!」

 その声にざわめいていた冒険者たちの声が静かになった。


 こんにちは! 僕の名前は勝生勇利。どこにでもいる普通の冒険者だよ!
 現在僕たちはオタベックの故郷、ドーン女王国南東部に位置するグルーヌイユ領というところに来ている。位置としてはオタベックの実家のあるアルティン領のお隣さんだって。オタベックの里帰りがてら今年はなんでもカエルの大量発生の年回りだって噂があったので、ちょっと行ってみようか。と、ヴィクトルが好奇心を出したのがきっかけだよ。
 カエルの皮は防水布としての需要が高く、またお肉は弾力があり、味は淡泊だけどその分色んな味付けができるということで、領内では一般的に食べられているそうだ。ちなみにコッコ肉に似ている感じかな。弾力はワニよりないかなぁ。
 僕としても久しぶりにカエル肉を食べてみたくなったので二つ返事で了承。そんなわけで四人で来たわけなんだけど……。いやぁ、久々に来たけど圧巻だねぇ。親亀のうえに子亀……じゃないけど、二重三重に上に乗っかっているカエルもいる。一番下のカエルはつぶれないんだろうか?
 全長は出会った頃のユリオの肩くらいといえばいいのか、マッカチンよりは一回り小さいけど、カエルと思うとだいぶ大きい。

「『ブルー・ドードー』と、紫のは変異種の『バイオレット・トードー』。基本攻撃は水魔術での攻撃と舌。あと体を膨らませて圧死させて来るから注意。水魔法は酸を含んでるから注意ね」

 僕たちの装備はエンチャントしてあるからそうそう劣化しないとは思うけど、念のため。前に来た時は中古皮装備だったから気にしなかったけど、今回はヴィクトルに買ってもらった魔法金属の軽鎧だからね。
 僕が軽く説明すると、ユリオが杖を握りしめてうなずいた。攻撃魔術が使えないユリオは基本生活魔法の応用で戦うことになるけど、無理そうなら後方支援に回るように約束している。ぶっちゃけ物量で押してくる相手だから、どれだけ早く倒せるかにかかってるんだよねぇ。

「やってやる、行くぜ、マッカチン、チビ!」
「わふ!!」
「きゃん!」

 ユリオの護衛はマッカチンとヴィっちゃんに任せ、僕たちは数を減らす方に集中しよう。
 そうして、カエル退治が始まったのだった。





「おー、おつかれー」
「ユリオもお疲れー」

 陽が落ちたところで本日の討伐戦は終了。どれだけ気を付けていても水をかぶるのは防げず、三人ともずぶぬれで拠点にしている家に戻ってくるとユリオが火を起こして待っていた。ユリオは途中で処理が追い付かないのと、冒険者の中に負傷者が結構多くなったのを見て後方支援に切り替えたようだった。
 どうやら去年まで活躍していた大手のパーティが年齢もあって解散したとかで人手が足りてなかったらしい。世代交代かー、こればっかりは短命種にとっては避けられない問題だよねぇ。
 なんて話ながらユリオに【浄化】と【洗浄】をかけてもらってからカエルを捌く。背中に切り込みを入れ、そこから指を突っ込むとずるんと皮がむける。

「おぉ!」
「俺もやってみたい!」
「どーぞ。指に灰をつけると滑らなくていいよ」

 目をキラキラさせるエルフ二人に場所を譲り、二人が楽しそうにカエルを解体している間にスープの準備。マッカチンとヴィっちゃんは串焼きも用意しようか。オタベックに手伝ってもらいつつユリオが起こしてくれた火に鍋をかける。
 ついでにお茶も入れよう。疲れが取れるようなやつにしようかなぁ。

 暗くなった周囲のあちこちでは同じように火を囲んでいる冒険者たちの姿や、近くの村から出稼ぎなのか、スープ売りが掲げるランプの灯りが見えた。



 その後、数十年に一度しか姿を見せないとか言われる『キング・ブルー・トードー』が現れたりするんだけど、ヴィクトルの英雄譚の一ページに刻まれるだけの結果となりましたとさ。










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