迷子のねふちゃん

タイトルが浮かばない時は、ごまかすこともやめる方針。

うっかり(?)異世界転移してしまった盟友ねふちゃんと、ヒカセンマリィさんのはなし。
異文化交流とか、好きなキャラを都合よく会わせたいやつだよ。仕方ないじゃんどらてんにマリィさんがいないんだ。
ねふちゃんはルエねふ前提。もうくっついてる。くっつく前から同棲してる。ルエが家政夫してる。
健全な育成は健全な食育から。先ずは胃袋を掴むんだよ!!

ねふちゃんはバージョン4終了後、5前。まだ大魔王じゃない。
マリィさんは暁月終了後、黄金前。もう英雄。いやなんかずっと英雄だがあの人。
異世界転移というか魂転移?
夢を見てるような感覚の移動。ご都合主義。俺が見たいだけだからね。仕方ないね?

というかぶっちゃけ、マル子の男性版ルエと、マリィの弟たるルエは全く別人設定だったんだけど、同じにした方が美味しいから、少なくとも今回はほぼ同一な感じで行きます。
設定は増えるものだからね。

ビルダーズの弟ルエは、マル子というより男の子版エリィなんだけどな(・3・)イキアタリバッタリ



■



「お嬢さん、そろそろ目的地に着くぜ?」
「ふぇ……」

 とろとろとした微睡みから、男性の声で意識が浮上させられる。
 知らない人の声だった。少なくとも、一緒にいる筈のルエ君の声じゃない。
 どこかでうっかりお昼寝しちゃったんだったかな? だとしたら、きっとルエ君は隣で周囲を見ててくれてる筈。彼にばっかり負担を押し付けちゃいけない、と重い瞼を持ち上げた。

「お、起きたな。若いお嬢さんが一人で居眠りなんざ、不用心だぜ。気をつけな」
「え? え、と、はい、ありがとうございます……」

 ボヤける視界に目を擦って、やっと鮮明に見えるようになった先に居たのは、人の好さそうな男性だった。色の黒い肌に、白いおヒゲのおじさんに、見覚えは無い。
 心配してくれたのは分かったのでお礼を言ったけれど、……え?
 くるりと周囲を見回す。そこは、宿屋でもなければ、私達のおうちでもない。
 見知らぬ人がまばらに居る広間のような場所。私はその中央あたりのベンチに座っていたらしい。そのすぐ向かいに、今心配してくれたおじさん。
 座っているベンチからは、微かにゆらめくような感覚が感じられるので、たぶんここは、船の中。

「見慣れない民族衣装だが、どこから地方から出てきた駆け出し冒険者かい?」
「えっ? ……ええ、と、……はい、そんなところ、です」

 改めて、自分の姿を見下ろす。
 身体に違和感はないけれど、確かに見慣れない服を着ていた。動きやすそうで、少し可愛い……けど、それはそれとして、こんな服を持っていた記憶は無かった。
 適当におじさんに話を合わせて頷きながらも、私は混乱していた。
 ここはどこ? どうして知らない場所に? ううん、場所だけならいい。どうして服装まで違うの? 以前のように、不審な侵入者として捕らえられて、装備を奪われたという感じでもない。
 何よりも。

「あ、あの、ルエくん……、ええと、連れが居る筈なのですけれど。どこに行ったか、知りませんか? 私と同じ人間で、青い髪をした男の子なんですけど……」
「人間……って言われてもな。あんたと同じ、ヒューラン族ってことかい?」
「ヒュ……? えと、はい、それでいいです」
「ふーむ、俺がお前さんに気付いた時には、一人で居眠りしてたがなあ」
「そう……ですか」

 ルエ君が、居ない。
 居眠りしてしまった私を置いて、知らない場所だからと調べに行った……なんて事は、ないと思う。
 ルエ君だったら、私が目が覚めるのを待ってから、一緒に行こうって言ってくれるはずだもの。
 だから、つまり、純粋に……彼はここには居ない。そう断言していいと思う。
 私が何かの拍子に時渡りを発動させた? それとも、何かの罠にかかって、知らない場所に飛ばされた? そのせいで、直前の記憶が無い?
 きっと一緒にいてくれてる筈のルエ君は? 私に巻き込まれた? 場所が違うだけで、どこかに居る?
 それとも、……私一人、ここに飛ばされてしまった?

