2023/10/08 ワンドロ1
「ここか?」
「みたいだね」
いくつかの住人たちの証言を合わせ、途中でお互いに探り探り情報共有した時にどうやら同じところの情報らしいと判明。
いくつかのフラグを二人で踏み、本日ようやく本丸にたどり着いたというわけだ。ぎぃと、重く固い扉を開けると、埃っぽい匂いが鼻を突いた。同時に……ォォンと言う空洞音が耳を打つ。
真っ暗な先を見てお互い顔を見合わせ一歩中へ。『ライト』の明かりに照らし出されているのは、高い天井の上から下まで詰め込まれた本棚だ。
「天井が高い」
「あぁ」
ペテロが上を見上げる。私も灯りを増やして上に飛ばす。中央の柱の周囲にも本棚が埋め尽くしているが、吹き抜けで大体五階建てぐらいの高さだろうか。もっともここは地下にあるので、今私たちがいるここが地下五階と言うべきか。
はるか昔に滅んだ王国の、すべての英知を集めたと言われる巨大書庫。
「書狂いの王様が世界中から本を集めたんだっけか」
「あぁ。本と言う本を集めたものだから、やがて人々は本と言う形をとらなくなり、やがて製本技術が消えたとかいう話だな」
「なかなかひどい話」
嘲るような口調でペテロが言う。ちなみにその書狂いの王様はこの書庫に取り付いて悪霊化しており、門番として登場。もちろんぶちのめしたのでは入れたわけだ。ペテロが迷宮のゾンビルートをソロ攻略していて助かりました。
アナウンスは秘匿区分。称号は【隠れた書庫を見つけた者】【古代の探究者】だった。【隠れた書庫を見つけた者】はこの書庫の初発見称号。古代文字が読めるようになるそうだ。【古代の探究者】の方は汎用っぽいので、おそらく他にもこの手の古代遺跡はあるんだろうな。
「そう言えはホムラ、ドロップなんだった?」
「短杖と魔石、歯。あと魔導書と毒液だな」
毒液がダウン報酬。魔導書はレアドロップで【闇魔法】のLv.70の魔法を先に覚えることができるらしい。持ってない場合は【闇魔法】のスキル石扱いのようだな。
ちなみに『歯』は奥歯と言うよりも犬歯っぽいので、分類は『牙』とかなんだろうな。動物の牙なら問題ないのに人型の歯となると途端に微妙になる何か。
「魔導書か。私はスキルの方」
「取得者のスキル構成で変わるのか」
ドロップしても困るってことはなさそうでいいな。と言う話をしながら再びぐるりと本棚へと視線を戻す。本棚の一つに近寄り確認すると、植物の紙ではなく羊皮紙、いやこの世界だと魔物の皮だろうから魔皮紙か? なので、一冊一冊が分厚いしでかい。背表紙が私の胸ぐらいまである高さの本とか、これ何の魔物だろうか。
「読むのだけでも一苦労だな」
「ある程度は分類されてるだろうけどね」
と言うわけでいったん解散。正確に言うと、一度上に飛んで、そのあと通路を降りながら気になるところで立ち止まるを繰り返すこととなった。
塔の内部は漢字の田んぼの「田」の字になっていると言えばいいのか。周囲と中央に向かって空中回廊があり、中央の柱の周囲の本棚にアクセスできる。
「ホムラ」
「なんだ?」
地下二階部分にあった神話や童話などを集めた場所で足を止めていた私に、その一つ下の階に行っていたペテロが戻ってきた。どうした、と、返すと「ちょっと来て」とのこと。ひとまず本を元に戻し、歩みをそちらに向ける。
やろうと思えばここにある本全部を【ストレージ】にしまうこともできるが、その場合あとから来たプレイヤーがどうなるのかわからん。いや、気にすることではないとは思うのだが。おそらく|ユニーク《ひとつしかない》なものは何らかの制約がかかっているだろうしな。
「どうした?」
「ここの階、どうもかつての王国で一番新しい本があったっぽいんだよね」
そう言ってペテロが指さしたのは中央の棚。開いている場所が目立つ。誰かが持ちだった可能性もあるが、周囲の本のタイトルを見るとたしかにそんな感じだな?
「しかしそうなると変だな。ここ、三階だぞ?」
「そうなんだよね」
普通は上からか下からか、どちらかはわからんがどちらからか詰めるだろう。リアルタイムで収蔵していくならなおさらに。それが一番上でも下でもない三階。となると……。
「隠しドア、か?」
「じゃないかなって、ね」
しかし、私の称号でも見えないとなると魔術的なものではないだろう。隠し扉か、本棚か。
「ワクワクするな」
「ですね」
どうやらまだ冒険は続くらしい。ひとまず本への興味を断ち切ると、私はペテロとうなずき合って隠し扉を探すことにした。
----------
ちなみに中央の柱がエレベーター(人力)になってた。壊れていたけど飛べばOKなので問題なしだったよ!
powered by 小説執筆ツール「notes」