俺っちはメルメルとラブラブエッチがしたい!

 俺っち、天城燐音には大事な大事なカレシがいます。『Crazy:B』のダブルセンター、メルメルことHiMERU、またの名を十条要くん。男前で美人で可愛くて色っぽくて、アイドルとしても超一流の俺っち自慢のカレシ。中身はちょいと……、いやかなりワガママで気難しい奴だけど、それもご愛嬌。今やご機嫌取りも慣れたモンだ。
 どんな神様の悪戯か同じユニットのアイドル同士バッチリ惹かれ合っちまった俺っち達は、こっそりお付き合いを始めてしばらく経つ。勿論ふたりとも健全なオトコのコなンでやることやってるし、交際が上手くいってないってワケでもない。そんじゃあどうしてこの俺がこんな風に頭を悩ませてるかっつーと、ひとつ大きな問題が
「燐音はんまぁだ語り終わらへんの? わしら放置してだらだら喋りくさるなや」
「そんな長いモノローグ最後まで聞いてもらえるの、コナンくんくらいっすよ。たぶん」
「チッ……ンだよ今イイトコだったじゃねェかよォ、この野暮天共め!」
「知らんがな。早う本題に入らんかい」
「なはは……嫌ぁな予感がするんで僕は聞く前にさっさと仕事に戻りた……いたた⁉ ちょっと燐音くんやめて‼」
 まあ腰を据えて茶でもしばきながら聞いてほしい。しっぽ髪を引っ張ってニキも座らせたから。
 俺っちは両肘をテーブルについて指を口の前で組みゲンドウポーズを取ると、正面を睨みながらゆっくり話し始めた。
「おめェらに聞きてェのは他でもねェ、俺っちの可愛いメルメルのことっしょ」
「はあ。それはさっきのでわかったっす」
「俺っちを傷付けるかも〜とかは置いといてだな、嘘つかずに教えてほしいンだが……」
 ここで一旦言葉を切ってニキとこはくちゃんの顔を順番に見る。なァ、ふたりでシナモンの新作スイーツの話題で盛り上がるのやめて。俺っちも混ぜて。
「……え〜っとォ……単刀直入に聞くな? メルメルから天城とのセックスが不満なのです〜的な話聞いてねェ?」
「ぶふっ‼ はあ⁉」
「……あかん、帰らしてもらうわ」
「待ってこはくちゃんマジごめんデザート奢るから! 俺っち大真面目!」
 席を立ちかけたこはくちゃんは俺っちの目をじっと胡乱げに見た。数秒眺めて、やっと真剣さをわかってくれたらしい。黙って席に着いてくれた。
「ほんと、真面目な話。知ってたら教えてくれ。頼む、この通り」
 顔の前で両手を合わせてお願いしますのポーズを取り、仲間達を窺い見る。ふたりは困り果てたように顔を見合わせていた。
「なんか悩んでるっぽいとこ申し訳ないっすけど、僕はなんも、聞いてないっすよ。ていうか付き合ってるのも今知ったっす」
「わしも。隠し事がお上手なおひとやからなあ、HiMERUはんも燐音はんも。なーんも知らんよ」
「……そ、っかァ〜」
 俺っちは背もたれに体重を預けて腕で顔を覆った。まァ、だよなァ。いくらユニットメンバーと言えど、あいつが他人に弱みを握らせるような真似するワケねェか。
 事情をフンワリ察したらしいふたりが、今度は別の感情でもって顔を見合わせて頷いた。「燐音はん燐音はん」とこはくちゃんが神妙な顔で言う。
「HiMERUはんのこと、本気なん? ちゃんと大事にしてはるん?」
「当たり前っしょ。マジもマジ、大マジだよ。だからこうやって悩んでンだっつーの」
「さよけ。ほんなら……なあ?」
「うん……。ふたりの問題なら、ひとりで悩んでも仕方ないっすよ。燐音くん抱え込みがちだし、そうなると独り善がりに突っ走るでしょ」
 ニキの言葉にぐさりと抉られる。俺っちがうだうだ考えたってあいつのためにならないと、そういうことだろう。迷惑かけた前科があるし反省もしたのに、くよくよ悩む悪癖は直らない。
