きらあこ☆異星間交流

アイカツスターズ きらあこss。
きらあこ学パロ人外SFです。
ある日きららちゃんのクラスに転校してきたあこちゃん。ひょんなことからあこちゃんの正体がネコ科の宇宙人であることに気がついてしまうけど、あこちゃんには実は地球侵略という思惑があって、異星人同士バチバチしつつもきららちゃんはあこちゃんの不思議で可愛い生態に夢中になっちゃう話です


******************************

 梅雨に入り、ジメジメとした空気に辟易していたその日、憂鬱な気分を吹き飛ばすような出来事が起こった。きららのクラスに転校生がやってきたのだ。名前はサオトメあこちゃん。ツヤツヤのオレンジブラウンの髪に切れ長の瞳は澄んだ緑色。よろしくお願いいたしますわ、と丁寧にお辞儀をして颯爽と席に着くその姿に、きららは一瞬で目が離せなくなった。
「あこちゃん、とっても可愛いな~。仲良くなりたいなぁ」
 早速話しかけてみようと思ったら、休み時間、あこはすぐに席をたって、教室から出て行ってしまった。
「どこ行くんだろ。次は音楽の授業だけど、あこちゃん音楽室分かるのかな?」
 気になってきららはこっそりと後を付けた。あこはまるで迷いなく歩みを進めていく。しかし辿り着いたのは音楽室ではなかった。理科の実験室。それも電気も付いておらず、今はまったくひと気のないその場所に入っていく。きららは首を傾げながらもそれを追い、実験室の扉を数センチ開けて中を見やった。
「ええ。入り込めましたわ。ええ。ほんとうに順調ですわ」
 あこは手に赤くて四角いブロックのようなものを持っている。あこの背中越しに見える赤いそれには、スピーカーのように細かな穴がいくつもあいていて、そこに向かってあこは何やら一生懸命に話しかけていた。ものすごく真剣にその会話に集中している。それがとても気になって仕方がなかったので、きららはそおっとドアを開けて部屋の中に滑り込み、あこのいる数歩手前で彼女の様子を伺うことにした。
「ええ。まずはこのまま学校を征服し、全員をわたくしの忠実なしもべにいたしますわ! 地球全部を征服するのも時間の問題。待っていてくださいなお母様……にゃにゃにゃあああ!? あなた誰ですのーー!? シャーーッ!!!!」
 あこはようやくきららの存在に気付いて絶叫した。背中を丸めて毛を逆立てて、しっぽは膨らんでぶるぶると震えている。
 しっぽ? よく見れば耳も生えていてそれも逆立っている。ハテナを浮かべながらも、とりあえずきららは答えてみた。
「誰ってきららだけど? あこちゃんのクラスメイトのハナゾノきらら! きららって呼んでね☆」
「ままままさかさっきの、聞いていませんわよね!?」
「忠実なしもべと地球征服?」
「にゃあああ!?!? ばっちり聞いてるじゃありませんの!!」
 あこは両手で頭を抱えて悶絶した。そんな姿もかわいいな、と思っていると、あこは腰に携えていたそれをきららの方に構えた。色は蛍光ピンク。窓から入ってくる自然光でてらりと光ったそれは、大きな水鉄砲のような形をしている。銃口は間違いなくきららの方に向いていて、あこの指が引き金にかかった。
「致し方ありませんわ、この超音波銃であなたの記憶を消して差し上げま――」
「さっきから気になってたんだけど、この耳なぁに? ねこちゃんみたい! かわい~~い♡」
「ちょっと! にゃにするんですのっ!! おやめなさいなっ!!」
 きららは全然気にせずに、あこの耳を触る。きららにはあこの言っていることが何なのか、ほとんど分からなかったし、耳としっぽに対する好奇心にはどうしても勝てなかったから。
「すご~い付け耳とかじゃないんだね。これってどうなってるの? こんなの教室にいた時は生えてなかったよね?」
「地球人に擬態するときに耳を消すのは当然ですわ。ラボの演習で最初に習うことですもの」
「そっかぁ。それで正体を隠して学校に潜入して、征服しようとしてるんだ」
「ええその通り……っていけませんわ!侵略計画を地球人に漏らすなんてお爺様の雷が落ちますわ……! ええい、こうなったら本当にやるしかありませんわね!!」
