予算


「クリスマスに欲しいもんないですか、て聞いたのに、何で希望が「足つぼマット」なんですか?」
「……ええやんか、足つぼマット。底抜けに健康になるで。」
「師匠のぶら下がり健康機やないんですから。」
「せやなあ。」
「買うて三日で飽きても返品出来ませんけど、ほんまに、それでええんですか。」
しれっとした顔で調子に乗って来た四草にそない聞かれて、キレそうになった。
お前、オヤジが引退してる間に買うた安モンのぶら下がり健康機をうちで見つけた時は、何も言わへんかったらしいやないか~!
「おい、しぃ、お前オレにヘッドロックして欲しいてそないに言うてんのか?」
「はぁ?」
「そんなん、ええわけあるかい……!」
決まったーーーー!!!
草若兄さんのヘッドロック炸裂や。
倉沢選手、ギブアップか?
「お前はほんま一言二言三言多いんじゃ! オレかて、予算が三百万あるて言うなら冗談のふりしてスイートテンダイヤモンドくらいは言うけど、なんじゃい、一万円て! このクリスマスの時期になった大阪やと蟹二杯さえ買えへんのやぞ! 分かっとんのか、四草、おい!」て、首決められた状態で何も返事が出来へんのは分かってんのやけどな。
ステーキとかどんだけ美味いモン買うたかて、当日はお前と食べられへんのやぞ。
分かり切った愚痴みたいなもんはこの際言いたないからこっちも我慢して言わへんかったのに、お前てヤツはほんまに何考えてんねん!
「ただいまぁ、……あれ、ふたりともどないしてん?」
外はピュウピュウと木枯らしが吹いてるていうのに、首元のマフラーとジャンパーの一枚で半ズボンという出で立ちの、うちの可愛い健康優良児のおでましや。
「今お前のクリスマスに何買うかて、うちの底抜けサンタと相談してたんや。予算一万円では足りへんか?」
………ハァ?
「なんや、今更そんなことで揉めてんの? ゲームやったら友達んとこでやらせてもらうし、この先、高校行くのにお金が掛かるかもしれへんのに、贅沢言うてられへんわ。僕は今年もいつものとこのケーキがあったらなんもいらんで、て言うたやんか。」
いや、オレはそれ聞いてへんけど。
「足つぼマットとか、あったら欲しいか?」
「僕のこと何歳やと思てんの? いくらなんでも早すぎるわ。」
四草は、ケタケタと楽しそうに笑うおチビから視線を外して、ちらりとオレの方を見た。
「こないだ教科書が重くて敵わんて言うてたやないか。」
「そら、肩こりに利く足つぼとかも探せばあるのかもしれへんけど、流石に今はええわ。お父ちゃん、それ買うてきて、草若ちゃんとふたりで使たらええやん。……だいたい底抜けサンタて、なんや煙突から転げ落ちそうで縁起悪いで。」
四草は、そうやな、と言いながら、もう一回オレの方を見た。
おい、言いたいことがあるなら好きに言うたらええやろ!


「……ダイヤモンド、欲しいんですか?」
こっちに寄って来た性根の悪い男が、次の誕生日まででもええなら、仕事詰め込んでどうにかしますけど、と神妙な顔して耳打ちした。
いらんわ、ボケ!

powered by 小説執筆ツール「notes」

25 回読まれています