澄み渡る空と共に

シエルレーニェ(FF14のすがた)のはなし。
蒼天直前。みんな大好き祝賀会の直後。

視点は当然アルフィノ。
分からせられるアルフィノ何回見ても可愛いね(ニチャア

双子(シエルレーニェ)は双子(アルフィノアリゼー)を実はとても気に入ってる。
なんか似た立ち位置なのもあるけど、普通に人として。
気に入った人には、当然のように肩入れするし全力で守る性質なのである。



■



 石の家で過ごしていた、とある日。
 ふと、尋ねてみた事がある。

「君達は、長く旅をして来たと聞いたが。それだけ有能なんだ、どこかに立場のある役職を得て、腰を据えようと思ったことは無いのかい?」

 エオルゼアの英雄と呼ばれるようになった、空色の髪のヴィエラの双子に、そう問うた。
 あまりこの周辺国では見ない種族の彼らは、軽く百年は超えて生きるという。私達エレゼンも比較的長命ではあるが、流石にそこまでではない。
 明確な年齢を尋ねた事は無いが、暁の血盟の誰に対しても特段目上のように感じている様子が無い辺り、きっと誰よりも年上だったりするのではないだろうか。
 それだけ長く冒険者として生きてきたのだ。荒事も多い仕事で、治安の悪い街だってあったろう。なのに、身体のどこにも目立つ怪我も無く、五体満足の美しい姿のままここに居る。それは大変な事だ。
 それだけ長く渡り歩いて来た分、彼らの経験は豊富で実に有能。普段の様子はおどけた軽いものだが、その優秀さは少し関わればすぐに分かる。
 剣や魔法の腕もさることながら、やり手の商人相手の交渉でも一歩も引かないし、行く先々で知識を吸収し、それをしかと活用し会話出来る、頭の良い人々だ。もしかしたら政治の一端を任せても、上手くやるのではと思わされる。
 それだけ有能な人材が、今もこうしてほぼフリーの状態で旅人をしているのは、不思議だった。

「あー……。まあ、そういうお誘いをされた事無い訳じゃないけど。なあ?」
「そうねえ? でも、基本的には一時的な契約とか、いつでも解消できる主従関係にしかなった事は無いわね」
「そうなのか。意外だな……」
「はは。あのなアルフィノ。お前みたいに確固たる後ろ盾のない、流れの有能な人間ってのはな。お前が思うより、使いどころが難しいのさ」
「そうそう。アルフィノみたいに、能力と思想さえお眼鏡にかなうなら、身分を問わず採用するなんてお偉いさんはね。数えるほどしか居ないのよ」

 ははは、と二人は笑う。馬鹿にしたようには感じないが、微笑ましい物を見るような顔をされている気がする。
 無論、身分も身寄りも無い、流れの冒険者を使う危険性は分かっている。職業として珍しくは無いが、冒険者というのは玉石混合なものだ。彼らのような有能で誠実な人ばかりではない。
 だからこそ、そんな人と縁を結べた幸運は、決して手放すべきではないと、私は思うのだが。

「グランドカンパニーでさえ、正規の部隊と冒険者部隊って、別枠なんだぜ?」
「ま、本業冒険者で副業みたいな、有事に召集される部隊って事だからねえ。体のいい使い走り、捨て駒にされないだけ親切ではあるわね」
「そりゃ、冒険者に責任のある仕事なんかさせないだろ普通。小隊1個任せるとか相当な博打じゃね?」
「そこで立場のある役職に引き抜きなんて、ねえ。いざという時の汚れ役、トカゲの尻尾切り要員、その辺がミエミエのお誘いじゃない」
「私はそんな事は!」
「分かってる分かってる、アルフィノの事じゃないって」
「アルフィノはいい子だもの。でもね、大人の世界って汚いのよー」

 明るく笑い飛ばす二人に、私の思想も軽々しく扱われているような気がしたが、それは否定された。
 それは勿論、分かっている。私のように思う人ばかりではない。
 国というものは多くのしがらみ、多くの目論見、時には利権や利益。そういったものが絡みあって出来ており、だからこそ苦難を前にしても、なかなか団結できない。
 あまりにも歯がゆい。だからこそ、私はエオルゼアを一つにまとめるための前段階として、クリスタルブレイブを創設したのだ。
 前例のない事に、人はなかなか踏み切れない。ならば、我々が前例となる為に。
 真に、エオルゼアを救済する為に。

