きほろか3
「芦佳は本当に占われるのが好きだね」
机の上にカードを広げてはまとめて、たったひとりのために行うそれが何度目になったのか。もう数えるのが億劫になるほどくり返したころ、在間は呆れたように呟いた。
もう慣れてしまった須王の遠出。思い出したかのように浮かれた電話が来る以外は碌な連絡がなかったが、その日はお土産があるから家へおいでよと言われて須王の部屋へ赴いた。
しばらくは土産の酒とつまみを二人で嗜んでいたのだが、そのうち酔っぱらった須王が在間に占いをねだりはじめて今に至る。それは須王自身のことであったり、明日の運勢であったり、次の旅行はどこがよいか、今週のラッキーカラーは、……もう占うことなんてないのでは、と思ってしまうほどだった。
全く自覚がありません、とでも言うようにへらへらしている須王にもう何回目だと思う? と問いかけて、山からカードをめくる。
「占ってもらうのが好き、というよりも……」
酒でふやけた笑顔のまま須王が話し始めたので、引いたカードをそっと伏せて続きを促した。
「樹帆が僕のことを話してくれるから好きなのかもしれないね。たとえ占いの結果だとしても、樹帆にいろんなことを言われるのが嬉しいんだ」
「そうなんだ?」
「だって僕は樹帆の事が大好きだからねっ」
人の気も知らないで、という気持ちを抑えつけて笑顔を返した。今ここで須王を組み敷いてその信頼を崩してしまったっていいんだと思う自分に、そんなこと出来るはずがないだろと目をそらす。
「長年一緒にいるんだから、占いでなくとも沢山話せるよ」
「本当かい? ぜひ言ってほしいなっ! できれば優しい内容で頼むよ」
「ふふ、それはどうかな」
須王について、ひとつひとつ思い浮かべる。「芦佳はいつも破天荒で突拍子もない事ばっかり言うよね」 周りのひとを振り回すだけ振り回して、「それでも皆がついてくるのは、愛される才能があるんだろうね」 無自覚にひとの弱い部分に入り込んで「誰にでも手を差し伸べるのは美徳だけど、自分で抱えきれるまでにしなよ」 相手に寄り添うくせにいつでも手を離していいだなんて言う「ああ、あんまり無茶な要求は控えてほしいかな」 無邪気で身勝手で、自分の価値をちっともわかっていない。
「でも、そういう所も好きだよ」
どう? と問いかけると呆けたようにこちらを見ていた須王の頬が見る間に赤くなり、手で仰ぐようにしながら「なんだかものすごく照れるね!」と返された。
「せっかくこんなに話したんだから、芦佳にも俺のことを話してほしいな」
「むむ、それもそうだね! まかせておくれよ。僕だって樹帆のことなら沢山話せるからね」
嬉々として話す須王の声を聞きながら、やっぱり的外れだなと考える。須王が思うよりずっと重くどろどろとしたこの感情を全て知ってしまったら、彼はどうするのだろうか。
今度は自分の家に須王を呼んで、その後ろ髪を解いて全部教えてやりたいな。と考えて目を閉じた。
powered by 小説執筆ツール「notes」
32 回読まれています