きほろか3-2
その日見た雲の形がキリンに似ていたから、本物を見に行こう! 思い立った次の日に須王は国境を越えた。楽しいことがあった時、面白いものを見るたびに大切な人に共有をしたくて在間に電話をかける。しばらくは楽しい時間を過ごしていたが、電話の回数が重なるにつれて直接会いたいと思うようになり少し早く帰国した。
お土産があるなんて誘い文句で在間を家に呼んでお酒とお菓子をふるまう。そうしたらもっと在間の声が聞きたくなって、何度も占いをねだっていると「本当に占われるのが好きだね」と言われてしまった。
「占ってもらうのが好き、というよりも……」
在間に占われることは好きだ。カードを混ぜる時の真剣な表情や、山からカードをめくる繊細な指先を眺めるのは楽しくて、そして何より須王のことを話す優しい声を聞くのが好きだと思う。周りに慕われている在間をその時間だけはひとり占めしているような気分になるから。それはつまり、
「樹帆が僕のことを話してくれるから好きなのかもしれないね」
たとえ”占いの結果”であって在間自身の気持ちではないとしても。その口から自分への言葉を聞くことが嬉しい。もっとたくさん話してほしいな、少し欲張りだとも思うけど。
「そうなんだ?」
あどけない顔で聞いてくる在間に「樹帆のことが大好きだからね」と告げると微笑みを返された。
在間が少し考えるような仕草を見せた後、長年一緒にいるんだから、占いでなくとも沢山話せるよ。と呟いた。いつにもない貴重な機会につい前のめりでねだってしまう。以前は芦佳が明日のことを忘れるくらい酔っていたらね。とはぐらかされてしまったが今日は乗り気のようだ。
とつとつと紡がれる在間の言葉を聞く。占いを介さずに聞く印象のひとつひとつを、僕のことをこんな風に思っているんだ。と理解するたびに胸がむずがゆくなる気がしてきて、今がとても幸せだと思いながら在間を見つめていると「あんまり無茶な要求は控えてほしいかな」といたずらっぽく言われてしまった。
「でも、そういう所も好きだよ」
どう? と締めくくられた言葉を聞いて、めずらしく在間から直球で投げられた好意に己の頬が熱くなるのが分かった。僕も樹帆のことが好きだよ! と叫んでハグしたい衝動を抑えながら手で顔を仰ぐ。……本当は抱きしめてキスをしたっていい関係のはずなのに、あんまり触れすぎると嫌われてしまうかなと思っていつも怖気づいてしまう。在間はそれに気付いているだろうか。
照れくさい気持ちをそのまま感想として告げると「芦佳にも俺のことを話してほしいな」と要求されたので、まかせてくれと思いつく限りの在間のいいところを並べ立てる。少しでも多く在間に自身の価値が伝わるように、そして須王の気持ちが伝わるように。
須王の言葉を聞く在間が目を静かに閉じたのを見ながら、もしかして眠ってしまったのかな。今日は樹帆もいつもより酔っていたのかもしれないなと思った。
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