「わァってるよ……ちゃんと、あいつと話す。悪かったな。サンキュ」
 最後の方は小声で言って頭を下げれば「うわあ……今日は槍でも降るんとちゃう?」「殊勝な燐音くんなんて気味悪いっす」と何とも失礼な反応が返ってくるが、今回ばかりは大目に見てやる。無理言って相談に乗ってもらったのは事実だ。
 ふたりの生あたたかい視線に見送られながらシナモンを後にした俺っちは、一先ず仕事に出ているメルメルにメッセージを送った。『大事な話がある』と。あいつの部屋で帰りを待って、今夜、顔を突き合わせて話をしよう。俺達の将来に関わる大事な話を。
 打ち明ける決心をしたら吹っ切れてきた。俺っちは足取りも軽く恋人の自宅へと向かったのだった。



「――天城。話って、何なのですか」
 仕事から帰ってきたメルメルは俺っちからやけに距離を取って座った。いつもふたりで座るソファの端っこと端っこ。手を伸ばしてもこのままじゃ届かない。
「……なァ、もうちょいこっちに」
「嫌です」
「え、ええ〜?」
 遠い上に目を合わせてもくれない。なんで? 俺っちなんかした?
「何もされてません、が……まだ」
「まだって」
「話すのでしょう? これから」
「んん……話すけど何? おまえなんか変じゃねェ?」
「……っ、」
 メルメルは顔を見せるのも嫌なのか、俯き加減で小さくなって座っている。膝の上で両手を握り締めて。なんか空気も重い気がする。やり辛いことこの上ない。どうにか緊張を解そうと、俺っちはおずおずと口を開いた。
「あのさァ、」
「言い辛いなら俺が言ってやる、別れ話するつもりなんだろ⁉ 『大事な話』とか……っ、中途半端にぼかしやがって! 言いたいことがあるならはっきり言えば良いじゃないか!」
「……あ、えっ?」
 顔を上げたメルメルが早口で捲し立てた内容に驚いて、つい呆気に取られちまった。それがいけなかった。彼はますますヒートアップしてガソリンに火ィつけたみたいに止まらない。
「あんたはいつもそうだ、大人ぶって抱え込んで爆発するギリギリまで何も言ってくれなくて……! もう、俺のこと好きじゃなくなったんだろ⁉ そ、うだとしてもっ……そうなる前に、言ってくれれば、俺だって……、俺だってなあ……!」
「ちょ、メル……要さん、ストップ」
「うるさい、っ、燐音のくせに、俺をす、捨てるのかよ……!」
 ぎょっとした。こっちを睨み付ける両の目からぼろぼろと雫が落ちた。こんな風に泣いたり大声を出したりと、感情を露わにするメルメルを――というか要を見るのは知り合って以来初めてだ。本人もそれに気が付いて慌てて目元を拭おうとするから、擦って赤くなっちまう前にと手首を掴んで止めた。一方で涙は止まらずダムが決壊したみたいに次々溢れてくる。
「ぐす……『大事な話』なんて、それしか、無いじゃんかぁ……ひっく、うう、馬鹿、ばかりんね、なんで駄目になるまで言ってくれなかったんだよぉ……」
「おおい落ち着けって、も〜、要! 要、聞いて」
 どうしようもなくなって俺っちはしゃくり上げるそいつをぎゅうと抱き締めた。肩に顔を押し付けるように抱えると、零れた涙がTシャツに染み込んでひんやり冷たい。くぐもった泣き声を上げる要の背中をガキを宥めるみたいに何度も摩ってやる。しばらくそうした後、落ち着いてきた頃合を見計らって、努めて優しい声音をつくって静かに話し掛けた。
「ったく、慌てんぼうさんかおまえは。誰も別れ話だなんて言ってねェだろ、つうかおまえが嫌がっても別れてなんてやらねェっつーの。俺は要が好きだし、別れたくねェもん」