 一瞬にして空気が変わった。きららが瞬きを1回するかしないか、その間にあこはきららの手を振りほどいた。そして勢いよく足を払って、きららを床に押し倒し、細い両手首をまとめて掴んで、水色とピンク色をした頭の上で固定した。ほんの少々力をこめれば、ほら。きららは指の一本も動かせなくなってしまう。先程は地球人だと思って油断していたが、本気を出せばこんなもの。あこは笑みを浮かべながら、腰に装着していた銃のうち、先程と色違いのもう一本、蛍光グリーンのそれを流れるように構えた。白い額に銃口を押し当て、容赦なく引き金を引く。直後、緑色の電流が銃口から溢れ出し、びりびりときららの全身を蹂躙した。きららの身体が跳ねる。
 数十秒間続いたそれは、やがてゆっくりとおさまり、辺りは束の間の静寂に満ちた。
「……造作もありませんわね。まぁこれで3日は動けないはずですから、洗脳マシンに乗せて最初のしもべにしてやろうかしら」
 あこはふぅ、と息を吐いて脱力した。突然の事態にどうしようかと思ったが、要はしもべにしてやればいいのだ。地球人は相当非力だというし、力で制圧して従わせればいい。この調子でどんどんやっていきますわよ、と心の中で自分を奮い立たせたとき、あこの指先がぎゅっと握られた。
「へ?」
 まだ銃を掴んでいるあこの右手。その手を握っているのは非力なはずの小さな手。見れば、気絶したかのように思われたきららは、ぱちりとその丸い瞳であこの方をじっと見つめており、にこにこと笑っている。
「にゃにゃにゃにゃにゃーーーー!?!?」
「あこちゃん、さっきのびりびりーってしてめっちゃすごかったよ! もっかいやって~!」
「あ、ああああなたどうして!?!?」
 わなわなと唇を震わせるあこなんてお構いなしに、きららはひょいっと上半身を起こすと、あこが取り落としそうになっていた蛍光グリーンの銃を手に取って、上から下から、右から左から、角度を変えてそれを観察し始めた。
「すごいねこれ。さっきのびりびりのおかげで身体が軽くなったみたいでね。ね、あこちゃんこれ借りていい? エルザ様がね、肩こりがひどいって言ってたから、使ってあげたいんだ」
「ちょおっと!! 我らが惑星の最新技術の結晶、超電磁波銃をマッサージなんかに使わないで!!!!」
 さっときららの手から銃を奪い取り、あこはシャーッ! と八重歯を剥き出しにした。
「ちょっとくらい良いじゃ~ん。でもそれ、超電磁波だったんだね。多分そのまま浴びてたら危なかっただろうけど、緊急の演算装置防御壁(デバイス・シールド)が自動発動して、いい感じの強さで浴びれたのがよかったのかも!」
「え」
「いや~、地球の技術だと痛みを根源から取るみたいな治療の方が一般的だけど、それだと人によっては痛くなくなり過ぎて違和感みたいのが残るんだよね。でも演算装置防御壁(デバイス・シールド)で抑えれば程よく刺激だけ受けれていいね。防御壁(シールド)が緊急発動するように不意打ちじゃないといけないんだろうし、演算はちょっと多めに使うけど。エルザ様にも教えてあげよ~っと」
 嬉しそうに笑うきららとは対照的に、あこはその顔に絶望を浮かべていた。
「演算装置防御壁(デバイス・シールド)……」
 それだけ呟いて項垂れてしまう。緑色の瞳がきらりと潤んだ。ずずっと洟をすする音がそれに続く。
「まさか地球人の技術がこんなところまできていたなんて……わたくしたちの惑星の兵器が、マッサージ器……こんな程度で、地球を征服しようだなんて……」
「あこちゃん……」
 肩を震わせるあこの顔を覗き込めば、きらりと星が流れるように涙が一筋、頬を滑り落ちた。
「減少の一途を辿る人口、労働力不足で回らない経済……解決するには優秀で従順なしもべがどうしても必要ですのに……それから王家の嫡子であるわたくしは、ついでに地球で優秀な殿方――すばるきゅんみたいな素敵な方と結ばれて、強い世継ぎを生まないといけませんのに――……ううっ……ううっ、うわぁあんっ……!!」
 声を上げて泣くあこの背中を、きららは優しく撫でてやる。あこの言葉は半分くらいはよく分からなかったけど、悲痛なこの声を聞いていれば、これまであこがとても辛い思いをして重圧に耐えてきたということが察せられたから。
 きららの腕があこをぎゅうっと抱きしめる。涙が止まらなくて、あこは自然と縋るようにその肩口に顔を埋めていた。頬にピンクのふわふわの髪の房が触れる。ふわっと甘い香りが鼻孔をくすぐる。それでどうしてだか安心してしまって、あこはゆっくり目を閉じて、自分と同じくらい華奢な肩に自分からしがみついた。