「……君達は、そういった被害にもあった事はあるのかい?」
「それはまあ、それなりに」
「それでも、無事にここまで辿り着いて、ここに居てくれているのは有難い事だね」
「あはははは、これも縁だけど、お互いに良かったかもね。ここは居心地いいもの」
「便利に使われるのが冒険者だけど、使い捨てられるのは御免だからな。居心地の良い職場と雇い主は歓迎だ」
「参考までに、悪い雇い主に当たった時は、どう対処していたんだい?」
「ああ、それはね」

 一旦言葉を切って、ニヤリと二人は笑う。
 顔立ちに男女の差はあれど、表情の作り方が同じだからか、やはりとてもよく似ていた。

「逃げるのさ」
「逃げるのよ」
「一目散に」
「なりふり構わず」
「え……」

 そうして出てきた答えは、想定外のものだった。
 二人は腕も立つ。頭も回る。人懐こく、すぐに相手と仲良くなり、味方を作るのが得意だ。
 だから、誰かに陥れられそうになったなら、その力で以て、相手を打ちのめすのだとばかり思っていた。多くの蛮神を打倒してきたように。

「意外か? でも、これが一番なんだ」
「そ、うだね。君達はいつも、勇敢に立ち向かう人達だと思っていたよ」
「まあ、正直これまで、そんな真似をされても居続けたい場所が無かったのはあるけどね」
「大概、そうやって上から根回しされて悪評とか流されてさ、それまで居心地良くても面倒なのが湧くんだよな。そういうのを察した時点で逃げの一手だ」
「判断が遅れると絡めとられるもの。それに、究極な話、あたし達は何処に行くのも躊躇いないのよ」
「そ、隣にレーニェが居るなら」
「ええ、隣にシエルが居るなら」

 ……なるほど。
 この二人の世界は、ある意味二人だけで完結しているのだ。
 お互いが居るならば、居場所は何処でも構わない。いや、お互いがお互いの居場所なのだ。その足がどの国の土を踏んでいようが、関係が無い。
 確かにそれなら、自分達を陥れようとする勢力のある場所に拘る必要が無い。互いがいれば、それでいいのだから。
 多少の情がそれまでに育まれていようと、ホイと捨ててまた流れていく。
 これでは、どんなに有能だろうと、一所に留まらないのも納得がいく。

「……君達に見捨てられないよう、肝に銘じるよ」
「やだ、暁の事は気に入ってるから、出ていく予定無いわよ」
「ん、皆いいヤツらだしな。必要とされるの、なんだかんだ嬉しい事だし」

 決して、無責任な人達ではない。依頼はいつも誠実に丁寧にこなすし、依頼でなくても人を助ける事を念頭に置いていつも行動している。
 二人は、とても善良な人だ。少々互いの重要性というものが大きいだけで。
 英雄と呼ばれるようになってなお、人々の困りごとを重点的に解決しようとする二人は、とても好ましい人であり、蛮神に対するにあたっては無くてはならない、頼もしい戦士。
 そんな二人の人となりを、また知れた。それは、大きな収穫だと、そう思った。



 ―――だから。
 翌朝には、二人はもう居ないだろう。
 その確信があった。



 ほんの少し以前の夢から目覚めた部屋は、全く馴染みのない客間だった。
 体を起こし、窓の外を見る。ガラスの向こうは今日も吹雪いているようだ。ここ、クルザスの地では珍しくない。
 冷静に昨日のことを思い出して……改めて、両手で顔を覆った。

「ああ……」

 無意識に息を吐く。その音は嘆きに似ていた。
 祖父の意思を継ぐためにこの地に来た。
 未だ未成熟な身体でも、もう成人を迎えた歳だ。シャーレアンの大学だって卒業している。
 大人にも、国の盟主達にも引けを取らず働ける自信があった。
 志半ばで果てた祖父の、エオルゼア救済の意思を、残された思いを受け取った。私が未だ一枚岩にはなれない人々を導くと、その旗印になるのだと、慢心していた。
 ……私の失態だ。
 私の驕りが、この事態を引き起こした。
 忍び寄って来ていた、悪意に気付かなかった。阻止できなかった。救済を謳った組織は、地位と金銭を是とする輩の私兵と成り果てた。
 結果、英雄と呼ばれた人に汚名を着せられた。私の理念に答えてくれた暁の人々の安否も分からない。祖父を師と仰ぎ慕ってくれた賢人達も。盟主であるミンフィリアさえ。
 私自身も、ピピン小闘将の助けがなければ、どうなっていたかわからない。
 彼らの覚悟によって脱出してきたシエル達と合流は叶った。
 以前の襲撃の経験が生きたのだろう、辛くも石の家から逃れてきたタタルとも無事に会えた。曰く、あの拠点も最早占拠されてしまったとも。

