2023/10/29 たらじゃがペースト
本日はファガットの第二の都市、ドロミルにやってきております。
ここはドワーフとの交易が盛んな港があり、何かないものかとやってきたわけだ。目的があったわけでもないので、町をそぞろ歩きつつ露店で昼食を買う。
歩きながら食べるのはやはりなれないので、人込みを避けて建物の影に入る。
「ん、これタラか」
買ったのはスパイスが強めの甘いお茶と、固めのパンの上に白いペースト状のものが乗っているものだ。ザクリと口の中に広がるのは、オリーブの香りとニンニクのアクセント、それから滑らかな舌触りの中に白身魚とじゃがいもの味だった。どうやら茹でた甘塩たらと付加したジャガイモをペースト状にしたものらしい。
「美味い」
焼いたパンの上に乗せられたそれを食べ切り、手を払う。光の粒になって欠片は消えていくのがありがたい。お茶の飲み干しこちらもカップは光の粒に。
レオにはもう少しにんにくを利かせて、お茶漬は胡椒が強めがいいだろうか。スパイスが強めのお茶は菊姫は苦手そうだ。そんな友人たちの好みを思い浮かべながら再び歩き出そうと顔を上げると、今は言っていた路地の向こうにもいくつか露店があるのが見えた。
こういった裏路地の方が何か掘り出し物があるかもしれない。そんな小さな期待で路地の奥へと入っていくことにした。念のために仮面はしておこう。
「ここを通りたかったら通行料を払いな!」
あったのは掘り出し物ではなくトラブルのフラグでした。
ナイフを手に、独創性の欠片もない恐喝のセリフを聞きながら取り囲まれております。全員獣人か? ネコ系とイヌ系とバラバラみたいだが。
「えーと、私ここ初めてなのだが、何の場所なんだ?」
「あぁん? ……あんた異邦人か。なら知らなくても仕方ねぇ」
両手を上げて、素直に聞いたら案外簡単に教えてくれた。親切な人らしい。
「聞いて驚け、ここは泣く子も黙るオーソマリーノ・ファミリーのシマよ!」
なんだかどこまでもベタな自己紹介が返ってきた。そしてマフィアがいるのか。いや、当たり前と言えば当たり前か? ファストのスラムにもギャング団がいたそうだから、他の町に似たような集団がいてもおかしくはないだろう。
「そうなのか。すまん。特に通りたい用事もないので、私はこれで」
「あぁん?!」
金を払うつもりはない。と、踵を返そうとした私に周囲が殺気立つ。うーん、ただで返してはくれないか。もしや町中の戦闘なんだろうかと、そっと装備を確認する。戦闘フィールドに入ったのか問題なく装備できそうだ。
「二度とそんなふざけた態度が採れねぇようにしてやる、てめぇら!」
最初に声をかけてきた男の言葉に呼応するように周囲が武器を構えた。やれやれ、下手な悔恨を残さないように、最低限殺さないようにしなければ。最悪、蘇生薬をぶっかけよう。と、私が思った時だ。
「よさねぇか!!!」
大音声とともにびりびりとした殺気が裏通りに満ちた。獣人たちのしっぽがしゅっと内股に丸まった。ちょっとかわいい。
「あ、アニキ!」
どうやらお偉いさんがやってきたようだ。その後ろへと視線を向けると、ぬぅっと大きな影が現れた。……熊の獣人、か? あぁ、オーソってスペイン語で熊だっけか。海の熊。そのまんまか。
「うちのわけぇもんが失礼したな、白銀の」
「いや、私もそちらの縄張りをうろうろしてしまったようだ」
「ア、アニキ」
「おめぇらも相手の実力も測れねぇで喧嘩売るんじゃねぇ!」
ボカッと、熊の獣人が最初に声をかけてきた「わかいの」をぶん殴り、相手が吹っ飛んだ。さすが熊。
「詫びと言っちゃぁなんだがここは好きに通ってくれや」
「あぁ、ありがとう」
せっかくのご厚意だからと通らせてもらってマッピングする。しかも熊の獣人がの護衛付き。どうやらここら辺一帯は獣人たちのファミリーの縄張りのようだ。
「最近、アイルの連中が白狩りをしているって噂があってな。少しばかり殺気立ってるんだ」
「白狩り?」
熊の獣人がボソッと呟いた。聞いたところによると少しでも白い毛並みを持っている獣人を攫って行こうとするらしい。まじですか。脳裏に海老野郎がよぎった。あれはイベントサーバーでのことだが、あれに近いことが起きているのか?
「私にも白い毛並みの知り合いがいる。注意するように言っておく」
「あぁ、そうした方がいい。それじゃなぁ、賢者殿」
路地の出口で熊の獣人はそう言って軽く手を上げた。どうやらレンガードの方を知っていたらしい。ひとまず路地を出て、ファストに戻ろう。エカテリーナとカルが何か知っているかもしれないな。なんて思いながら。
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