さらさら



 改定案

 前略、俺は転生した。
 神様は二次創作が好きらしく、ループを繰り返す神様の知っている漫画とか小説の世界に定期的に俺たちのような転生者を送り込むのだが、別にバッドエンドでもない原作の筋を大幅に変えようとすると心が耐えられなくなるタイプの弱いオタクだった。
 そのくせ神様は自分が手を出すのは違うと善神ぶって直接介入を避けた結果、今この世界は「原作にいっちょ噛みしてちょっと主人公と雑談するくらいの仲になりたいね」の過激派と「原作に介入したら殺す派」の穏健派での暗闘が日常茶飯事となったのである!

 俺は転生した瞬間、高校生としての身分を手にいれたことを把握し、真昼の交差点の前で立ち尽くしていた。ねえこれ誰かの身体奪い取ってない?しかも意外と自宅の場所までの記憶がない……!
 自分の服装と持ち物を把握しているうちに、




















 気がついた時、俺は真っ白い空間の中に立っていて、目の前には人が立っていた。

「君にはこれから転生してもらいます」
「て、転生?」

 俺が状況を理解できないうちに、神様は俺に近づくと、頭に手をかざし、何かを照射する。
 「何を!」その瞬間、俺の頭の中には突如膨大な知識が流れ込み、一瞬意識が飛びかける。
 転生、チート、テンプレ、ハーメルン初回投稿日(古い順)ーー。
 
 ことのおおよそを理解し、頭の隅でハーメルンの作品の読み上げ音声が流れ続ける中、俺は神様に詰め寄った。

「つまり、神様は俺を間違って死なせたということなのか?もしそうなら元の世界に帰してくれ!」
「いや君は私関係なく普通に死んだけど?」
「え……?」
 
 困惑する俺をよそに、そういえば神様が主人公を間違って殺すテンプレってあんまりみなくなったね、と神様は言った。
 神様はまるで偉そうな人の真似をするように後ろ手を組み、俺から目を離さず後ろ向きに数歩下がった。
 神様の顔は美少年にも、美少女にも、素朴な大人にも見えたが、するように動く素足はどこか女性的に感じる。
 神様はゆったりとした声で俺に諭すような口調で告げる。

「もちろん元の世界に帰してあげることはできないよ。別に君が死んだのは私の責任じゃないし、君だけ特別扱いで生き返らせてあげるというのはキリがない。君たち人類は全体としての話では不慮の事故や病気で亡くなることで人口の急激な上昇を抑えているという構造的な事情もあるだろうから」

 声は、女性的な柔らかさと男性的な安心感のある響きが心地よい音階で重なっている。
 その波形に秘められた説得力に俺は思わず頷き、そこに自分の意思が追いつくようにして自身の境遇を納得した。
 俺の暗示にかかったような様子を見て、神様は満足したのか、うっすらと紅をさした唇を蠱惑的に歪め微笑んだ。

「まあ、そもそもここで納得しないような人はそもそもここに来れないようにしてるからね」
「そ、それってどういう」
「ここは天国とは選定基準がちょっと違うってことだよ」

 そういえば俺はここにくる前、つまり死ぬ前の様子を全く覚えていない。これも神様の思し召しによるということだろうか?

「君の死因はちょっと凄かったから、まあある程度記憶が風化したら戻すから今は待ってて、ごめんね?」

 片手で謝りながら言われても、俺にはどうすることもできないのだから受け入れるしかない。
 微妙な顔で立ち尽くす俺を見て、空気を変えるためだろうか。パーン!と柏手を響かせて神様が本題に入った。

 「じゃあ君が転生する先なんだけど、まず君にはここにある本棚の中にある漫画と小説を読んでもらうよ!まずは転生先を好きになってもらわなきゃ!これとか読んだことある?ない?そりゃいいね!今から楽しめるなんて贅沢者〜!ほらそこにマッサージチェアとドリンクバーあるから自由に使って!」

 急に神様が早口になり、その美術的な顔をぐいっと近づけてくる。神様も汗をかくようで、揮発したそれが香水を纏っているように俺の鼻腔をくすぐる。何か背徳的な気持ちから逃げるように俺は彼女から渡された漫画を受け取ると、そそくさとマッサージチェアに向かった。
 こういう『神様が気軽な態度をとってくる』というのも確かにテンプレの一つだったな、と植え付けられた知識がだんだんと脳に馴染んできていることにちょっとした怖気を感じながら。