「私はいったい、何をしていたのだ……」

 自問する。私は、いったい今まで何をしていた。何が出来ていた?
 一人前のつもりで。なんでもこなせるつもりで。総裁などと嘯いて。
 飛び級で大学を卒業した優秀な才能の持ち主だともてはやされ、良い気になって。その実、私に何が出来た?
 蛮神を退け続けたのは、光の戦士である彼らだ。その為の道筋を探してきたのは、長くこの地で調査を続けてきた、暁の血盟の皆だ。
 ガルーダの元に送り届けられたのも、シドの力あってのこと。
 帝国の侵略を跳ね除けたのも、シエル達を先頭に各国の盟主や軍の皆の努力の賜物。
 今こうして、イシュガルドに逃れんとして訪れたドラゴンヘッドに無事に受け入れられたのだって、ここをまとめるオルシュファン殿がシエルとレーニェを友と呼び親しくしているからだ。
 彼はイシュガルドの民としては珍しく冒険者に寛容だが、流石に罪人の汚名を着せられた者を易々とは受け入れなかったはず。
 それが叶ったのは、二人がここの皆の信頼を勝ち取っていたからだ。懸命に人々の為に働いた事を認められたから。
 そうして二人が前に進もうとしていた時。私は、何をしていた。

「何も……」

 何もしていなかった。
 自分が動くべき時は、今ではないと。
 私の力が発揮される、そうあるべき時を待っていただけだ。
 二人が、シドが、道を切り開かんともがいている時に、私は。
 ……ただ、待っていたのだ。何も出来ずに。何もせずに。
 そうだ、私は何も出来ていない。その癖、英雄達を導いているような顔をして、その努力を自分の成果のように。
 自らを顧みて、俯く。
 私の傲慢と、怠惰がこの状況を招いたのは明白だった。
 オルシュファン殿は、私にはまだ傍に友がいると鼓舞してくれたが。
 二人は、……シエルとレーニェは。きっともう、この地を去っただろう。
 命を賭して守った人々から、唾を吐きかけられたようなものだ。恩知らずと感じるのは当たり前。
 そもそも、彼らはエオルゼアで生まれ育った民ではない。遠くの地から流れ着いた旅人だ。このような扱いを受けて、まだ留まってくれるような、責任も、義務も、何もない。
 いくら善良な人々とはいえ、許せる限度はあるだろう。
 そして、散々その力と名声を利用した私を、……居心地の良い場所は好きだと言った、その場に泥を塗る結果となった私を、彼らは快くは思っていないはずだ。
 優しい彼らは、共にウルダハから逃げ出した私を放り捨てずに連れてきてくれたが。……恐らく、それもここまで。
 ここから先は、私とタタルの二人になる。
 ……膝を折ることは許されない。私にそんな権利はない。
 犯した失態の尻拭いも出来ず、ルヴェユールの名にすら泥を塗るなど、私が許せない。
 なんとしても、暁の血盟の名誉の回復を。そして、皆の無事を確認しなければ。その為にも、今は逃げ延びなくては……
 ふらりと寝台から起き上がり、今後の事をなんとか考えようと頭を働かせながら着替えるが、思考も動きも常ほどはスムーズに行かない。
 ……アリゼーに見られたら、叱られるだろうか。それとも、笑われるか。
 ふ、と自虐の笑みが口元に浮かぶ。
 タタルが用意してくれた防寒着を羽織り、客間からオルシュファン殿のご厚意で、あらたな拠点として雪の家と呼ばれた広間へ、そして外へ出る。
 吹雪は少し落ち着いたようだ。未だ、雪は降りしきっていたけれど。
 広場の方から、賑やかな声が聞こえた。随分と寝過ごした自覚はある。先ずは少しでも情報を得なければ。
 そうして、賑やかな広場へと歩を進めた。

「凄いですね! 近年まれに見る大物ですよ!」
「ああ、これならドラゴンヘッド中の皆に行き渡りますね! 流石は我らがオルシュファン卿、そしてそのご友人殿!」
「世話になってる礼だよ。雪山での狩りは得意なんだ」
「うちらの故郷も雪山だったからねー。久々でむしろ楽しかったわ」
「ああ、実に有意義な時間だった! 大物を前に、躍動するその肉体! 一瞬たりとも目が離せない美しき筋肉! 高ぶらずにはいられなかったぞ、最高に……イイ!!」
「あはははは、レーニェの身体についてそんな熱く語られて、腹が立たないのお前だけだわオルシュファン」
「ホント、思想があまりにも健康的でマジウケる」