「――で、メバルクンってなに?」
 涙が止まってようやく落ち着いた頃、きららが不意に聞いた。あこはさっきまで泣きじゃくっていたのが嘘のように、思い切り眉間にしわを寄せて不機嫌を顕わにし、グッときららの方に詰め寄ってくる。
「す・ば・る・きゅん! ですわ! あなた地球人のくせに知りませんの!? 地球のスーパーアイドルですわよ!?」
「え~、きらら、男の子にあんまり興味ないし」
「すばるきゅんはそれはそれは素敵な方ですのよ! きらきらとした朝の日差しのような歌声、風のように軽やかなステップ、いつも元気をくれるトーク……地球にいれば合法的にライブも見れますし、グッズだって公式のものを買えますのに! あなた、人生損してますわよ?」
 熱っぽく語るあこに、きららはきょとんとしている。それで余計にシャーッ! とあこが怒りを募らせるので、とりあえず聞いてみた。
「あこちゃんはそのすばるきゅんの赤ちゃんがほしいの?」
「にゃっにゃにゃにゃああ!?!? あ、あにゃた、にゃにを真っ昼間からそんにゃ破廉恥なことを言ってますの!」
 顔を真っ赤にしてあたふたするあこを、きららは目をぱちぱちさせて眺めている。はれんちって一体どういう意味なんだろう、なんて思いながら。
「ちがうの?」
「それはそにょ、そうですけれど……でもっ、まずはその、ちゃんとお付き合いをして、それで結婚して、子どもをつくるなんてそれからのことですし……」
 右と左の人差し指を突きあわせて遠慮がちに言うあこだったが、何を想像したのか、にゃふふと顔を赤らめながら笑っている。
「すばるきゅん、ってユウキすばるって名前?」
「ええ。そうですわ。やっぱりあなたも地球人。どこかで見たのを思い出したんですのね」
「ううん。今アイドルのすばるってワードで検索したんだ。あー、でもすばるきゅん、精子提供はしてないみたいだね」
「はぁ?」
 聞けば、脳内に埋め込まれた演算装置(デバイス)で外部ネットワークにアクセスし、精子提供者の公開データを調べてくれたらしい。
「検索したけど、ヒットしなかったよ。でも、もしかしたらお金を積んだら提供許してくれるかもしれないし、望みはあるか」
「ええっと、あなた、さっきから何の話をしていますの?」
「だってあこちゃん、赤ちゃんほしいんでしょ?」
「いえ、それは結婚して――」
「なんで結婚とかするの? 精子もらって人工授精ポッドであこちゃんの卵子と受精させて、生育システムに預けたら赤ちゃんなんてすぐだよ」
「はぁ?」
 お互いにお互いを訝し気に見て、同時に首を傾げた。どうやら一方の常識はもう一方には通用しないようであるらしい。
「あなたねぇ、そんな人工的な方法で機械的に命を生み出すなんて、非人道的ですわ!」
「やだなぁあこちゃん、20世紀の人みたいなことゆわないでよ~! 体内受精して母体から出産なんて、身体の負担大きすぎて現実的じゃないよ~」
 事もなげに言われて少したじろいだあこだったが、すぐに気を取り直して追及してやる。
「あ、あなた達にとってそれがスタンダードならもうそれでいいですけれど、でも、それでも、なんで結婚するのか、っていうのはどういう意味ですの!?」
「だって、赤ちゃんがほしいなら赤ちゃんだけ作ればいいわけで、結婚してもしなくてもいいでしょ。お付き合いして結婚して、なんて。どうしてそんなめんどくさいことするのかなって」
「そんなの、愛を確かめ合った二人が子どもを設けて、愛情をもって一緒に育てるのは当然のことではなくて? 親が結婚していないなんて、子どもが可哀想ですわ」
 あこの言葉を聞いて、きららは、あー、とどこか呆れたように声を漏らしながら視線を反らした。
「なんですの、言いたいことがあるなら言ってみなさいな」
「別になんでもないよ?」
「嘘って顔に書いてありますわよ? 正直におっしゃいな!」
「えー……じゃあ言うけどー、そんなんだからあこちゃんの惑星、少子化になるんだろうなって」
「にゃあ?! わたくし達を馬鹿にしてますの!? シャーッ!」
「言ってみなさいって言うから言ったのにキレないでよ~! そういうの、メェ~ッ! だよ!?」
 両者にらみ合い、それぞれの視線が絡み合うところでバチバチと火花が散った。まさに一触即発、両者、殴り合いくらいには発展しそうな殺気を互いに発していたが、それを先に引っ込めたのはきららの方だった。
