花火 その2
線香花火て、関東と関西では違うてるて、ほんまなん、と子どもが言った。
こうした問いは、いつも兄弟子に向けられる。僕の隣で小さな火花に気を取られていた様子の男は顔を上げて、そうやなあ、と小さく笑った。
子どもの前でええかっこしいになるのは僕も同じだった。
「ちなみに、これはこっちのとは違うで。」という草若兄さんに、えっ、と子どもが驚いた顔になった。
「オレが子どもの頃は、ここからこの辺まで藁で出来ててな、先っちょの方が黒いねん。さっきやってた線香花火より大きな火花が出るやつあったやろ、見た目はあっちの方がずっと近いんやで。火薬が付いてる部分が短うて、それなのに、風立ててやらんとうまい事、火花が出えへんねん。ちょっと面倒やで。これは、全部綺麗な紙のこよりで七夕さんの飾りみたいに派手になってるやろ、これが関東風や。」
そう言って、草若兄さんは次の花火を付けた。
火の付くのが早いやろ、と自分の手柄のような顔になっている兄さんの前で、綺麗やな、と子どもが顔を輝かせている。
「僕、関西風の花火もやってみたい。」と子どもがいうのに、どうやろなあ、と言って紙のこよりの線香花火を手渡す。
「四草、お前最近あの手の見たか? スボ手牡丹てわざわざ書いてあるヤツ。あれ何年か前にどっかで見たんやけど、どこやったかな。」
「それ、僕に聞かんといてください。」
ほとんどここと日暮亭とスーパーと草原兄さんのとこしか行ってませんし、と言うと、「ドアホ、そんなんオレもお前とそんな変わらんて。スーパーにもこの手のセット花火売ってるやろ、お前が見てへんだけや。今度探しに行くか?」と言って草若兄さんはからかうように笑った。
子どもの前では、ドアホとかスカタンとか使うなてあれほど言うてるのに、ほんまに口が悪いとこはいつまで経っても直らんな。
二人でいるから、子どもの前でも大人になりきれない。
「今時のコンビニで売ってんのは、全部この手のヤツになってると思うから、その辺探しても見つからんと思うわ。探しとく。」
「あんなあ、僕、あそこの本屋にそれ売ってたの見たよ、一緒に買いに行こ。」
「……なんや、知ってたんか?」
「ちょっと高いから。お父さんに買ってもらおうと思ってたん、草若ちゃんでもええかな、」
「ええかな、てなんやねん。」
しゃあないなあ、と言って子どもにやにさがっている兄さんの顔を見てると、ほんまに腹立たしいというか、妙に可愛いというか。
「おい、もう線香花火、落ちてしもてるで。」と言うと、ええっと声を上げた子どもは、愛宕山の一八のような顔になった。
花火の入ったビニールの中には最後の一本が残っている。
さすがにオレがやりたいとダダをこねることはないやろ。
今日はこれが最後や、と子どもに差し出すと、僕ええよ、と首を横に振った。
「……最後のひとつやから、最後はお父ちゃんがやったら?」
「オレも見ててやるから、そないしたらええわ。」と言って、ふたりが笑っている。
暗がりの笑顔が花火より眩しいような気持で眺めて、それなら遠慮なく、と言って僕は手元のライターで火をつけた。
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