【宿脹】お兄ちゃんに振り回されちゃう宿儺様
※色々ご都合みんな生存if
※みんな高専に居る。なんなら多分夏油も居る。
※仕事の合間に書いてたので誤字脱字あったら一旦スルーして下さい……サーセン
※ここからはじまる恋愛模様好き過ぎるな……って自分で思いました。
「お……」
己の姿を見てビクリと動きを止めた脹相に、宿儺は無言で視線だけを向けた。
ズタボロになった東京。その中で唯一形を残した元呪術高専の学舎に、対宿儺連合とも呼べる呪術師たちは集まっていた。
米軍に連れ去られた術師たちをどう救出するかなどを真剣に話し合っている人間どもの傍らで、呪いの塊である宿儺や呪詛師、呪霊側に居た者は一時的に高専側の作った結界の中に留められていた。
彼らが人間を害することを危惧してのことではない。
逆に、人間が彼らを殺せと叫ぶのを避けるためだ。
ゆえに宿儺も嫌とは言えず、乙骨によってどこかに連れて行かれた羂索よりはまだマシな処遇かと現状を受け入れていた。
なにより、宿儺はもう人間というものがどうでもよかった。
元々どうでもよかったものが更にどうでも良くなった、という感覚かもしれない。
たまに暇潰しに五条悟が組手をふっかけてくるが、その程度で満足出来る程度にはどうでもいい──はずなのだが、今日になって連れてこられた赤子をつい、興味深く見てしまう。
「今日から同室の脹相くんでーす。ちなみに羂索の息子で悠仁のお兄ちゃんね。半人半呪だけど身体は人間だから、お前との組み手は禁止です」
「別にしたいとも思わんが」
「ちょっと今ゴタゴタしててさ。一時的に向こうさんの目を誤魔化すためにこっちに入れておくことになったんだよね。ま、よろしく頼むよ。大丈夫になったら迎えを寄越すからさ」
「……待て、肉体は人と言ったか?」
「そ。あ、まだその子離乳食始まったばっかだから! んじゃよろしく!」
りにゅうしょく。思わず呆然と五条悟を見る。
が、押し付けてきた五条悟はサッと消えてしまい、後には動揺したままの宿儺と脹相だけが残される。
確かに、脹相は肉体を得た時間としてはまだ赤子の範疇だ。
虎杖悠仁を殺す邪魔をしてきた男なので厄介だとは思っていたが、戦いを終えた所でそんな厄介さを生み出すとも思っていなかった。
というか何故こちらに任せた?
せめて裏梅に任せた方が良かったのではないか?
今は縛りを結んだ上で高専の食堂で動いていることの方が多い裏梅を思い出し、しかしこれ以上アレに負担をかけてもとため息を吐く。
ただそれだけのことで、脹相はビクリと身体を跳ねさせてから片足を下げて身構えた。
腕を構えはしない。だが、いつでも動けるように足を下げ開くのは、距離をとって溜める赤血操術には必要な動きだ。
未だに、己への畏れが残る者が居る。
それだけのことが、酷く愉快に思えた。
「好物は」
「……は?」
「苦手な味はあるのか」
「え、は……」
「いきなり吐かれでもしたら厄介だからな」
クッと喉の奥で笑いつつ聞いてやると、脹相は反射で後退ったがすっかり困惑の表情だ。
少なから好物を問われる。
まさかそんなことがあるわけがないと思うのも、当たり前のことだろう。
だが「そんなこと」に困惑をしているこの赤子の表情が本当に生まれたての仔のそれのようで、宿儺は絶え切れずに口角を上げた。
──が、宿儺が笑いながら脹相を眺めていられたのは、ここまでだった。
「これはなんだ。超新星のようなかたちをしている」
「八角だ。貴様が昨日嫌がって吐き出したばかりだろう」
「臭いな」
「臭くない」
「何故……こうちゃに木の棒を……?」
「桂皮……シナモンだ。お前が腹痛をしていると聞いた虎杖悠仁が」
「悠仁っ!」
「いきなりデカい声を出すなやかましい」
「貴様の顔の半分は骨と言っていたが、眼球を突いても痛くないのか?」
「何故眼球も骨だと思った?」
「……すくなだから?」
「俺にとて人並みの硬さの部分はある。覚えておけ」
九相図(兄)たる脹相は、この世に存在して150年が経過する特級呪物だった。
生まれてこれなかった胎児でありながらも意識を持ち、受肉するまでの間ただひらすらに生得術式たる赤血操術と向き合っていたという存在。
実際、赤血操術は攻守近遠揃った万能の術式だ。脹相本人の特質も相俟って、その強さは人間相手ならばほんの髪先程度の傷でも倒すことが出来るだろう、強者。
──の、はずなのだが。
「すくな」
「……伏黒恵に、稼働中の洗濯機に指を突っ込むなと言われなかったか」
「言われた」
「なら何故つっこんだ」
赤子だ。これはもう赤子で間違いがない。
何か縁側でしょんぼりとしていると思ったら、明らかに変な方に折れている指を眺めてしょんぼりしている脹相に軽く頭痛を覚える。
五条悟が作ったこの結界の中には、「呪霊も人並みの生活してみなよ!」とかいう謎の理論のもと人間の生活様式に基づいた空間が出来上がっている。
家具家電もその中のひとつであり、最初にここに連れてこられた時脹相は「これは九十九が使っていた」だの「これは悠仁と渋谷に居た時に見た」だのと興味津々で見て回っていたものだ。
正直、宿儺一人の生活であればこれらは一切不要のもの。
食事も要らない掃除洗濯も不要と一切家の中を整えずにいた宿儺は、しかしここに来てまさかの人間らしい生活を強いられ始めていた。
家具家電の使い方は、虎杖悠仁や伏黒恵の記憶のお陰で不自由はしていない。
だが脹相は弟と引き離されて無気力になっているのか、それとも受肉体の方が余程ポンコツだったのか、未だに人間らしい生活とは遠い場所に居た。
一日中眠っているか、本を読んでいるか、ぼーっとしているかのどれか。食事だって、宿儺が呼んでやらねば席にもつかない。
幸い、食事の作法やなんかは知っているようだったが、五条悟が「離乳食」と言っていただけあって消化に悪いものやアルコールは苦手としているようだった。
今日まで、誰もコイツに人間らしい生活を教えてこなかったのか?
