ゼラニウムの花束を 貴方に

みんなが世界から、私の目の前から消えていく。
……いや、正確には私が取り残されて、私が消えるんだ。
いつもみたいに笑顔で、みんなを見送る。
「いってらっしゃい、」
そしていつもは言わないひとことも付け加える。
「───元気でね。」


精神世界での拘束は、現実世界での死を表す。
それを嫌でも理解してしまう。
大丈夫、だって最近はみんな強くて、私の回復術も使うことが滅多に無い。ここまできたみんななら、きっと最後まで戦い抜いてくれる。
私はここで衰えて行くんだろうな。精神すらも、消えていくんだろう。
自分自身をその対象に選んだことに、後悔は無い。

……いや、嘘。1つだけ、ある。
騎士さんの顔が脳内に浮かんでくる。
私のことを好きだと言ってくれた騎士さん。
突然のことにびっくりして、戸惑ってしまって、何もお返事できなかった。
なのにこんなお別れになってしまって、ごめんなさい。
魔王のことを倒して、世界が平和になって、
そしたら一緒にいたりとかしたのかな……。


ねぇ、騎士さん。あの時は上手く言えなかったんだけど。
気持ち伝えてくれて本当に嬉しかったんだ。
笑顔とか仕草とか性格とか……って言ってくれたけど、騎士さんだって素敵な笑顔だし、団長!って感じの丁寧で真面目な仕草とか性格とかも素敵だって思うし。
私のご飯を一番たくさん、美味しいって言ってくれたよね。
「また君のご飯が食べたかったな」なんて言ってくれたね。
騎士さんの記憶の本が私のことたくさん書いてあって笑っちゃった。でもそんなに想ってくれてたんだね。

騎士さん、やっぱりすぐに頷くのは難しい。だってそんな風に思ったことなかったから。私はみんなのことが大切で、大好きで。騎士さんももちろんそうだけど、たぶん騎士さんが言うのとはちょっと違って。
でも、戦いが終わったあとの、騎士さんと二人の生活を想像したらさ。幸せだなって思えたんだ。
私の作ったご飯を、毎日きっと美味しいって食べてくれて。何気ない日々が輝いて見えるんだろうな、って。

だから、私の答えは。

「……          !」

誰もいない空間に、次元さえ違う貴方に届くように。
私は一人で、大声で叫んだ。

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