「…………」
 暑っっっつ。あまりに暑い。暑すぎてこの舌のキレまで鈍っている。
 外出から帰ったタマモクロスは自宅の畳の上に伸びていた。
 首に伝った汗が畳に落ちるのを感じる。だけどどうしようもないくらい暑いのだ。
 
 そのうちに、がちゃりと玄関が開く音がして、けたたましい蝉の声が流れ込んできた。
 「タマ! お帰り」
 「おー、オグリもお帰りー」
 少し遅れて同様に帰ってきた同居人――オグリキャップは汗を浮かべながら、「アイス一緒に食べよう」と買い物袋を軽く掲げた。
 
 ようやく効き始めたエアコンが、かたかたと鳴るのを聴きながら、二人でテレビの前に座る。アイスの蓋を開けながら、チャンネルをトゥインクル・シリーズの中継に合わせた。
 夏のローカル開催のメインレース前。客席の様子だけでも相当の暑さだと分かる。ましてやコースの上で走る後輩たちや係員はたまったものではないだろう。
 「見とるだけでも暑っつそうやな」
 「ああ……」
 「ほんま、ウチらが現役の頃はこんな暑くなかったっちゅーに」
 「うん。まだ七月なのが信じられない」
 
 ぼやきながら見ているうちに、出走時刻を告げるファンファーレが聞こえてきた。
 ゲートへ向かう娘たち。その顔には倦怠なんて見当たらない。
 前だけを見据える瞳の輝きは、容赦なく照り返す芝にだって負けていない。
 ギラギラしたそれが、二人には眩しくて、そして懐かしかった。

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