ねこのひにゃんにゃん

 気が付いたら猫耳としっぽが生えていた。本当に、気が付いたら。
 どうやら撮影に使うようなつけ耳の類でも、ましてやジョークグッズのような簡素なものでもないらしい。耳も尻尾も動かそうとすれば動くし、なんだか人生で尻尾を振ることなんてないから不思議な感じだ。えーと、つまり、これは夢?
「夢だとしたらお前さんはだいぶけったいな夢を見るんだな」
 え、と思って振り返ると見知った長躯がベッドに寝そべっていた。よく知っているツナギ姿ではなくて、ホテルで見るようなタオル地のガウンを着て。胸元は相変わらずがばがばだけれども。
 あたりを見回すとどうやら本当にホテルのようだった。ビジネスホテルやシティホテルではなくて、ラブホテル。枕元にはおなじみのあれやらそれやらが転がっている。えーと、いつの間に? やっぱり、夢じゃないのー?
 怪訝そうな顔をしているこちらに、雨彦はよ、と勢いをつけて起き上がって目線を合わせてきた。安っぽいホテルの蛍光灯の下でちかちかと雨彦の瞬きが散る。気を遣わずに起き上がったせいでずれたガウンの合わせ目から見えてはいけないものが、見えた、気がした。
「……えー、下着はいてないのー?」
 いや、そもそもそんな格好しているところから突っ込むべきなのかもしれないけれど。雨彦とラブホテルに来ること自体は割と日常のことではあるけれども、残念なことに今ここに至るまでの記憶はどうあがいても思い出せない。雨彦はこちらの言葉にやはりぱちぱちと瞬きをして、それからにやりと笑った。
「さぁ、お前さんのけったいな夢のようだからな」
「雨彦さんの夢なんじゃないのー?」
 さすがにこんな趣味、自分にあるとは思ってもいなかったんですけどー。
 頭の上の耳に恐る恐る触れると、やわらかくふわふわの毛がさわさわと触れる。さらに近づいてきた雨彦がはこちらのことを上から下までじっと見たかと思うと、意地悪く釣り上げた唇を更に歪ませた。
「それに俺のことばかり言っているが、お前さんもなかなかだぜ」
 するりと長い指が肌を滑って、尻尾の付け根をなぞるように撫でた。ぞわりと毛が逆立つような感覚が背筋をびりびりと走って、だから、ひゃ、と身を竦ませる。雨彦はこちらの反応に気をよくしたのか、そのままこちらの、ほんの少し持ち上がった熱に指を絡ませた。
「……ッ?!」
 え、どうして僕は服着てないわけー?!
 本当に、全く気が付いていなかったのだけれど、雨彦のがばがばの胸元なんて笑ってはいられないくらいにこちらは一糸纏わぬ姿だった。気が付いてしまうとなんだかすーすーと心もとなく、少し肌寒い。二の腕を抱き締めてぶるりと身体を震わせると、ふ、と息を吐くように笑った雨彦にぐいと引っ張られてあたたかな腕のなかに囲われた。北村、と名前を呼ばれたかと思うとやわらかな唇が降ってくる。
「……ん、っ、あ……なにー?」
 キスは少しだけ長くて、それから甘ったるい。先ほどの肌が粟立つような悪寒とは違うあたたかさが、身体の奥底からじわりととろけだしていく。くてんと雨彦の胸に身体を預けて、顔だけあげてその桔梗色を見つめた。視線はキスよりもずっと甘ったるく、そうして艶めいている。指先がまた、なめらかに肌を滑っていたずらにしっぽを撫でていった。頭の上の耳をかじりと噛まれて、びくりと身体が震える。
「―――ん……ッ、あ、めひこ、さん……?」
「なぁ、北村、……本当にけったいな夢だな」
 ぐるりと世界が回ったかと思うと、雨彦に簡単にシーツに縫い付けられてしまった。つながれた指先が夢にしては痛いくらいに熱くて、大きな口がこちらのすべてを奪うみたいに口づけてくる。素肌に擦れるガウンがもどかしい感覚を呼び起こして、いつもよりも簡単に熱が硬さを持ち始めているのがわかった。雨彦のそれも、もうとっくに隠れずにガウンの裾から頭をのぞかせている。さすがに早いんじゃないのー? 言ってやろうかと思ったけれど、ぐ、と雨彦がその、思っていたよりもずっと硬さを持った熱を擦り付けてきたせいでうまく言葉にはできなかった。腹の奥が疼いて、しっぽがびりびりと逆立つような感覚。
「ぁ、……ッ」
「はは、しっぽは素直だな」
 ぐ、と根本も掴まれてしまうと途端に抵抗しようとした力が抜けてしまう。どろりと、しっぽと反対側で立ち上がる熱からほんの少し白濁がこぼれ落ちた。えー、ちょっとまってよー、猫ってここもだめなわけー? 襲い来る快楽に身を震わせるこちらをよそにすでにひくつき始めた入り口を雨彦の指先がするりとなぞって、そのまますでに濡れそぼりつつある熱の輪郭を描くように触れていく。
「――こっちのしっぽも素直だぜ、北村」
「――――――……ッ、それ、ぁ、……おじさん、ッ、みたいだよー」
 睨みつけるようにそういうと、雨彦はわざとらしくぱちぱちと瞬きをした。そりゃあおじさんだからな、お前さんに比べたら、よっぽど。どうやら余計に焚きつけてしまっただけらしい。それまでいつも通りの涼しさをたたえているように見えた桔梗色が途端に艶めかしい色を隠さなくなる。視線だけで肌が粟立っていくのは、もはや条件反射のようなものだった。雨彦さん、名前を呼ぼうとして、だけどそれはうまくいかなかった。
 べろりと雨彦の長い舌が胸の上で所在なさげに立ち上がっていた乳首を舐めたかと思うと、冷たい歯の感覚が甘く噛んでくる。雨彦さんの方が猫みたいだ。そう思うのにそれもやっぱり言葉にすることはできなかった。飴玉のようにこねまわされたかと思うと、かり、と歯を立てられて、瞼の裏にちかちかと星が散らばっていく。どろりと精が吐き出されるのがわかった。溶けだしたそれが皮膚をも溶かしていくようだ。
 荒い息を整えて、ぎゅっと閉じていた瞳をゆっくりと開けると

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