 大人しくなった彼の顔を覗き込む。早とちりだと知って己の失態を恥じているのだろうか、目を合わせてはくれなかったが、赤くなったほっぺたを隠すように俯いて黙って聞いてくれているようだ。
「ん、いいこ。大事な話ってのはなァ、俺達がこれからもずうっと一緒にいるために必要な話なの。だからおまえとちゃあんと向き合って話したかったワケ、おわかり?」
「……。勘違いした俺が悪いと?」
「だァ〜〜そうじゃねェよ、いやわかった、曖昧な言い方した俺が悪かったデスすいませんでした」
 オラ、これで満足かよ。何がなんでもてめェの非を認めねェつもりならそれで良いから、早く機嫌直してくれ。そりゃ泣き顔も可愛い、めちゃくちゃ可愛いし正直そそるけど、男としちゃあ好きな奴を泣かせたくはねェンだ。
 ややあってすんと鼻を啜る音がして、要が恐る恐る顔を見せてくれた。赤い鼻先、涙に濡れた頬とうるうる光る黄金色の瞳(カレシフィルターがかかってるのは認める。かわいくってどうしよう……だって俺っちにフラれると勘違いした結果のこの顔なんだぜ?)。綺麗な形の眉をしゅんと下げて、小さくて形の良い唇が動いて何を言うのかと思えば。
「燐音は……俺のこと、捨てない……? その……、まだ、好き?」
「好き。すっげえ好き。頭から食べちまいたいくらい」
 思考を差し挟む余地なし。食い気味で答えた俺っちに目を丸くして数度瞬きをした恋人は、ほっと息を吐いて顔を綻ばせた。
「はは……何ですかそれ。椎名みたい」
「こォら、今ニキは関係ねェだろォ〜」
 わっしゃわっしゃと綺麗な髪の毛を乱してやればさっきまでめそめそ泣いてたそいつはケラケラ笑った。振り回されている自覚はあるが何でも良い。こうして可愛い笑顔を見せてくれるなら、もう何でも良いんだ(カレシに甘すぎる? うるせ〜〜!!!!!知らね〜〜〜〜!!!!)。
「そ、好きだから、お話がしたいの。良い?」
「別れ話じゃないなら……良いです」
「だァから違ェって」
 さて、ようやく本題だ。時間がかかってしまったがここからが重要。何しろ俺っちは今日、この話をするためにこの部屋で待っていたのだから。さっきよりも近くに座った彼の手に手を重ねて、機嫌を損ねないよう慎重に言葉を紡ぐ。
「真面目に聞くけど、メルメルは俺っちとのセックスをどう思ってますか」
「……セッ、え? はい?」
「正直に答えてくんねェかな、より良いセックスのために」
「……逆に聞きますが」
「うん」
「これが『大事な話』ですか……?」
「うん……」
「意味がわかりません」
「……うん?」
「――もっと建設的なことに時間を使うべきです。HiMERUはお風呂に入って寝ます」
「ナア゙〜〜‼ 想定通りのリアクションありがとう! でも待ちやがれ逃がさねェぜ!」
 顔を背けて立ち上がった彼の手首をしっかり捕らえる。正直こうなると思ってた。こいつは潔癖なのかこの手の話題を避けたがるきらいがあるし、未だにセックスを恥ずかしいものと思っているのか何なのか知らないが、ともかくマグロなのだ。控えめにだが喘ぐし気持ち良さそうにはするものの、何が良いとも悪いとも言ってくれないから俺っちは文字通り手探り。悲しいかなもうセックスに夢を見ていられる年齢じゃなくなっちまった俺っちは、相性がピッタリ合ってお互い何の努力も無しに気持ち良くなれるなんて幻想は数年前にかなぐり捨ててる(むかァし遊んだ行きずりの女だって何割かは良い〝フリ〟だったのだろう。今となってはわかる)。双方の気遣い、根気、サービス精神、コミュニケーション。どれも不可欠。だってセックスはふたりでするものだ。そうだろ?