 「さっきまでの俺って人格まで変じゃ無かった?」
 「まあここにくる前までの記憶が封印されてるから人格が破壊されているみたいなもんだし」
 「邪神の類ですか?」
 「神様でもそれぐらいするでしょ、昔転生させるふりして拷問にかけるだけの神様そこらじゅうで読んだよ!」
 「なんで実際の神様が神様を小説基準で語るんですか?しかもほぼネット小説ベース」
 「まあまあ、実際どれが面白かった?」
 「うーん。どれも面白かったけど俺としては『雄大な青。』とか特に好きですね!俺もこういう青春を過ごしたくなったってすっごく思ったし。こう、登場人物がみんな毎日電池が切れたようにぐっすり寝てそうな全力さがキラキラしててさあ!」

 神様は、俺の漫画の感想をうんうんと本当に嬉しそうな顔で聞いてくれる。そこに親友のイデアの影のようなものを微かに感じた俺は自分の未成熟を恥じ、顔を紅潮させ目を逸らした。照れ隠しに、ずっと疑問に思っていたことを神様に伺う。

 「その、神様の目的はなんでしょうか?」
 「目的?」
 「ええ。神様は『元の世界には返せない』と仰っていましたが、例えば、この『雄大な青。』とか、『放課後きゃんぷ日和』とか、あとこの『てにすぼーる』にだって、転生すればほとんど前世の現代日本と変わらない生活ができるでしょう?それに、俺の記憶とか人格を自由に弄れるならここまでの時間は全く要らないじゃないですか。俺に何かさせたいことがあるのではないでしょうか?」

 俺がかしこまって言うと、神様は自分の艶やかな髪を撫で付け、とても魅力的で全く神秘的でない大笑いで答えた。

「まあ、私みたいなライトな漫画オタクは自分の好きなものを相手にも好きになってもらうのが性癖みたいなところがあるから、話し合いは私の趣味みたいなものだよ、目的は今説明しよう」

 神様はその四肢を地面に付く。慌てて俺はその|頭《ず》を神様より低く下げる。それを見てあ、ごめん。と神様は気さくに謝り、地面に丸い穴をあけ、下界を示したもうた。

 「あれを見てごらん」
 「あれは……もしかして!」

 神様がその指先で導く先には、一人の女性、といっても歳のころは中学生くらいだろうか?夏服を着て、なぜかペッチャンコの通学カバンを持ったロングヘアーの眼光鋭い少女がイケメンに絡まれていた。
 
 「そう!あの黒髪で不良ぶってるけどだけどみんなに分け隔てなく接して意外にも一人称が私の女の子の名前はご存知『万府良子』ちゃん!!君も読んだであろう『パラリラガールとパラレルパラソル』の主人公兼ニセ魔法少女の女の子!!!そして彼女に絡んでいる|イケメン《転生者》は百合に挟まるチャラ男!」

 「」

「私の読んでた漫画には私みたいな神様がいるって設定はないんだよ蛆虫野郎ー!」

 











「俺はさあ!北海道でファミレスに行って刀ぶら下げたお姉さん見ながら時間潰したり、沖縄でバカ大学生の酒盛りを横目にダイビングしたりしたいんであって!世界を救ったり誰かの忘れられない人になったりしたいわけじゃねーんだよ!」









 「アニメのセリフのパクリでしか喋れねーのか」

 呪術は一般名詞だろ

「◯遁!葬柱棍の術」
「オリジナル◯術はやめろー!」
「忍術は一般名詞だろ!」
「遁術も一般名詞だよ!」
「一般ではないでしょ」

 規制音が入れることを、技の系統を誤魔化す忍術の高等テクニックですとばかりに澄ました顔で無視したAは
 両手を高速でぐちゃぐちゃに結びながら術名を叫んだ後、両手を筒状にして口の前にセットした。
 それをみてBは咄嗟に射線から飛び退いたが、特にAの動作は全く攻撃と関係なくBの着地点から石柱が高速で迫り出し彼の足を打ち抜いた!

「があっ!」

「◯術ですらねーじゃねーか!それは◯術だろうが!」
「呪術も一般名詞だろ」

 転生者たちには体の一部に神の使徒たる紋章が刻まれている!
 
 「な、どこにだ!」
 「大体は頭蓋骨に直接彫り込まれている…、基本的にレントゲンを撮ったときに判明する」
 「ひでえ」

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