プロテイン


「もっと美味いプロテインないか、て言われて探してみましたけど、まああないなもんにも種類はあるもんで、ソイやらホエイやら、どれがいいのか。まさか一個ずつ封を開けて試すわけにはいきません。まあ今時のよろずやの棚にあるプロテインほどではないですが、昔から人の好みなんてものは十人十色といいますね、」
と、高座でそないに言ったらしい。

「それでこないになるんかいな。」
女が勝手に貢いで来る、ってどないやねん、て思ってたけど、実際こんな風に目の当たりにしてしまうと、むしろおもろいな。
目の前にはグレープフルーツ味やら、ココア味やら、プロテインの入ってる袋や円筒の茶筒みたいな容器が並んでいる。プロテイン以外にも、アミノバイタルとかなんとか書いてある。こんなんオレらより喜代美ちゃんにやったらええんちゃうか、と思ったけど、四草相手では、言い出すタイミングがなかなか難しい。
最近流行りのなんちゃらフィットとか言うファミコンのゲームを紹介する番組を見てたら、プロテインみたいなもんが運動の後にええとか、眠りが深ぅなるとか、抜け毛がピタリと収まるとか、江戸時代の軟膏の宣伝かいなと言う持て囃しようで、あれちょっとええやん、と言ってたのが月曜の夜の話や。
ありがとう早朝寄席と銘打っての二夜連続独演会で、昨日の高座で掛けた後で貰って来たもんやと言う。いくらなんでも、反応早すぎやろ。
ズラっと並んだ博覧会じみた光景。味だけやのうて、メーカーにも色々あるもんやな。普通の店には見かけんもんもあるって言うのに、貢がれた方の男は、こんなもん一体どこから探して来るんでしょうね、と他人事の顔しよる。
まあお姉ちゃん達も、猫に牛乳飲ませたりたいとか、そういう気持ちに近いかもしれへんな。
えらい目つきの悪い猫かもしれんけど。
「米食いたいて言ったらすぐにこないに集まって来るんと違うか?」
「まあそうですね、おもらいさんみたいになるのも嫌なので、今まではここまであからさまに高座で枕にしたこともなかったんで、それでと違いますか。」
そういえば、こいつが若い頃の枕といえば、まあ殆どひねりのないつまらんもんが多くて、例外はオヤジが復活した年の一門会くらいか。こいつもあの頃はまだ可愛げが…ないな。
「ひとつ封開けてええか?」
「いいですよ。」
まあ、許可が出んでも開けるけどな、とグレープフルーツ味というのの封を開けて水に溶かすと、アクエリみたいな味がした。
「これ、案外悪ないな。」
「それならそれ一個残して後は草々兄さんとこにやりましょう、なんや美味いもんになって戻って来るかもしれへんし。」
ああ〜、新しいに入ったのでムキムキなんいたな。プロテイン好きそうなヤツと料理得意なヤツ、別人やんけ。まあこないだ食ったベーコン入りのポテサラ、普通に美味かったけどな。
「子どもに見せたら、全部置いておいたらええやん、て言われてしまいそうなので、明日までここに置かせてください。」と四草が言った。
「まあ、お前がそないしたいなら、それでええけど。」
決まりですね、というと四草がこっちに顔を近づけて来た。
おい、置かせて貰う方が礼を貰おうとすな。
「グレープフルーツ味ですか、これ?」
オイコラ、四草。
味見したいなら、自分の分自分で作らんかい。



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