「三行で」
「俺っちは
メルメルと
ラブラブエッチがしたい!」
「IQ1ですか?」
「辛辣ゥ〜」
 まァ端的に言えばそうだ。ラブラブエッチがしたいです。ハイ。ちょ、あからさまに呆れないで燐音くん傷付いちゃうから。
「はあ……。言い分はわかりました、でも」
「俺っち心配なの。今、メルメルが我慢して付き合ってくれてるンだとしたら、遅かれ早かれセックスが嫌ンなっちまうっしょ? 俺っちは好きな奴には触りたいからさァ、噛み合わなくなるだろ、もしそうなったら。だからよぉく話し合ってちゃんとメルメルも気持ち良いセックスがしてえの」
「えっと、別に我慢してるとかじゃなくて、その」
「俺な、これからもおまえの傍にいたいから。出来れば死ぬまで。別れる原因になりそうな要素、先に潰しておきてェンだよな。慎重派なモンで」
 ぷちっと。指先で何かを潰すジェスチャーをして見せると強張っていたメルメルの表情が幾らか和らいだ。納得してくれたようで何よりだ。
「わ、かりました、その、HiMERUも……俺も、別れたくないですし。でも――話は理解出来ましたが、どうしたら良いのやら」
「ん。お利口さん。そしたらさ、どこが気持ち良いとか、もっとこうしてほしいとか、ちょっとずつでいいから教えてくんねェ? 出来そ?」
 こういう聞き方をすれば「HiMERUに出来ないことなどないのです」なんてムキになって言い返してくるのを知っている。ズルい大人でわりィな。順番にシャワーを浴びて、ベッドルームでメルメルを待っている間、なんとなくそわそわしちまって生まれて初めてセックスの機会に恵まれた童貞みたいに落ち着かなかった。
「……お待たせ、しました」
 ひょこり。風呂上がりのメルメルがドアの隙間から顔だけを覗かせてこっちを見ていた。
「ふは、何してンの。おいで」
 ベッドに腰掛けたまま両手を広げればちょこちょこと歩み寄ってきた彼が腕の中にすっぽり収まる。たったこれだけのことで顔がだらしなく弛んで仕方ない。こんな顔ファンには勿論、こはくちゃんにもニキにもぜってえ見せらんねえ。
「チューしてい?」
「き、聞くんですか……」
「ん。今日はな」
「……、良い、ですよ」
 返事を待ってから唇を合わせる。キスをしながら顔や首筋に触れると火照った肌が掌にしっとりと吸い付いてくる。きめ細かくてすべすべと触り心地の良いこいつの肌を触るのが実は結構好きだったりする。
 ちゅっちゅっと唇を重ねるだけのキスを何度も繰り返していると、メルメルがTシャツをくしゃっと掴んできた。意地悪だと知りつつも、俺っちは腿の上に向かい合わせで座らせた彼を上目で窺うだけ。何せ今日は言わせるのが目的なので。
 可愛い恋人は焦れったそうに唇を噛み、少しの逡巡の後めっちゃくちゃ小さい声で「した」と零した。
「舌?」
「……っ、もっと深いの……キス、してほし……」
「んふふ、りょーかい」
 もー百点満点中百億点、花丸あげちゃう。あげちゃいたい。だけども今夜の俺っちは心を鬼にしねェといけねェンです。ここで甘やかしちまったら『メルメル♡マグロ卒業大作戦(たった今名付けた)』はおじゃんなので‼ それはそうと可愛いオネダリには応えてやらなきゃな。
 ちっちゃいおくちに舌を挿し込むと普段のツンとした姿からは想像もつかない性急さで彼の舌が絡んできた。積極的なメルメルが愛おしくてついつい夢中になって口内を犯してしまう。上顎を舌先でちろちろと擽ればTシャツを掴む手に力が籠る。これ好きだよなァ。知ってる。けど敢えて聞く。