「どう、しよう……」

 唐突に、知らない場所に放り出される。そんな事態にはもう何度も合っているけど。
 けれど、ここの所のそれには、ずっとルエ君が一緒に居てくれて。ずっとずっと、本当に、時を超えた先まで一緒に来てくれて、傍に居てくれて。
 その事に、私は思っていた以上に支えられていて……、そして、彼が居ないという事実に、とてつもない淋しさと不安を覚えてしまった。
 まるで、訳も分からず殺されて、何も知らない、見たことも無い場所で、知らない人の身体で生き返しを受けた、あの時みたい……

「うーん、船の中ではぐれるってのも、妙な話だが。この船もでかいからな、どこかで迷子になってるって可能性だってある。そのお連れさんも、冒険者かい?」
「は、い……」
「だったら、街に着いたら冒険者ギルドに行ってみな。あそこのマスターはバデロンって男なんだが、顔も広いし面倒見もいい。お連れさんも、冒険者ってんならそこに案内されるだろうし、きっと会えるだろうさ」

 だからそんな不安そうな顔するもんじゃねえよ、なんて励ましてくれた。
 優しいおじさんだった。だからこそ、これ以上の心配はかけたくない。
 きっとルエ君はここには居ない……、その確信をしながらも、はい、と私は頷いた。
 彼が居ない事は心細い。とても、寂しい。久しぶりの一人ぼっちに、震えてしまいそう。
 けれど、そこで怯えて歩みを止めてしまったら……本当にもう、会えなくなっちゃうかもしれない。そんなのは、いや。
 私が一人で消えてしまったなら、きっとすごくすごく心配してる。
 絶対に、戻る方法を見つけなきゃ。大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。震えそうな自分の右手を、ぎゅっと左手で包み込んだ。

 ほどなくして、街に着いたと船員さんが大きな声で知らせてくれて、その案内に従って私は船から降りた。
 一応、最後までそこから出てくるお客さんを見ていたけれど、やっぱり……ルエ君は居なかった。
 私より先に降りてどこかへ行くなんて、彼がするはずないもの。
 だからやっぱり、ここに居るのは、私一人。
 また、大きく深呼吸した。感じるのは、海の匂い。
 見上げる先には、たくさんの白い塔のような建物と、それを繋ぐ橋。下は殆ど海面で、海の上に作られた港町みたい。
 ……知らない街だった。船員さんが言ってた名前は、リムサ・ロミンサ。
 落ち着いて。きっと、ここが知らない場所、……もしかしたら、知らない世界。その可能性は、感じていた。
 改めて、自分の姿を見る。私が私である事に、違和感はない……でも、少しだけ、違った。
 ぎゅ、と握りしめた手。身体の中に巡る魔力。
 落ち着いてそれらを確認すると……普段の私より、ずっと力が小さい気がする。それこそ、初めてエテーネ村の外に出て、スライムと戦った頃みたい。
 だからあのおじさんも、『駆け出しの冒険者』なんて言ったんだ。武器こそ持っているけれど、普通の街に住んでる人と変わらない。
 経験がリセットされている。それを確認してから、道具袋の中を見る。
 ……ルーラストーンも、エテーネルキューブも無い。あるのは、初心者向けみたいな装備品とか……瓶に入ってるのは薬かな。見たことが無いタイプ。まほうのせいすいに似てるけど、たぶん違う。
 せめてキューブがあれば、元の場所に戻れるかと思ったけど……ダメみたい。
 はあ、とため息をついて、船から降りたお客さんのほとんどが向かっていった先に、私もついていく事にした。
 人がたくさんいる場所に行った方がいい。おじさんが教えてくれた、冒険者ギルドに行くべき、そう思えた。
 たぶん、私の知ってる冒険者の酒場に近いんじゃないか、と思いながら。

