純情≠鈍感=天然
何でこんなことになったんだ?俺はまんじりともせず、隣ですやすやと眠る男の気配を感じながら、天井を睨みつけていた。
ワノ国への向かう航路で、食料と嗜好品が不足したということで、予定にない寄港が必要となった。これはまあ、しょうがない。クルーの3分の1以上の同乗者がいきなり増えたんだ。多少の見積もりのぶれは出るだろう。
嗜好品のうち、酒はどっかの大酒飲みが、遠慮なくぱかぱか飲むせいだが…あいつは他船でも、遠慮というものを知らないのか。うちの食事当番にねだっては、際限なく飲みやがる。しびれを切らした俺が、1日1本の制限をつけなければ、もっと早く寄港することになっただろう。
それで、海軍やカイドウ配下がいなさそうな、寂れた島へと上陸した。そこで、潜水艦生活に慣れない同乗者の息抜きをかねて、1泊することにした。慣れない奴らには、潜水艦生活というのはストレスがかかる。ここからまだワノ国までは遠い。休めるうちに休んどくべきだろう。
しかし寂れた島を選んだせいか、その島は宿屋は1軒しかなく、俺たちだけで貸切状態になってしまった。まあ、泊まる部屋があっただけマシだろう、そう思ってペンギンに渡された鍵を使って部屋に入ると、そこにはゾロ屋がいた。
思わず、ドアを閉めて、鍵の番号と部屋のプレートを確認する。何回見ても、同じだな。ペンギンは何を考えてるんだ。問い詰めるべく、俺は奴がいる部屋に向かった。
「ペンギン、俺は一人部屋じゃないのか」
いつもなら、不眠症気味の俺を慮って、コイツらは俺がいいと言うのに、一人部屋を勧めてくる。
「え?キャプテン?」
「部屋に入ったら、ゾロ屋がいたんだが、どうなってやがる」
驚いていた奴が、そんな俺の言葉を聞いて、腑に落ちたような顔をしながら、説明しだした。
「キャプテン、この島、ここしか宿ないんですよ」
「そんなの分かってる」
俺にその報告したのはお前だろ?今さら同じ内容の報告を繰り返すな、とイライラしながら先を促す。
「つまり、俺らでいっぱい。空きはないんです」
「そんなの分かってる。でもいつもなら、こういうときはペンギンかシャチ、どっちかと同室じゃねえか。何でゾロ屋だ」
分かりきってることを繰り返すな。俺は、何で俺とゾロ屋が同室なのかを知りたいんだよ、そう思いながら奴を睨んでいると、やれやれといった感じで、奴が諭してきた
「あのですね。ここしか宿屋がないってことは、この島にはめったに人が来ないんですよ。つまり、ここは外界からの訪問を想定してない。だから、この島の人間の体格に合わせたベッドしかないんです。ここまで言えばわかると思いますが、この島の奴らはだいぶ小柄なんですよ。俺等でもベッドギリギリなんで。その中でも一番大きいベッドがあるのが、キャプテンの部屋。そこに、縦にでかいキャプテンと、体格のいいロロノア割り当てるしかなかったんです」
何故か妙な迫力で、一息に説明したペンギンが俺を睨みつける。
「わかりました?納得したら、部屋へどうぞ」
「…アイアイ、ペンギン」
それなら潜水艦に戻ると言いかけたが、一睨みで封殺され、俺はゾロ屋が待つ、部屋へと戻る羽目になった。
「お、トラ男、さっき一回ドア開けなかったか?」
そんな男からの問いかけに、適当に言葉を返す。
「ちょっとペンギンに用事があって…」
そんな俺の目に入ったのは、バカでかいダブルベッドだった。くそっ、ペンギンめ、何か妙な感じがすると思えば、これを隠してたのか。
かなり大きなベッドだから、十分問題なく一緒に眠ることは可能だろう。それに男同士で気にすることでもないと思うそばから、ソワソワしてしまう。俺は一体どうしたんだ?