「……今のきもちい?」
「っ、はあ……ん、きもち、です」
 あ〜〜〜たまんねェ。ぞくぞくする。ニヤけた面晒してる自覚はある。けど俺っちの面よりも濃い〜キッスでトロットロになったメルメルの面だよ。目はとろんとして潤んでるし、頬はピンク色に上気して濡れた唇は半開き。こんなん燐音くんの股間にダイレクトアタックでターンエンドだよ。
 なァんて馬鹿なことを考えてる間にメルメルが俺っちのTシャツの裾を捲り上げたから、されるがままにバンザイをしてやった。腕から抜かれてくしゃくしゃになった布の塊がぽんと放られる。エアコンが吐き出す冷風に素肌が晒されてちょっとだけ肌寒い。どうせこれから暑くなるからと、設定温度を下げておいたのだ。
「メルメルゥ〜。俺っちさみィ、風邪引いちゃう」
「……して」
「ン〜?」
「脱がして……」
「でっへへへ」
「うわ⁉ 気持ち悪!」
「おっと」
 おっとじゃねェ、俺。言われるまでもなく気持ち悪いとこが漏れすぎだ。表情筋をキリッと引き締め直して恋人のお望み通り質の良さそうなパジャマを脱がしていく。するりと肩を滑って落ちた布を床に落として、下も取り去って、何も身につけてないメルメルを薄暗い部屋のベッドに優しく転がした。相変わらず無駄な物が何ひとつついていない綺麗な身体。カレシとしちゃあもうちょい食ってくんねェとシンプルに心配なんだが、プロ意識の高いこいつには余計なお世話だとか言われるンだろうなァ。
「燐音」
「お?」
 不意に細い腕が伸びてきて首を引き寄せられた。両腕の支えが崩れてぼすんとシーツに沈む。すり、と胸元に擦り寄ってきたメルメルがふうと息を吐き出した。そうして吐息混じりに言う。
「素肌が……ぴったり合わさるのが、好きなんです。裸で、あなたに抱き締められると、心地好くて」
 見上げてくる瞳が宝石のようにきらりと光る。基本的にはマグロだし処女みてェな反応することも多いのに、時折こうしてどんな男も骨抜きにしちまうレベル百の誘惑を仕掛けてくるのは何なんだろう。そして俺っちはその誘惑に耐えうる理性なんざ持ち合わせていないワケで。裸で大人しく抱き合うのも良いけど、ンなことしてたらその先が欲しくなっちゃうのは当たり前。だってオトコのコだもん。
 堪え性のない俺っちは抱き締めた手でメルメルの身体をまさぐり始めた。脇腹を撫で上げたり背骨の上を指先でつうとなぞったり。その度に薄い身体がぴくりと跳ねる。「気持ち良かったらイイって言って」と低い声をつくって耳元に吹き込むとまたその肩が震えた。
「ここは?」
「ん、っ」
「言えって」
「き、もち、です」
「ここはどォ?」
「ぁ、うう、きもちい」
「ん、よしよし。ちゃんと言えて偉いな」
 気持ち良い、気持ち良い、と。何度も言わせているうちに気分が乗ってきたのだろうか、メルメルは常よりも大きな声で喘いで、感じているようだった。普段は直接触らないと勃たない前も、しっかり反応して先走りを垂らしている。ならば、と彼の白い胸板でぽつんと主張しているピンク色の乳首にそうっと舌を伸ばして舐め上げてみた。
「ひうッ⁉」
「……」
 当たりだ。
「きゃはっ、いつもはほっとんど乳首感じねェのになァ〜? きもち〜の?」
「ァ、あッ⁉ 嫌だ、いや、うそ! うぁ、やだぁ……!」