戦いが終わってからここに来るまでに高専で過ごしていたはずだし、天元の結界内で過ごしていた時間もあるはずなのに。
コイツは、何故、
「天元のところでは、あまり食事はしていなかった」
「もらえなかったのか?」
「九十九も天元もいい奴だった。ただ、ヒトと同じ事をしていいのか、わからなかったんだ」
ある日の夕食時。今日も来なかった迎えにしょんぼりしながら夕食の席についた脹相に、宿儺は酒の肴ついでに話を投げた。
普段は飯時に会話をすることは、あまりない。
脹相はただメシを食うという行動だけでも一生懸命だし、宿儺も脹相にたいした興味を抱いていなかったからだ。
「……今も、毎日食事をしていていいのかと、思う時はある」
「あぁ……」
「でも、悠仁や、五条や、日車や、のりとしが……皆が食えと、言うから」
食うことは、命を繋げることだと、言ったから。
ぼそっと言った脹相の目に、うるうると涙が膜を張り始める。
おい待てここで泣くのか。まさかのタイミングでの涙に、宿儺は脹相の顔面に台拭きを押し付けてやった。
あぁもう、アレは台拭きではなく雑巾にしよう。
「うらうめも、くえくえとうるさい」
「アレは、そうだろうな」
「でもうまくがんばれなくて……そうしたら、ごじょうが」
「あやつめ……」
脳内でダブルピースをかましてくる五条悟に舌打ちをして、今日はいつもよりも膳半分ほど多く食べた脹相の手元を見る。
裏梅は、宿儺が復活するより前に脹相と行動していたことがあると言っていた。
きっと、戦いの中でより人間の方に傾いたこの赤子を見て、どうにもこうにも口を出さずにはいられなかったのだろう。
そしてそういう性質がある部分を、あの五条悟は正確に嗅ぎ取って脹相を宿儺に投げたのだ。
ゴタゴタしているというのも、どこまで本当であることやら。
これはカウンセリングだ。おそらくは、宿儺と脹相、どちらに対しても。
涙でどんどんぬるくなっていく台拭きの替わりにキッチンペーパーを持ってきてやると、脹相はなんの遠慮もなく鼻をかんだ。
あの鼻の血の痣に触れることが出来る者も限られている脹相は、多分人間の中ではまだ、うまく生きることが難しいのかもしれない。
宿儺が人間やこの空間に馴染むことが出来ていないように。
「年上」ばかりの空間に、怖気づいていたのかも。
「…………はぁ」
「むっ……だ、出されたものはちゃんと食べる」
「そうしろ」
今日の脹相用の飯は、柔らかく炊いた鶏の肉と麦を混ぜた五分粥と、鶏肉から剥がしてカリカリになるまで焼いた皮と乾煎りジャコを水牛のチーズとトマトに乗せたもの。それから、ほうれん草の白和えだ。
虎杖悠仁の記憶からレシピを引っ張り出しつつ「何故俺がこんなことを……?」などと思ったものだが、残りの鶏皮の脂で作ったチャーハンは悪くないので、もう諦めるしかないのかもしれない。
脹相が少しばかり飯を残した時には翌日にアレンジしたものを出し直したり、完食した時には似たようなものをもう一度出してみたり……
おのれ五条悟──
今日の飯は口に合ったのか、鼻をグスグスさせながらもメニューと反して達者な箸使いで完食する脹相を眺めつつ、宿儺は喉を焼く酒を盃いっぱいグッと一息で飲み込んだ。
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