そんな動揺している俺を気にもせず、ゾロ屋は勝手気ままに部屋の探索をしているようだ。どうやらこの部屋はスイートらしく、ゆったりと余裕を持った作りで、それぞれの場所が独立している。
そのドアを一つ一つ開いては、中身を確認して喜んだり、驚いている男は、まるで子供のようだった。そんなドアの一つを開けたとき、男が声を上げる。
「お、風呂だ」
今までと変わらない声量のはずなのに、何故かその声はひどく明瞭に聞こえた。
「湯船があるじゃねえか、こりゃあいい。トラ男、さきに風呂使わせてもらっていいか」
そう笑顔で断る男に向かって、まともに了承を返せたのは奇跡だった。
「じゃあ、先に風呂もらうな!」
男は俺を気にすることなく、ぽいぽいと着ていた服を脱ぎ散らかし、さっさとバスルームへと入っていった。
呆然として俺はそれを見送っていたが、男が部屋から消えた瞬間、凄い勢いで頭の中に言葉が浮かぶ。
風呂?風呂に入るって言ったよな?全部、脱いでたよな?え、ゾロ屋が全裸で風呂で、俺と同室?自分の思考のはずなのに、考えはまとまらず、意味不明な単語が浮かんでは消える。そのうちに水音とゾロ屋の鼻歌が聞こえてきてからは、もっと酷かった。
身体を洗ってるのか?何処から?背中は俺が手伝う?案外、歌が上手いな?機嫌良くて可愛い…、俺は男が風呂から上がるまで、ずっとそこに立ち尽くしていたようだ。風呂から上がった男に声をかけられて、ようやくまともな思考が戻ってきた。
しかし、ゾロ屋を見て、また思考が空転することになる。
え、何で上半身、裸?あったまって、火照った肌が綺麗だな?その乳首、堂々とだしちゃだめだろ?傷跡の縫い目が赤らんでるのエロすぎねえ?俺はどうやら、ずいぶん不躾に男を見つめていたらしい。男が苦笑しながら、指摘してきた。
「トラ男、あんまマジマジと見るなよ」
言われて、自分が随分とおかしなことをしていることに気づく。慌てて、男から目を逸らして謝った。
「すまん…」
「いやまあ、男同士だからいいけどよ。何だ?俺の傷にでも興味があんのか?」
そう言われて、俺は何でこいつをじっと見てたんだ?
「よくわからん…」
考えても理由が分からず、俺は思ったまんまを答えた。
「ははっ、おかしな奴」
頭をタオルで拭きながら、男が笑う。そのままベッドに腰掛けて、話しかけてきた。
「俺は、こっち側で寝るがそれでいいか?」
はっ?何でこいつは、同じベッドに寝ること前提で話してくるんだ?思わず俺は男を問い詰める。
「は?お前、同じベッドに寝るのに問題ないのか?」
「ん?あっ、そうか。うちはほら、ナミがあれだから、男連中は雑魚寝なんだよ」
男は普通のことだろ?といった感じで答えを返す。
何故かその言葉にムカムカしたが、そんなことよりもっと気になることがある。
「俺はお前らの仲間じゃねえ。寝首をかくかもしれないぞ」
きょとんとした顔で、男は俺に答えた。
「お前はしないだろ?そんな卑怯なこと」
そんな男からの言葉に驚いてぼんやりしてる間に、うっかり同衾をすることが決まっていたらしい。気がついたら、自分の隣で熟睡している男がいた。結局、そんな男が気になって、せっかくの陸地だと言うのに、一睡もできなかった。
何故だ?男同士で、相手はゾロ屋だぞ?徹夜した頭で、ぐるぐる考えていた俺は、ペンギン達がひそひそと話していたことに気づかなかった。
「流石にさ、同室にしたら何か進展あると思ったわけよ」
「まさか、自覚もしないとは思わなかったよ、キャプテン…」
「復讐に全部を捧げすぎたせいで、情緒育ってなさすぎ」
「これ以上、どうすりゃいいんだよ」
頭を抱えながら相談しているハート海賊団のクルーに、面白がった麦わらの一味が悪乗りして「トラ男に自覚させて、ゾロとくっつけよう」という話が盛り上がったのを、俺は知る由もなかった。
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