「わあ……」

 そうして長い階段を登った先には、大きな大きなクリスタルがある広場があった。
 近づいてみると、……ああ、たぶんルーラストーンに近い物なんじゃないかな、と感じる。いろんな地方の目印になるもの。感じる魔力もそれに近い。
 誘われるように手をかざしてみると、その魔力を把握する事が出来た。
 ……もしかして、ルーラストーンがなかったのって。この世界では、そもそも転移魔法が失われていないからなのかも。
 もう、世界そのものが違うんだろうな、とは察してた。
 だって、周囲に歩いている人々に、私の知っている種族がほとんどいない。
 人間は……同じだけれど。でも、おじさんは『ヒューラン族』と言った。
 ほかに目につくのは、オーガみたいに大柄な人たち。でも、肌の色は赤じゃなくて、緑っぽい人が多い。それから、角も無い。
 あと、プクリポに近い小さな体格の人。ただ、動物のような耳も、丸い尻尾も無い。どちらかと言えば、エルフをもっと小さくしたような……羽根も無いけど。
 それから、猫みたいな尻尾と耳を持っている、人間によく似た人たち。
 うん。これだけ見れば、確信出来る。もう、そもそもの世界が違う。
 一人であるという心細さと、ほんの少しの興味。きっとルエ君がここに居たら、好奇心で目がキラキラするんだろうな、なんて想像して、ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。

「あの……、冒険者ギルドってところを探しているんですけれど」
「ああ、さっきの船で着いた初心者さんかい? だったら、そこの階段を登って、そのまま真っ直ぐ行けば良い。大きな酒場だから、すぐにわかるよ」

 クリスタルの近くに居た、兵隊さんのような姿の男性に聞いてみたら、親切に道を教えてくれた。
 さっきのおじさんも、兵隊さんも、優しい人の多い街でホッとする。
 ……なんだか、海賊みたいな姿の人も多いけど。少なくとも、道を行きかう人の表情は明るくて、きっと良い街なんじゃないかな。
 また長い階段を登って、そこから伸びるつり橋を渡って、目に入った建物の中を覗いてみる。
 広いホールの中にいくつもテーブルがあって、見るからに冒険者と言った人々が地図を見ながら相談していたり、飲み物の入ったジョッキを手に乾杯していたり。
 ……ここで間違いなさそう。
 ちょっとだけ緊張するけれど、私と同じ年頃の女性の姿もあったし、入りにくくはない。
 たぶん、ここにもルエ君は居ない、けど。
 とりあえずここがどこで、どんな世界で、私は何故ここに呼ばれたのか。それを探すためには、情報がないといけない。
 緊張で乾いた喉で唾をのみ込んで、冒険者ギルドに入った。



■



 船で出会ったおじさんが教えてくれた通り、マスターのバデロンさんも親切な人だった。
 街の紹介を兼ねて、色んなお店の並ぶマーケットや、私に合った職業のギルドマスターさんも紹介してくれて、本当に助かる。
 いつの間にか私が持っていた本は、魔術書で。中を見ても図形や数式がたくさん並んでいてよく分からなかったけど……それが魔法の手引書みたいなものだと、マスターのお姉さんに教えて貰った。
 その読み方と扱い方。それが理解出来れば、初歩の魔法は簡単に発動出来て、筋が良いなんてほめられて、少し照れてしまう。
 魔法を扱う感覚は同じみたい。エーテル、という単語がたびたび出てきて、それが私の知る魔力の事なのだろうな、と理解する。魔力は魔力でそう言ったけど……

「これなら、実践に行ってもよさそうだね。街の外に出て、巴術で魔物を倒して来てみなさい」
「はいっ」

 私が習ったのは、はじゅつ? という魔法らしい。
 全く耳なじみがないけれど、魔法陣の組み合わせや数式を元に魔法を操る……そして、術師の魔力を利用して使い魔を生み出して使役する。これらは、天地雷鳴士の考え方に似ていたから、すぐに理解する事が出来た。
 そうして生み出した私の使い魔は、美しい青い色をした愛らしい獣の姿をしていて。その色合いと私をじっと見る瞳が、なんとなくルエ君に似ていて……ちょっぴり、泣きそうになってしまった。
 泣かない。大丈夫。まだ、何も怖い事も挫折するような事も起こってないもの。
 絶対、ルエ君のところに帰るんだから、負けたりしない。
 そうして、街の外に出る。吹いてくるのは海風で、生い茂る草木や白い石の山、自然豊かな綺麗な場所だと思った。
 広い原っぱを、のんびり歩いている魔物の姿が見える。
 分かってたけれど、見慣れた魔物の姿じゃない。ずんぐりとした羊のような生き物とか、ふさふさした尻尾をもったリスのような生き物とか……
 そんな魔物達を、指定された数だけ、覚えたての魔法で倒しながら、原っぱを散策するような気持ちで歩き回る。
 街の周りだけあって、あんまり好戦的なも魔物は居ないし、まだ力の弱い種族ばかりみたい。

