11. ホワイトサングリア 情熱のフラメンコ
――フラメンコ。
スペインの無形文化遺産であり、情熱の象徴の一つにも挙げられる。日本人が一番想像しやすいダンスは、ショービズ化されたマドリードやバルセロナがメインのもので、元をたどるとアンダルシア地方を発祥とする|歌《カンテ》をメインにしたものだ。
という前世での説明を頭の中で右から左に流す。ここは大陸の南部に位置するセオッセ王国にある一都市の酒場というか小劇場付きの酒場というべきか?
ともかく、歌と踊りのショーを楽しめる酒場なのだろうが、その小劇場で現在酔っぱらった同行者が踊り狂っております。
こんにちは、ホムラです。私とペテロは現在、拠点としていたスワラ王国を出て船旅で約ふた月。セオッセ王国に来ております。【酔い耐性】スキルが残っててよかった。船旅自体は魔物に襲われることなく実に平和でした。遠くで近づこうとした巨大なサメっぽいとか、巨大なヘビっぽい魔物が直角ターンして逃げていく姿を何度か見た気がするが、船自体は襲われなかったので平和です。
話の始まりは、いつもの通りに某国宰相の依頼でSランク冒険者コンビとともに調査に出たところだった。調査の途中、どうも事の根本はこの国にないということが分かった。依頼自体はそこでいったん終了。報告をして解散。というところだったのだが、Sランク冒険者コンビがそろそろ美味しいワインが飲みたいと言い出したのだ。
どうやらその調査で浮かび上がった国にはいいブドウ畑があるらしい。それでなぜ私たちも一緒にいるかというと——いえ、その、いいアーモンドが採れるダンジョンがあるとのことでしてね? あと普通に酒クズのペテロがワインと、セオッセの隣の国で生産しているというビールに惹かれたからだな。どうもこの世界は蒸留酒がメインのようだ。ワインもあるにはあるんだが、普通に手に入るのは色々混ぜられたり薄められたりであまりおいしくないらしい。
私の【料理】スキルで酒も造れるのだが、ゲーム時代ほど短期間、量産ができるわけでもない。よって酒好きどもにとって美味しい酒を手に入れるのは命題のようなものらしい。
聞いた感じ、セオッセ王国はスペイン、その隣のジェンジュ王国はドイツっぽい文化のようなので、私としても訪れて損はないだろう。
……なんてつらつらここまでの経緯を脳内で整理していたんだが、そんなことをしても目の前の光景は変わらんな。
しかもこれ、初めてではないのだ。いつもでもないのだが、どうにもコンビの片割れは一定量を飲むと踊りたくなってしまうらしい。しかももう一人の片割れは相方のダンスが大好きなものだから、止めるどころか勧める始末。よって頻度はそこそこ高い。
「盛り上がってるねぇ」
「だな」
ペテロが半笑いでつぶやく。口調は呆れてはいるが、毒はない。
素人目から見ても酔っ払い二人の踊りは見事の一言であるし、店は大盛り上がり。おかげで店主の機嫌がよく、先ほどからサービスだと言って酒やらつまみやらがテーブルの上に届けられている。あ、この卵焼き美味いな。
ペテロもサービスだと出された果物を漬け込んだ赤ワインーーサングリアのカップを傾けながら機嫌よく舞台を見ている。うん、同行者であるということを忘れれば、素晴らしいショーを見れているということに間違いはないだろう。
私はそう思うことにして、他の観客に合わせて手拍子をするのだった。タイミングがずれているとか知りませんよ!!
翌日、同行者の一人が二日酔いと羞恥で半日ベッドに引きこもっているのもこれまたいつものことである。
----
フラメンコの説明は、数年前のスペイン旅行の時に聞いた説明。
なお、振動と歌でめっちゃ眠くなった(時間が遅かったのもあったが)
powered by 小説執筆ツール「notes」
92 回読まれています