散歩


あんた誰、て言われました、と四草が言った。
四草が子どもと近所を歩いていた時にそれは起きた。
交番のお巡りさんと思しき男に、ちょっと、と呼び止められて「その子のお父さん、もっとノッポやけど、」と言われての、あんた誰、である。

「新しいとこに引っ越したんやぞ、馬の骨扱いされたかて当たり前や。これまで散々オレに丸投げしといて、今になって納得いかない、て顔したかて遅いがな。」
「……そうですけど。」と言って四草は読んでいた本を閉じた。
普段は人に腹立たしい思いをさせるばかりの男が困り顔をしてるとこを見ることが出来るのは兄弟子の特権ちゅうやつで、ま~あ面白いわなあ。
オレはニヤニヤと浮かんでくる笑みとからかいの言葉を腹の中に収め、今日は大変やったな、と返した。
考えてみればここの一軒家に越してからこっち、散歩はオレとしてるから、四草とおチビが親子やと知るのは一部の学校関係者だけてことか。
よう考えたら、悩ましい話やで、これは。一歩間違えてたらオレが言われてた訳やからな。
「今度、子どもと一緒に行きませんか、散歩。」と四草が言った。
「ハァ? 三人でか? オヤジ役がふたりいてたら、見てるもんは混乱するて。」
まあ僕は「役」付きませんけどね、とか言うたらはったおしたるとこやけど、それがほんまのことやからなあ。
「ええやないですか。僕だけでは、役不足らしいですし。」
そらまあそうやけど……。
「晴れたらな。」
「川原も歩きましょう。」と言われて、ほなそないしよか、と返事をしたら、「本格的な運動の前にちょっと慣らし運転させてください、」と言って四草が身体を近づけて来た。
慣らし運転……?
うかうかしてる間に寝てるベッドはギシギシ言うし、四草の顔がいよいよ近づいてきて、あっという間にチューされた。
……お前ソレ、順番逆とちゃうか?
まあ明日仕事あらへんし、今夜はええけどな。

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