サイン | ウィルシャム
ウィルが部屋の窓際で植物の世話をしていると、ビゼルを抱いたシャムスがおもむろに近くに座った。
「どうしたの?」
「別に……」
特に用があるわけではないらしい。
ウィルは「そっか」とだけ返し、先ほどより軽やかな手つきで草花を愛でる。
シャムスは何をするでもなくビゼルをあやしているようだが、じわじわと感じる視線。
ウィルを見ているのだろうか。聞いたとしても、「自惚れんな」と逃げてしまう気がして、そのまま作業を続ける。
そういえば、今日は朝からずっとシャムスとの距離が近かった気がする。朝食を作るときもウィルのそばで手伝ってくれたし、食後にソファでくつろいでいるときも、肩がくっつきそうな距離でゲームをしていた。
植物の世話が終わっても、シャムスは静かにウィルを見ていた。
たぶんもう、逃げられることはないだろう。そう確信を持って、優しくシャムスの名前を呼ぶ。「ん……」とどこかぼんやりとした返事を聞きながら、シャムスの隣に座る。
ふわふわの髪の毛に手を伸ばしてゆるりと撫でても、毛先を一房すくって指で遊んでも、じっとしている。
普段だったら文句の一つでも飛んでくるのに、委ねてくれるのは、甘えたいのサイン。
少しでも焦れば、途端に消えてしまう、淡いもの。そんなシャムスらしい表現に口元を緩める。
たっぷりとシャムスの頭を撫で、仕上げとばかりに耳のふちをするりとなぞれば、くすぐったそうに肩をすくめる。
その振動に驚いたのか、シャムスの腕の中にいたビゼルはどこかへ行ってしまった。
咎めるような視線を向けても、ウィルのそばから離れない。もっと触りたいな、と思う気持ちをどうにか押し込めて、たわいのない話題を振る。
「お昼ご飯、どうしようか」
「飯のことばっかだな」
さっき食っただろ、と笑うシャムスの声は穏やかだ。
シャムスと一緒に食べるご飯はとびきり美味しくて、美味しそうに食べるシャムスはキラキラしていて、だからつい話してしまうのかもしれない。
「シャムスと食べるご飯はおいしいから」
半分だけ正直に伝えると、なぜだか驚いたような顔でこちらを見たあと、「そーかよ」と呟いた。満更でもなさそうな反応に、気持ちは浮き立つ。
「でも、まだ腹減ってねーからあとでいい」
そう言ってウィルの手をとり、肩を寄せた。あとでいいから、まだこうしていたいってことだろうか。いつになく甘えたなシャムスは、居心地の良い場所を見つけると、そのままウィルに体重をかけた。
掴まれたままのウィルの手は、今度はシャムスに遊ばれる番だ。
両手で包まれたり、指を絡められたり。ウィルより少しだけ小さい骨ばった手が、器用に動きまわる。
こちらも返したくなって、ぎゅ、と力を込めると、手が繋がれる。
「ウィルの手……」
「ん?」
「……なんでもねぇ」
素直だったシャムスは口を閉ざしてしまう。でも、声の感じでなんとなく察することができた。シャムスはいつだって行動で示してくれるのに、言葉にするのはどうにも照れるらしい。だから代わりにウィルが言葉を紡ぐ。
「シャムスの手、好きだな」
力強い爆発を生む手のひらが、ビゼルを撫でるときも、ウィルに触れるときも、こんなに優しいことを知っている。
シャムスの返事はなかったけれど、繋がれた手の力が強くなる。
ウィルはシャムスと、お腹を空かせたビゼルの不満げな鳴き声を聞くまで、ずっとそうしていた。
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