赤い冬 - デプ/ウル

 冬の海岸線沿いの公園に、俺たち以外の人影はない。まばらにあった人の気配も陽が暮れるにつれて去り、水平線に明け色が失せて以降は隣で欄干にもたれた酔っ払いだけが残った。夕闇に一層冷えた汐風が肌を刺して、針に突かれるように痛み続けている。酒精に溺れているうちは吹き荒ぶ風に晒される自傷行為もクラブの騒音に揉まれるのと同じように面白く感じられたが、前向きな感受性を総動員してもこんなバカを続けるのはそろそろ限界に近い。
 黙したまま身動がないローガンに帰ろうと声をかけようとして、その顔が首をすくめながら声もなく笑っていることに気がついた。
──何笑ってるの。
──この世界には、もう死んだ俺がいたんだろう。
 問われて、俺は答えなかった。答えられなかった。
 肌が痛くて、口を開いたら皮膚が裂けて血が滲みそうだった。
──俺も終わるならここがいい。
 ローガンの声を乗せて強く吹いた風が、俺のどこかを小さく裂いた。



@amldawn

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