「……あれ? マンドラゴラ?」

 その中に、見覚えのある姿の魔物が居た。
 ううん、アストルティアには居ないけど。昔どこかで、他の世界から迷子になったっていう、白いふわふわした生物……、……モーグリ、そう、モーグリ。あの子にお土産にって渡したお花の代わりに、あの姿の人形を貰った記憶があった。
 ということは、あの子が来た世界に、今度は私が迷い込んだ?
 あの子は無事に戻れたみたいだし、それなら私もきっと戻れる!
 先ずはモーグリを探せばいいかもしれない。どこに居るんだろう? この辺りに居てくれればいいけれど、他の場所ならそこまで旅が出来るだけの力をつけないといけない。
 早く戻りたいけど……その為に無理をし過ぎて倒れちゃったら元も子もない。
 うん、一先ずは昔の私と同じように、遠くまで行ける修行をしないと。
 周囲に襲ってくるような魔物が居ないため、ちょこちょこ可愛く歩き回るマンドラゴラを見ながらそう決めた私は、うん、と一人で頷いて顔を上げる。
 丁度そのタイミングで、何故かマンドラゴラ達はひゃあっと逃げるように私に背を向けて走り出した。

「あれ? わ、私そんなに怖い顔してた……?」

 すぐにでもレベル上げの為に大量狩りするような顔してたのかな? 流石にそんなつもりはなかったんだけど……
 可哀想な事しちゃったかな、と思ったその時。背後で、シュル……という、微かな音。それから、ズンっと伸し掛かってくるような……大きな気配。
 ぶわ、っと冷汗が噴き出る感覚がした。咄嗟に振り返って、私の後ろにいる何かを見る。
 そこに居たのは、巨大な蛇みたいな魔物だった。……蛇というより、龍やドラゴンが正しいかもしれない。
 美しいとも思えるその蛇の魔物は、私をじっと見つめていた。敵意と殺意を込めて。
 ……私も、初めて旅に出てから色んな魔物と戦った。今その経験は消えてしまっているけれど、そういう強敵と戦ったという感覚は消えてない。
 だから、分かった。
 今の私では。どう足掻いても、この魔物に勝てない。力が違い過ぎる。

「っ……」

 どうしよう。どうする?
 気が付けば、周囲に居たはずの小さな魔物達は何もいない。街の近くならば見張りの兵士さんも居たけれど、少し離れてしまったここには居ない。
 完全にターゲットとして狙われてしまっている。ここから背中を見せて逃げようとしたら、確実に後ろから襲われる。今の私の足じゃ、きっと振り切って逃げることもできない。
 勿論、戦っても叶わない。なら、なんとか隙を見て逃げ出すしか……
 じり、っと大蛇が迫って来て、私はわずかに後退する。
 ダメ、隙なんて生まれる筈が無い。確実に私を獲物として捉えている。
 ……この世界で死んだら、どうなるんだろう。蘇生魔法はあるのかな?
 あったとしても、もしこの蛇に丸のみされてしまったら、蘇生出来るものも出来ないんじゃ。
 そうしたら、もうルエ君に会えなくなる。こんな私に優しくしてくれた大好きな人と、訳も分からずお別れなんて、いや。
 諦めたくないけど、どうすれば助かるのかが分からない。
 睨みあう時間がしばらく空いて、この獲物は大した抵抗が出来ないと判断したのだと思う。
 シャア! っと大きく口を開き、鋭い牙を剥き出して、長い首が伸ばされ、私に迫る。
 ルエ君……!!
 咄嗟に、ぎゅっと目を閉じてしまった。

「そこの子、下がりなさい!」
「ふえっ?!」

 唐突に降ってきた……そう、上から降ってきた声に、訳も分からず、ただ身体は素直に強く大地を蹴って、出来る限り後方に飛んでいた。
 間髪入れず、目の前に星が落ちてきた。
 星は星でも、隕石。赤い炎を纏って、轟音を立てて地面に着弾するような。
 音と衝撃、巻き上げられる土と小石と砂で、大蛇の姿は隠された。
 呆気にとられる私の身体が、次は軽々と地面から持ち上げられた。

