Eat Me
風呂上がり、今日はもう何もしたくなくてソファに横向きで倒れたデヨンが床に降ろした両の足をパタパタさせていると、入れ替わりで風呂に入っていたスヒョンが戻ってきたらしい。近づいてくる足音を聞きながら、デヨンは靴下を履いていない自分の足先に目を向ける。この家は土足だから普段はスリッパを使っているけれど、こういう時間くらいは素足のままでのんびりしたい。
背後で足音が止まりスヒョンが固まっている気配がする。
「部屋着、今日からそれなんですか」
それ、とはきっとデヨンが履いているハーフパンツのことだ。
「もう夏だからな」
「でも去年は暑い日も長ズボンでした」
ソファの前に回り込んでしゃがんだスヒョンはタオルで髪を乾かしながら、困惑したようなむず痒そうな形容しがたい顔をしている。
「こういうの好きじゃない?」
片足をすいと伸ばしてデヨンが尋ねると、間髪入れずに「好きです」と返された。そうでなくちゃ困る。おまえのために買い替えたんだから。おまえが俺の脚を好きだって言うから。
デヨンの脚を見つめるスヒョンの横顔を見つめる。たぶんしょうもないことを考えているだろうに、そんなことは微塵も表に出さない涼やかな目元が凛々しくて目が離せない。デヨンの方を向けば途端に表情がほどけてかわいらしくなってしまうから、時折こうして気付かれないように横顔を眺めている。
「触ってもいいですか」
「どーぞ」
「キスしても?」
「いいよ」
「……舐めていいですか」
「好きにしてくれ」
そのためにデヨンは足の爪の間まで念入りに時間をかけて洗うようになった。もともと脛はつるりとしている方だけれど保湿を考えるようになったし、スヒョンが安心して口に含めるように成分表示を確認して、隅々まで磨いて爪もやすりで整えている。この歳でこんなことをするようになるとは思わなかった。
デヨンのかわいい恋人は付き合ってしばらくしてから、耳やら手足の指先やら胸の先やらを、舐めたり吸ったり口に入れたがるのを隠さなくなった。デヨンはといえば、そんなスヒョンを見てかわいいとしか思えなくなっていた。
ソファから身体を起こすと、スヒョンの手が壊れ物を扱うような繊細さでデヨンの足を掬う。足の甲にスヒョンの唇が触れるまでの時間がスローモーションのように感じられる。そのまま跪くような姿勢でキスをして、それからゆっくりと目線だけで見上げてきた。
瞬間、火がついたようにデヨンの身体が熱くなる。視線に縫いとめられて逸らすことができずに、ぬるりとした感触が足の甲を這って、舐められているのがわかる。初めの頃は何も感じなかったのに今やすっかりそこだけで気持ち良くなれるようになってしまった。指の股に舌を差し込まれ、爪と指の間を丁寧になぞられ、親指の付け根を軽く噛まれる。
「や……っ」
「やめましょうか」
唇で足先に触れながら優しく問いかけるスヒョンに、デヨンは首を振った。たとえ確認しなくてもデヨンが本当に嫌がる素振りを少しでも見せればスヒョンは続けないだろう。
「でも」
「でも?」
「……なんかどんどんしつこくなってる」
恥ずかしさで滲んだ涙を拭うと、好きだからですよと歌うように返されて、愛しいと言わんばかりの笑顔を向けられれば全てを許したくなってしまう。些細な望みから大きな願いまで、受け止めて抱きしめたい。それがデヨンの愛し方だ。スヒョンの心を満たしてあげたいと思うとき、デヨンもまた愛する人に水をやり明け渡すことで満たされている。
スヒョンの唇が今度は足の先から少しずつ上がって最後に膝へと辿り着く。そこにも口付けると、デヨンの膝にあごを乗せて甘えるように見上げてきた。かわいい。こういうときのスヒョンの顔は、特に瞳は、子犬みたいでとんでもなくかわいい。デヨンはそもそもスヒョンの顔が大好きだ。
まるい頭を撫でると心地よさそうに瞼が閉じられて、彼にしては珍しくあくびが出た。乾き始めた前髪を払って額にキスをする。
「早いけどもう寝ようか。髪は乾かしてやるから」
「まだ一緒にいたいです」
スヒョンがもう片方の膝に置かれたデヨンの手を取って指を絡める。
「俺の部屋くれば? 隣で寝ていいぞ」
「それは……目が覚めるかも」
「いいよ」
頭を撫でていた方の指の背で今度はスヒョンのほっぺたを優しくなぞる。どちらからともなく見つめ合ったあとスヒョンが好む足の指先で腿をくすぐってやれば、じわりじわりと頬が染まって耳まで赤くなった。
「わざとやってますね」
「それ以外に無いだろ」
デヨンがスヒョンの鼻先を人差し指でつつくと、抗議するかのようにかぷりと咥えられる。
だっておまえのために服を選んで、身体を綺麗にして、爪の先まで整えて、誰にもされたことのない行為をゆるして、奥の奥まで触れさせて。全部かわいいおまえが喜んでくれるから。
だからその口で俺を味わい尽くしてほしい。
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