2023/10/21 明太天

 シーズンも終わり、勇利、ヴィクトル、そしてユリオの三人は長谷津に来ていた。それぞれ勝利の、あるいは悔し涙のカツ丼は食べ終え、次シーズンまでの英気を養うことになるのだが、そんなある日のこと。

「マリ~」
「あれ、ヴィクトル」

 店が終わった後、生活空間の方の台所に顔を出したヴィクトルに、勝生家長女である真利が驚いて振り返った。どうしたの? と聞けば、勇利はピチット、ユリオはオタベックと通話中とのことで、寂しく降りてきたようだ。マッカチンは? と聞けば、勇利の横でお休み中とのこと。なかなかに寂しがり屋なのだ、このレジェンド様は。いや、それをここでは表に出していいと思ってくれているのかもしれない。
 ちなみに勝生家の父は寄り合い、母は婦人会ために今夜は不在だ。
 真利は「なるほどねぇ」と言いながら手元に視線を戻す。ちょうど調理中なのでいつまでもヴィクトルの方を向いてもいられない。

「何作ってるの?」
「明太天」
「MENTAI-TEN? MENTAIは、あれだよね、ピリッとしたイクラ!」

 イクラが元ロシア語だと知って驚いたのは弟の勇利がロシア語を学び始めたころのことだ。ヴィクトルの記事を読みたいというのが理由で、オタクの言動と言うのはジャンルが変わっても変わらないんだと、真利は思ったものである。

「そうそう。それの天ぷら」

 ヴィクトルが真利の手元に視線を向けると、確かに酒の肴に出されたことがある赤いはらこがあった。それに真利が手早く白い粉をつける。黒い粒は胡麻だろう。

「ん、よし」

 菜箸を油に突っ込んで温度を見ていた真利がそう言って手早く粉を付けた明太子を油にくぐらせる。

「そのままでも食べられるから、色が付いた程度でOK。よし、ヴィクトル。何飲む?」
「MAKAI!」
「OK! グラス二つね」

 世界のレジェンドだろうが弟分は容赦なくこき使う真利の言葉に、ヴィクトルも「ДА!」と返してこちらも慣れた様子でグラスと『魔界の誘い』を取り出す。
 真利は真利で、火を止めてキッチンペーパーを引いた皿に三つに切った明太天を乗せて振り返る。

「それじゃ」
「カンパーイ!」

 家族用の小さな食卓について、グラスを掲げて短く乾杯をする。

「あつ、あつ。ん~~~フクースナァ! 外はカリっとしてるけど、中はしっとりしてるね」
「微妙に火が通ってるとこと生のところが美味しいのよねぇ」

 グイッと、グラスを空にしてほほ笑むヴィクトルに、こちらもグイッと飲み干して真利が頷く。

「あ~~何してんだよ、二人だけで!」
「あ、美味しそうなもの食べてる!」
「ウォン!」
「あ~見つかった」

 そこに、ユリオ、勇利、マッカチンがどやどやと降りてきて、静かだった場所は一気に騒がしくなる。はいはい、ちょっと待ちなよ。と、真利が追加を作ろうと席を立ち、ずるいずるいと言う二人にヴィクトルが「二人が俺をのけ者にするからでしょ!」と抗議の声を上げる。
 騒がしい弟分たちの声をBGMに、真利はクスリと小さく笑みをこぼした。

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明太子っつったらこのメンツしか思いつかなかった。
揚げ物なので勇利くんは作らんだろうな。となったので真利姉ちゃんに。

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