「え、えっ?」
「口を閉じてなさい。舌を噛むわよ」
「は……、っ?!」

 何が起こってるのか訳が分からなくて、言葉にできない。
 狼狽える私の耳に、状況にそぐわない落ち着いた声。次いで、ぐんっと強く上方に引っ張られるような感覚。
 そして、私の視界は一気に上空へと上がっていた。
 え、何? なんなのこれ?
 たぶん、誰かの肩に担がれてる。その人が、私を担いだまま、上空に飛んだ。……違う、跳んだ。
 上から見ると、さっきの大蛇も驚いているのか、動きを止めているのが分かった。
 あくまでもこれは跳躍であって、ほどなくして上昇から下降へ変わり、私を連れて鮮やかに離脱したその人は、人ひとりを担いでいるとは思えないほど軽やかに地面に着地した。
 すぐにトンっと私の足が地面につけられる。

「ここに居て。あの魔物を片付けてくるから、動いちゃダメよ」
「あ……ま、待って下さい! 私もお手伝いします!」

 私を下ろしたその人……私よりもずっと背の高い女性は、背に携えていた槍を抜いて、まだ土埃の向こうに佇んでいる大蛇に向かう。
 きっとこの人は強い人だ。でも、あの蛇に狙われていたのは私で、その代わりに他人を危険な目に合わせるなんて。それを見ているだけなんて。
 幸い、巴術には癒しの魔法もあった。少しくらいは力になれる、……と思う。
 私の言葉に、彼女は視線をこちらに向けた。きょとん、と驚いているように見える。
 それから、ふっと優しく目元を緩ませると、ぽんぽんと私の頭を撫でる。

「大丈夫よ。ボクを信じて」

 そう告げて、女性はぐっと足に力を籠める。そうして次の瞬間には、土埃が晴れ、再びこちらに敵意を向ける大蛇に肉薄していた。
 は、はやっ……?!
 あの大蛇は絶対強い。街に居た兵士の人達が束になっても、簡単には倒せなかったと思う。
 けどあの人は、それに全く後れを取らない、どころじゃない。翻弄されているのは蛇の方。
 鋭い牙はかすめる事もなくいなされ、堅そうな鱗は槍に貫かれ、圧し潰そうと身体を伸ばしてもその時には彼女は地面ではなく、大蛇の背後の空に居る。
 最後には後方から大地に磔にするように深く槍が突き刺さり、幾度か痙攣した後、ぱたりとその動きを止めてしまった。

「そこの君、怪我は無い?」
「はっ……、はい! ありがとうございます!」

 大蛇の死体は、霧散するように光の粒になって消えてしまった。黒い煙みたいに霧散するアストルティアの魔物とは、似てるようで少し違う。
 槍を収めた女性は、私の所に歩いてきて。怪我してないか心配してくれて、こくこくと頷いて肯定する。
 強い人だろうなとは思ってたけど、思ってたよりも強い人だった。
 アストルティアでの戦い方とは違うから、比べるのは難しいけど。もしかしたら、パドレさん……父さんと肩を並べられるかもしれない、なんて思う。

「貴女、まだ駆け出しの冒険者よね? たまにああいう場所にそぐわない魔物が出る事があるから、気を付けて。と言っても、本当にそうそうある事じゃないんだけど……」
「はい、この辺の魔物は自分から襲ってこないからって油断してました。本当にありがとうございます、エルフのお姉さん」

 周囲の警戒をおろそかにして、考え事をしちゃったのは私が油断しすぎだった。
 反省しつつ、ぺこりとお姉さんに頭を下げる。
 本当に運の悪い、そうそうある事じゃない不運に襲われてしまったみたいだけど、もっと警戒していれば周囲の魔物の動きとかから、気付けたのかもしれない。
 ちゃんとしないと。今は私しかいないし、万一のことがあったらルエ君の所に帰れなくなっちゃう。
 気を引き締め直した私に、お姉さんは首を傾げた。

