2023/10/26 焼き厚揚げ

 どうにも仕事が立て込んでいて、どこかに行っている余裕はないのだが、それでも何とか異世界にはログインを続けている。そんな時期だった。
 どうにも我慢できず、私はあるものを手にそこへ訪れた。

 ――貢ぎに来ました。

 そう言って自分の『庭』にやってきた私に、クズノハは心底呆れたような顔でため息をついた。すごいな、狐でも呆れた顔ってわかるものなんだな。

「何を言っているの?」
「ブラッシングさせてほしい」

 そしてあわよくばもふらせてほしい。クズノハは男嫌いなので無理はいわんが、眷属の狐さんたちをですね。

「白いのと黒いのはどうしたのよ」
「もうやってきた」

 なんなら騎獣の白虎もペテロの黒天も菊姫の白雪もブラッシングしてきた後だ。あまりやりすぎてストレスになっても悲しいので、これでも自重しているんですよ。

「賄賂のお揚げも持ってきました」
「まったく呆れたわね。私はあなたのPETなのだから好きに命じればいいのに」
「だからといって嫌だとわかっていることを無理やりやるつもりはないですよ」

 そもそも放し飼いだしな。メタ的には嫌われてモフに逃げられたくないです。もともとが妙齢の女性だと知っているのでペットと言われると微妙な気持ちになるな。いや、今はキツネなのでリデルに比べればまだましです。

「好きになさい。すでにその気みたいだし」

 クズノハが顎で示すようにするので振り返ると、言うように狐たちがちょこんとスタンバっていた。大変素直でよろしい。私は油揚げを差し出し、丁寧にブラッシングをさせてもらい、尻尾をもふらせてもらった。
 ひと通り終わり、狐たちは油揚げももらったからもう用がないとばかりに畑に散っていった。つれない。

「さて、私も食事にしよう。クズノハも食べるか?」
「いただきましょうか」

 うなずくクズノハの前に膳を出す。メインは厚揚げ豆腐を焼いたものだ。両面に焼き色がつくまで焼いた厚揚げに味噌とみりんを混ぜたたれに小口切りにしたニラを混ぜたものをかける。しょっぱくてご飯のおかずにぴったりだ。動物には塩分過多かもしれんが、クズノハは普通の動物ではないので問題ないとのこと。
 はぐっとばかりに一切れ口に入れたクズノハは気に入ったらしい。ぶんっと二つの尻尾が大きく揺れた。ちなみにクズノハの毛並みはリデルなら私しか使えないアイテムも使えるので、ブラシを一時的に渡してお願いしているため、触ったことはないがふわふわなのは見てわかる。
 皆の毛並みがよくなるのは私も嬉しい。

powered by 小説執筆ツール「notes」