2023/11/19 13.北海道ロイヤルミルクティ

 島には花があふれている。
 チャールズが整えたものもあるが、島全体が『精霊の枝』みたいになっているところがあるらしい。
 あちこちに精霊の姿が見えて、人も精霊もずいぶんと賑やかになった。ふと思い立って、バラの花を大目に貰う。両手に大量のバラの花を入れた籠を手にして塔に向かって歩いているところをアウロとキールに見とがめられて何をしてるんだと怪訝そうな顔をされた。
 まぁ試してみたいことがあると、それを塔のキッチンへと運び込む。

 花をむしっているとバラの精霊や花の精霊、香りの精霊などがあちらこちらを好き勝手に踊る。
 軽く水洗いをすると今度は飛沫の精霊や水滴の精霊が花びらをつついてケラケラと笑い始めた。うーん、実にファンタジーですね。
 鍋にシロップを作り、花びらを投入して火を止める。一瞬で花びらの色がくすむ。そこにレモン汁を入れてよくかき混ぜると、また別の華やかな色合いになる。味見をして少し砂糖を足して、煮沸したガラス瓶へ。この瓶も俺は作ったやつだ。



「甘い匂いがしていたぞ、何を作ったんだ?!」

 チャールズとソレイユの執務室に来るとキールが待ち構えていた。塔に突撃してこなかったのは褒めるところなんだろうか?
 何とも言えない顔をしているソレイユに先ほど作ったものを差し出す。乾燥させたバラの花びらとフランボワーズを入れて焼き上げたパウンドケーキ。見た目を華やかにするためにひっくり返してアイシングして、さらにバラの花びらを散らしている。

「素晴らしいわね、客人用にしたいわ」
「ちょっと試したいこともあるのでここで食べちゃってもらいたいんだけど」

 それでチャールズも呼んだんだ。不思議そうな顔をしている面々の前でファラミアがケーキを切り分ける。アウロが薄いのは本人の申し出だ。今度はしょっぱいのを用意しよう。
 淹れてもらった紅茶はミルクティでした。
 それはそうとふわりと香るバラの香り。前世よりも香りが強いのは精霊の力かな?

「香りが、強い、ですね」
「バラ、か?」
「あぁ、使っているバラはこの島で採れたものだ」

 生まれた精霊ごと調理しているようなものだし、チェンジリングには味だけじゃなく香りも強く感じるのだろう。

「困りますね、野菜だけじゃなく花をむしる虫が出そうです」
「いや、さすがに花だけ食べても味はしないと思うぞ?」

 困ったような顔のチャールズに思わず首を振る。いやしませんよね? 不安になってきたな。そう言えば宿屋の親父が花の精霊だったが、これどうなんだろう。いや、甘いのは苦手だったか。

「それと、これはソレイユに」
「ありがとう? 綺麗ね」

 ソレイユに渡したのはこのケーキにも使っているバラのシロップだ。ピンク色の花びらが薄いピンク色のシロップの中に漂っている。紅茶に砂糖の代わりに入れると香りがいい。あと、安眠とストレス軽減効果があるそうです。はい。

「どちらかと言うとこれも要因になりそうだけど……でもありがとう」

 ローズウォーターがスキンケアに仕えるそうだし、花がもっと増えたらそっちも提案してみようかな。その場合は『精霊の枝』の売り上げになるんだろうか。

「庭の花にも力を入れなければいけませんね」

 それはそうとして、花も場合によっては食えると知ったチェンジリングたちによってさらに島がすごいことになりそうです。
 ちなみに作ったバラのシロップの半分はアッシュにあげました。喜んでもらえたけど、執事の顔が「いったいどんな効果が?」と胡乱だったのは見なかったことにしよう。ただの安眠ですよ!

powered by 小説執筆ツール「notes」