 まるで小山のような大きさの獲物を前に、歓声を上げる兵士達。いつもの様にどこか恍惚とした様子で友を称えるオルシュファン殿。
 明るい笑顔の彼らに混ざって、……空色の髪をしたエオルゼアの双子の英雄達は、いつも通りの様子で楽しげに笑っていた。
 目にした光景が理解出来ず、思考が止まった。
 広場の隅で立ち尽くす私に、二人は直に気が付きこちらへ歩いてきてくれた。

「よう、アルフィノ。少しは眠れたか?」
「あんま顔色良くないわね、仕方ないでしょうけど」
「だな。とりあえず、今は悩むより食って休め。美味いって話の獲物も狩ってきたトコだ」
「アルフィノってこれから成長期なんでしょ、いっぱい食べなきゃ! ステーキにする? ポトフにする? それとも、お・さ・し・み?」
「いや、肉を生ではマズイだろ。病気になるぞ」
「……二人とも、……なぜ、ここに」

 あまりにもいつも通りの二人だった。優しく、明るく、少しおどけてみせる。
 命の保証の出来ない、蛮神に挑む前さえ彼らはこうだ。緊迫したような姿を見たことがない。
 二人の歴戦の自信がそうさせるのか。あるいは敵を油断させる、もしくは挑発しているのか。はたまた強張った仲間の緊張をほぐす為なのか……
 その真意は分からない。
 そして今、最早この地を見捨てたと思っていた彼らが、未だここに居てくれている理由も。
 呆然とそれを口にした私に、二人はいつものようによく似た表情、よく似た仕草で髪と耳を揺らして首を傾げる。

「なぜって……、ああ、情報収集なら、夜明け前に軽く済ませてきたぜ?」
「ええ、グリダニアはとりあえず大丈夫そう。カヌ・エ様から、あたし達の行動の制限はするなって双蛇党にも神勇隊や鬼哭隊にもお達しがあったみたい」
「リムサ・ロミンサもだ。メルウィブ提督が手を回してくれたんだろうな」
「なっ……、君達自身が行ってきたのか?! なんて危険な真似を……!」
「流石にウルダハやモードゥナには行ってないぞ? あっちはシドやピピンさんの情報待ちだな。ウリエンジェも居るんだし」
「あとうちら、双子のヴィエラで通ってるから、耳を隠して別行動してれば案外気付かれないのよ」

 確かに、ヴィエラの耳はとても目立つ。そして、エオルゼアではヴィエラはあまり見かけない。
 故にそれを目印にされる事がとても多く、逆に隠してしまえば案外密かに行動できるのだとイタズラっぽくレーニェは笑った。

「そうではなく、……君達は、もうここを離れたものかと」
「……いや、この状況でお前ら見捨てるほど、俺らは人でなしじゃねーよ……?」
「だが、以前濡れ衣を着せられた時は、すぐさま逃げると」
「あ、あー……、言ったなそういえば」

 二人が優しく善良な人なのは分かっている。
 だが、それを加味して尚、二人にとって最も大切なのは互いの存在なのだ。自らの片割れを害されることを、彼らは許さない。
 二人とも、案外自分への無体には寛容だ。しかし、シエルは妹を、レーニェは兄を、軽んじられることにはかなり厳しい。
 それは仲間であっても変わらない。一度サンクレッドがレーニェを口説こうとした際のシエルの怒髪天ぶりと言ったら。……あのサンクレッドが、本気の声色で怖かったと零したほどだ。
 だから、こんな事が起こった今。シエルはレーニェを、レーニェはシエルを守るために、ここを離れると思ったのだ。

「そりゃあ、アレが暁の誰かが俺らを陥れようとしてやった、とかならもうここには居ないぞ? でも、皆完全なる巻き込まれた被害者だろ」
「しかも、あたし達に後を託す形で逃してくれたんだもの。それで全部放り出してトンズラする訳には行かないわよ」
「暁の皆はそうかもしれない。だが、私は……」

 そうだとしても。彼らにとって、暁の血盟の皆はまだ仲間であったとしても。
 私が、……私の傲慢が、彼らを貶めたのだ。
 だから、新たに行動するにしても、もう私への信頼は失われていて然るべきだ。
 二人には、私を糾弾する権利がある。
 見上げる先の双子は、一度互いに顔を見合わせる。
 彼らは、よく喋る人間だ。その語り口は大抵軽々しく、中身は薄いことが多い。
 しかし、見ていると分かるが……本当に必要な、大切な意思を交わす時、彼らは言葉をあまり用いない。
 視線を交わらせ、それからこくりと頷き合う。それだけで、互いの意思が完全に伝わるかのように。
 そうして、本当に示し合わせているように、同時に二人は地に片膝を付き、私に視線を合わせた。