 それできららがどうしたかといえば、具体的に言えばあこのネコ化した手をふにふにと触り始めたのだった。
「これもさっきから気になってたんだけど、シャーッ! ってなると、どうして手がこんなんになるの? とってもふわふわで触ると気持ちいいけど」
「ちょ、ちょっと、何するんですの!」
「肉球がぷにぷにだし本当にネコみたい。ってことはもしかして、喉を撫でたら……」
「ゴロゴロゴロゴロ……」
「ゴロゴロゆってる! え~面白~い!!」
「ちょっと!調子に乗るのはおやめ!!」
「え~? しっぽが上にたってるよ? ほんとは嬉しいんじゃない?」
「そそそそんなわけありませんわ! シャーッ!」
 目一杯威嚇してやるけれど、きららはふわふわと笑うだけだ。
「あこちゃん、これからもなかよくしてね♡」
 毒気なく笑うきらら。どうしてこの微笑みを見ていると安心してしまうんだろう。それに彼女から漂う甘い香りは一体何なんだろう。まるでいい夢が見られそうな、というところまで考えて、はちみつのたっぷり入ったホットミルクを思い出した。昔お母様が寝られないあこのために作ってくれた、あったかくて甘いその味が蘇る。
 それで思わずきららの手をぎゅっと握り返しそうになって、ハッとした。何を絆されそうになっているのだ。ふるふると頭を振って、その手を振り払う。
「お断りですわ! どうしてわたくしとあなたがなかよくなんてしなくちゃいけませんの」
「え~? んーそれじゃー、しもべでもいいよ?」
 少し考えてから言ったきららの言葉はどこか取ってつけたようだった。しかしあこの脳内はそんな言葉を聞き逃さず、即座にカタカタカタと回転してピンポンと解を弾き出す。
「なるほど、アリよりのアリですわね……」
 思えばこれまで下等な生物が支配している惑星をいくらか制圧してきたが、自ら進んでしもべになろうとするような者はいなかった。きららがどんなつもりだか知らないが、自分たちよりも遥かに進んだ文明を持つ地球人を利用してこの国のシステムを手にできれば惑星にどれだけ恩恵をもたらせるだろう。だからきららをしもべにすべきだ。絶対に。やっぱりあこの脳内演算域(データベース)は冴えに冴え渡っている。自分で自分によし、と頷いた。
 あこたちの種族はそもそも生来的に脳内に大きな演算域(データベース)があり、他の生物よりもたくさん記憶したり、それを取り出して応用したりするのが得意だ。恐らくそれを真似て地球人が自身に埋め込んだ演算装置(デバイス)とやらはどうやらあこ達の演算処理能力を遥かに凌ぐ性能がありそうだが、あんなの結局後付けの人工物だし、チートみたいなものだ。生来的に能力を持っているあこ達の方が、絶対に崇高で素晴らしい種族と言えるだろう。
 どれだけ能力差があるか知らないが、しもべになりたいと言うならとことん利用してやるまでだ。崇高な種族として当然のことではなかろうか。
 あこはきららの顎を優しく掴んで、クイとこちらを向かせる。
「それでは誓いなさい、わたくしに忠誠を誓うことを……」
 いずれ惑星の女王となる存在として生まれてきた、堂々とした立ち居振る舞い。指先にまで宿っている品格。思わずきららもごくりと唾を飲み込んだ。これが王族というやつなのか。地球はもうどこの国でも王室は途絶えている。王族だなんて、古いお伽噺でしか見たことなんてなかった。
 ネコの耳としっぽと肉球がチャームポイントのとってもかわいい女の子。時に脆くて涙が止まらなくなってしまう女の子。そして自分の惑星を愛し、統べるために生まれてきた気高い女の子。初めての被支配の感覚になんだか変な演算が始まってしまいそうになって胸がざわざわした。こんな素敵な子となかよくなるために、一緒にいるために、しもべになればいいというなら、喜んでそうしようと思った。
「は~い、誓いま~す! あこちゃん大好きだよ♡」
「ちょっと! しもべの分際で抱きついてこないでくださる!?」
「え~親愛の証なのにぃ」
 校舎の向かい側の音楽室からはクラスメイト達の歌声が聞こえてくる。それには気にも留めないで、二人はシャーッ! メェ~ッ! なんてやりながら、これからの異星間交流に、それぞれの思惑で胸を高鳴らせるのだった。

powered by 小説執筆ツール「notes」

38 回読まれています