「やだじゃねェっしょ〜?」
「やぁ、あっあう、きもち、い♡ んあァ♡」
 片方を口に含んで舌先で舐り、じゅっと吸い上げて柔く歯を立てて。もう片方は指で摘んで潰して捏ねくり回して虐め抜いてやる。メルメルはひいひい鳴いて、ふるふると頭を振って感じまくっていた。
「ひ、んん! んッ、あ、あ♡ なんっ、なんでぇ……♡」
「ン〜、なんでだろうなァ……」
「やうう♡ それっ、もっとぉ、」
「どれ?」
 つんと固く勃ち上がった先端をこりこりと指先で弄びながら顔を近づけて問う。腕で半分隠れてしまっている目元をほんの少し覗かせた彼が「噛んで」とか細い声で囁いた。にんまり。思わず唇を歪めて笑う。
「そっかァ〜、メルメルはちょ〜っと痛くされるくらいが気持ちイイのな♡ かーわい♡」
「っ⁉ ちが、ど、してそうなるっ、ひゃん!」
「違わねェじゃん〜? こーんな蕩けちゃってェ。好きなんだよなァ? 俺っちにこうされるの♡」
「んう、いた、ぁ♡ あっ、いああ♡ 好きっ、すきれす、りんね♡」
 乳首を甘噛みしながら空いている手を下肢に伸ばす。今にも破裂しそうに張り詰めて震えていたそれは、軽く握って数回扱けば呆気なく精液を飛ばした。こんな風に乱れるのも早々にイくのも初めてのことだろうメルメルはぽかんと呆けていたけれど、精液塗れの手を後ろの狭い入口に触れさせたところではっと我に返ったようだった。
「あっ⁉ 待ってくださ、なんか変っ……」
「待たねェっての」
 ぬぷぬぷ、指をメルメルの孔に沈めていく。ローションを足してもう一本。流石に苦しいのか息を詰めてクッションを抱き締めているそいつを、よしよしと頭を撫でて宥める。そろりそろりと指を奥へと進めて探り当てた前立腺をぎゅうと捏ねると、長い脚がシーツを蹴って暴れ出した。その勢いのまま俺っちまで蹴られそうだったので足首を捕まえて肩に担いでやった。はい、絶景。
「んうう♡ だめっ、燐音、変です、からぁ……! あッん、こんな、の、おかしい♡」
「……、どしたァ?」
「こんな、きもちいの初めてでっ♡ もぉ、わけわかんな……あんっ♡」
「イイぜェ〜わけわかんなくなっちゃっても。いーっぱい気持ち良くなっちまえよ、な?」
 涙まで流して「こわい」「やめて」と未知の快楽に混乱している風のメルメルに、「ダイジョーブ」「いいこ」と優しく声を掛けながら焦れったいくらいの丁寧さでひたすらナカを甘やかす。指を突き挿れたまま腰を持ち上げさせて、縁の皺のひとつひとつを伸ばすみたいに、舌で丹念に唾液を塗り込んでいく。まさか尻の穴を舐められるとは思ってなかったのか目を見開いてこっちを凝視していた彼だが、快感には勝てなかったのかすぐに瞳を蕩けさせてはふはふと荒い呼吸を繰り返すだけになった。その声がうわ言のように俺の名前を呼ぶ。
「燐音、ぁ、りんねぇ、もう……」
「なァに? 何でも言ってみ?」
「ん、ッあ、うう〜♡」
「きもちいくない?」
「うぁ、きもち、きもちいれす♡ でも燐音のっ♡ りんねので、指じゃ届かないとこ♡ ぐりぐりしてほし……♡」
「……〜〜ッ」
 も〜〜〜ちんこ痛い。あのメルメルがここまで言ってくれるなんて誰が想像した? 俺ですら想像してない。ああもう今すぐに突っ込んでめちゃくちゃにしたい。でもここまで来たら欲も出てくるってモンだ。俺はすっとぼけ作戦に打って出た。もうひと声!