「エルフ……?」
「え? ……あっ」

 色んな事に驚いて、そして助かって。気を引き締め直そうとしていたにも関わらず、私はまた気を緩めていたのだと気が付いて、口を覆った。
 そうだ、ここはアストルティアじゃない。
 耳の長いお姉さんの姿は、ヒメア様に似ていて、だから私はエルフだと思ってしまった。小さい体の人が多いけど、たまに背の高いエルフも居るから。
 でも、お姉さんの背中に羽根は無い。だから、やっぱり私の知るエルフじゃないし、この世界での呼び方はきっと違うはず。
 だから怪訝に思うのは当たり前で。まだ最初に会ったおじさんへの、人間という呼び方は普通にある言葉みたいだから流してもらえたけど、この場合は、どうしたら。
 どうごまかそうか慌ててしまった私を見ながら、お姉さんは口を開いた。

「貴女、第一世界の人?」
「えっ?」
「ああ、うーん……。クリスタリウムとか、ユールモアって名前の街に覚えはある?」
「ないです……」
「そう。という事は、あそことはまた別の世界の人って事かしら……」

 考え込んでしまった様子のお姉さんの言葉に、驚いて飛びあがりそうだった。
 え、別の世界から来たとか、こんなにあっさり察して貰えるもの……?!

「あ、あの、どうして……」
「いえ、ボクみたいなエレゼン族を『エルフ』と呼ぶ人は、この世界には……少なくとも、ボクの知っている範囲には居ない筈だし。だからそう呼ぶとしたら第一世界の人かと思ったけれど、それも知らないなら、ボクがまだ知らないどこか別の世界か、もしくは第一世界にしても時間軸がズレてるのか……」
「え、えええと、たぶん! 全然知らない世界だと思います! 私もここがどこだか分からないので……」

 ここではない、全然知らない世界から来た、と思う。
 そんな話を、普通に考えたら信じて貰える筈がない。下手をすれば不審者として捕まってしまうかもしれない。
 だから、きちんと信用できる相手が出来るまでは言えなかった。それは今までも同じ事。
 そして、それに気付いてきちんと受け止めてくれそうな、このお姉さんに出会えた事は幸運で、別の世界というものを当たり前に認識している彼女なら、元の世界に戻る方法に心当たりがあるかもしれない。
 だから、素直に私にも何がなんだか分からない、でもここが違う世界なのは分かる。そう、訴えた。

「なるほど。とりあえず、状況を整理する為にも、お互いに話をしましょうか……。の、前に。貴女、たぶん巴術士の試験中よね?」
「はい……」
「もしかしたら、こちらに長居しなければならないかもしれないし。受けた依頼や試験は、きちんとこなした方がいいわ」
「そうですね、私もそう思います」
「ええ。大丈夫、周囲はボクが見ておくから。安心して残りをすませてしまいなさい」
「ありがとうございます。……あ、えっと、私はねふと言います」
「ねふね。ボクはマリィ、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」

 あんなに苛烈な戦い方をする人なのに、こうして話している時は穏やかで優しい雰囲気を纏っていて、なんだか安心させてくれる人だなと思う。
 それと、……なんだろう。
 そうして緊張せずに傍に居られる雰囲気が。目元を緩めて笑う、その様子が。
 私の大切な人に、どこか重なるようで。種族も性別も、性格も容姿も、決して似ている訳ではないのに。
 不思議な感覚。少しだけ、心の奥底に押し込めていた、寂しさや不安が和らいだ気がする。
 そんな優しくて頼もしい彼女に見守られながら、私は無事に巴術士としての課題を終えて、それから元の世界に戻れるか、ここはどこなのかと言うお話を沢山して貰って。



 結果として。マリィさんのご厚意で紹介して貰った宿で一晩眠った、次の日の朝は見慣れたいつもの私達のおうちだった。
 私を抱きしめて眠っているルエ君の顔を見て、一気に抑えていた感情が爆発して、朝から大泣きして凄く狼狽えさせてしまったことは、本当にごめんなさい、と落ち着いてから謝った。

 ……あの『夢』は。いったい、なんだったんだろう。










■



 あの大蛇(サーペント。リスキーモブ)には、私が駆け出しの頃に遭遇してなんもわからんままにやられました。
 マジで何が起こったのかわからんかったぞ今畜生(クシャ顔)



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