01. ニルギリ 青い鳥の歌(たたうら)
「やっぱり、ヴェルナーのうちのお茶は美味しいね!」
「あぁ、ありがとう」
輝くような笑みとともにマゼルに告げられ、俺もいつも通りの笑顔で頷いた。報告のために応答に戻ってきたマゼルは、殿下に謁見後にツェアフェルトの屋敷にやってきていた。すでに両親のところには顔を出して来たらしい。
もっとゆっくりしてくればいいと思うが、息子と親だとそんなものかな。今や前世のことを思い出しつつそんなことを思うわけだ。
「あ、そうだ。ヴェルナーにお土産」
「なんだ?」
マゼルは旅先で見つけた武器やらマジックアイテム、もしくは本当に土産としての工芸品なんかを持って来てくれることがある。もちろん魔王討伐に必要なものや役立つものは優先して自分たちで使えと言ってあるので、それ以外のちょっとしたものだ。
「青い、羽根?」
「そう。幸運のお守りなんだって」
「ほー」
渡されたのは青い鳥の羽を加工したらしい小物だ。たぶんウィンドチャーム。日本風に言うと風鈴だが、この世界だと楽器の側面もある。素材は魔物の骨とか硬化する膜や羽。貴族用の高価なものだと薄く加工した宝石や水晶なんかもあるらしい。
これは土産物らしく魔物の骨がメインで、他に乾燥させて磨いた木の実が飾られていた。何より目立つのは青い羽だろう。
「幸運の鳥?」
「そう!」
マゼルが話すのはその地方の昔話だ。幼い兄と妹が母の病気を治すための薬草を探して森をさまよった際、美しい青い羽の鳥に導かれて薬草を見つけることができたという話。それ以来、その地方では青い鳥の羽が幸運のお守りになっているらしい。
「へー、鳥の種類は限定してないのか?」
「してないみたいだね。なんなら魔物でもいいみたい」
「適当だなー」
それでいいのか。という話だが、まぁ昔話だしな。もともとの鳥も魔物だった可能性もあるか。マゼルたちが立ち寄った村では他にもアクセサリーなどに加工したものもあったそうだが、貴族の俺が身に着けるのははばかるだろうからと、ウィンドチャームにしたらしい。受け取ったウィンドチャームは俺の執務室にでも飾ってもらおう。
「あ~~ちょっと空気の入れ替えでもするか」
「そうですね」
空気中の二酸化炭素が増えると集中力が云々。ということを思い出しながらそう言うと、フレンセンが窓を開ける。入ってくる風はずいぶんと生温くなってきた。ちなみにクーラーなんてものはないので、ひたすら暑さに耐える以外にはない。王宮には王家非情の礼局魔道具があるって話なんだが本当だろうか。古代王国の魔道具の技術ならできる気もするが。
この国は前世の日本に近いが、日本ほど湿度が高くないのがありがたい。それでもあまり気温が高くなると危ないがな。今度、経口補水液を作ってみるか。材料は砂糖と塩と、何だったか? 分量なんかはあいまいなんでいろいろ試さないといけないが――。
――カラン、カラン
不意に、耳に涼やかな音が響いた。視線を向ければ、マゼルからもらったウィンドチャームの音だった。
「いい音ですね」
「あぁ」
フレンセンの言葉にうなずき、「さて」と気合を入れ、ぬるくなった紅茶を一気に飲み干す。まずは目の前の仕事を片付けよう。そしたら次は経口補水液だ。出来上がったら騎士団に差し入れしようかな。
その後、ヴェルナーが屋敷の料理人に協力してもらって作り上げた「ヴェルナーズドリンク」はまず傭兵、冒険者を中心に広がり、王宮の騎士団にも正式に採用されることになるのだがそれはまた別の話である。
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これとは別に、学生時代にドレクスラーとマゼルに味見を頼み、ドレクスラーは不味い、マゼルは美味しいと答えて「熱中症だこの馬鹿、寝てろ!」とかいう騒動があったパターンでもいいな。
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