「あのな、アルフィノ。確かにお前は賢くて、優秀で、努力家で、沢山の事が出来る人間だけど。まだお前は若いんだ。経験が足りてない」
「っ……」

 シエルの言葉に、息を呑むしか無かった。
 私のこれまでの考えを、驕りを、そして今の自分への失望を、見透かされているようだ。
 ……否、事実そうなのだろう。
 彼らもまた、とても優秀な人物であり、そして私よりも遥かに永く生き、多くを経験してきた先達なのだから。

「でもね、それが悪いわけじゃないの。失敗はね、誰だってするのよ。大小の差はあるけど、凡人でも天才でも、失敗はするの」
「それを恥ずかしく思うのも当たり前だ。後悔もするだろう。でもな、失敗したって事は、何かに挑んだって事なんだ。それは誇っていいんだ」

 何もしなければ、失敗もしない。それは当然の事だ。
 後悔するほどの失態も、悔いて俯いてばかりではいけないと、二人は諭す。

「アルフィノは一生懸命頑張ってた。誰もしたことがない道を歩こうと、努力してた。あんなに頑張ってたんだもの。失敗だってするわよ」
「大丈夫だ、失敗は取り返せば良い。これは致命的な過ちじゃない。お前は生きてるんだ。いくらでも、何度でも挽回できる。昨晩もオルシュファンが言ってたが、一人じゃないんだから」
「……どうして、許してくれるんだい? 私は君達を、一種駒のように扱っていたも同然なのに」

 君達の努力の結果を、当然のように自分の目的のために利用していた。それは、二人も感じていた筈だ。
 そんな私に、なぜそんなにも優しくしてくれる。寄り添って、励ましてくれる。
 本当に分からなくて、素直に問えば。
 二人は、にこりとよく似た笑顔を私に向けて。

「「だって」」
「仲間だろ」
「仲間でしょ」

 当たり前みたいに、そう答えた。
 ぱち、と瞬きをした。
 仲間。……私は、彼らの仲間だったのだろうか。
 志を同じくする同志だとは、思っていたかもしれない。
 いや、私は誰かを仲間と思ったことが、あっただろうか?
 苦難を共に分かち合い、手を取り合い、壁を乗り越える、仲間だ……と。
 自らが創設した組織の人々にさえ、……思っていただろうか?
 改めて、自分の失敗をまた一つ、目の当たりにした気がする。
 そして、そんな愚かな私を、……彼らは、仲間と。そう呼んでくれるのか。

「今は色々思うところがあるだろうけどさ。俺らは、お前の理想を気に入ってるよ、アルフィノ」
「貴方の望む道は、凄く難しくて険しいでしょうけど。それでも歩みは止めないんだろうなって。それが凄く、あたし達には好ましいわ」
「だから、これからも俺達を今まで通りに頼れ。遠慮しなくていい、心配もしなくていい」
「貴方が貴方の信じる道を違えない限り、あたし達は貴方の味方よ、アルフィノ」

 君達を、いつか見捨てられかねないのだと、怯えなくても、……無類の信頼を寄せても、良いのか。
 ふわり、と二人に優しく頭を撫でられる。
 子供を慰めるようなその扱いに、今は心が安らいだ。
 どんなに大人のつもりでも、年齢としては成人でも、二人にしてみれば……きっと、ほんの子供に変わりはないのだから。
 零れそうになった涙を、ぐっと堪え。ありがとう、となんとか言葉にすれば、二人はにこりと微笑んでくれた。

「よし、じゃあなにはともあれ、先ずは腹ごしらえだな!」
「おなか減ったでしょアルフィノ! やっぱりステーキよね!」
「わ……! あ、朝からステーキは重すぎないかい?」

 二人同時に立ち上がり、シエルに右手を、レーニェに左手を取られて歩き出す。
 私に向けられる二人の顔は、楽しそうな明るい笑顔で。
 揺れる空色の髪の向こう。見上げた空は、いつのまにか雪雲が晴れて……クルザスでは珍しい、蒼天が広がっていた。



 ―――願わくば。
 その日見た、美しい澄んだ空に。これからの私が、恥じぬ自分であれるように。


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