「俺の? ナニをどーしてほしいって?」
 ぐっと屈んで至近距離で目を合わせる。唇を噛んで泣きそうに瞳を歪める彼。こりゃあちょっと虐めすぎたか、なんて反省しかけたまさにその時だった。メルメルが俺のネックレスをぐいと引っ張って乱暴にキスをかましてきた。
「……ごちゃごちゃ、うるさいんだ馬鹿!」
「……へ?」
「四の五の言わずにあんたがぶら下げてるもん、さっさと俺に突っ込んで目一杯気持ち良くしろ……! この馬鹿! 馬鹿燐音っ……!」
「メ……要さん」
 キュン。心臓のあたりでなんか変な音がした。やだ、俺のカレシめっちゃくちゃ男前。惚れ直しちゃった。
「ンなこと言われちまったらァ〜、燐音くん頑張んねェとなァ♡」
「も、はやく……っ」
「ハイハイ♡ 挿れるぜ」
「っあ、〜〜ッ♡♡」
 ずぷん。ローションの滑りを借りて勢いを殺さずに突っ込む。結合部の肌と肌がぶつかるまで突き刺すように一気に入り込めば、待ち望んだ熱と圧迫感が俺の心を幸福でひたひたに満たす。酒もギャンブルも辞められねェし辞めるつもりもねェけど、結局一番気持ちイイのはこれだ。脳内麻薬がダダ漏れちまって止まらない。
「あ〜、ッ、やっべェ、ヨすぎる」
「ひぐ、う♡ りん、燐音、まだ動いちゃ」
「ん〜、無理♡」
「ッああ! だめだ、って、ばか、ぁ♡」
「はッ、だめ、じゃねェっしょ? 何て言うんだっけ?」
「や、あ、ン♡ きもち♡ きもひいよお♡」
「そ、偉い偉い♡ イく時はちゃあんと教えろよ?」
 素直に快楽に身を委ねる要が可愛くて、けれどもっと求めてほしくて、ワザと浅いところを先端で掻き回すように腰を動かす。意地悪されるとヨくなっちまうらしい彼と同じように、俺も意地悪するのが癖になりそう。自分から強請るみたいに腰を揺らす要に口角が上がるのを抑えられない。
「要ぇ、どこがきもちい? 俺に教えて♡」
「ぅ、ンン、おく……、もっと奥♡ 燐音のおちんちんで、おれのなか、ぐちゃぐちゃにしてぇ♡」
「そ……こまで言えとは言ってねェ‼」
 可愛い可愛い恋人のリクエスト通り奥まった窄まりをごんごん突いてやりながら、俺は若干の不安に襲われた。待て待て、今の何? 正直めっちゃ興奮したけどホントに何? 要がおかしい。
「あっ、あん♡ またおっきく、なったぁ……♡ おっきいのしゅき♡ りんねっ、りんねぇ♡ 大好きぃ♡」
「……ッてっめェなァ……!」
 ――完ッ全に想定外、つーかやりすぎた。要の変なスイッチ入れちまったっぽい。品行方正な優等生ですって顔しといてどこにこんなドスケベな一面隠してやがったのか。追い込まれたせいで発現した別人格ですって言われた方がまだ納得いくっつーの。
「こッの野郎……! 後悔しても、知らねェ、かんな!」
「ひゃ、ああん♡ なかきもちい、りんね♡ おれ、りんねに奥っ、ぐぽぐぽされてイっちゃうぅ♡ イっちゃうよぉ♡♡」
 この時の俺はまだ知らなかった。後悔するのは俺の方なのだと。
 その夜ドスケベスイッチが入った要に抜かずの三発、気絶するように寝て起きてからの二発を強いられた俺は、地獄(ある意味じゃ天国)を見る羽目になったのだった。





俺っちはメルメルとラブラブエッチがしたい!
〜DEAD†END〜

powered by 小説執筆ツール「notes」