負け確ダービー

 おかしいと思いませんか? 至極当然の疑問をHiMERUは口にした。恒例の干支モチーフの衣装だと言う。今年は卯年。白羽の矢が立ったのはHiMERU。
「……なぜ!?」
「いいじゃねェか。二年連続で新年の顔を任されるなんて『Crazy:B』も出世したもんだよなァ。僥倖僥倖」
 HiMERUが言いたいのは、なぜ、うさぎなどというふわふわもこもこした如何にも愛らしいコンセプトの企画に、あえて自分を指名したのか、ということだ。どう考えても桜河の方が適役だろうに。
「HiMERUならもっとこう……知的でしなやかで隙のない動物の方が性質に合っています。黒豹とか」
 本気だすとうさぎになっちゃうのです? ならない。HiMERUはうさぎにはならない。話半分に聞いていた燐音は面倒臭そうに相槌を打った。
「そいつァ残念だったな。十二支ダービーに負けた黒豹を恨めよ。メルメルもアテが外れたな」 
 それに、と身を乗り出し、ちょいちょいとHiMERUを手招く。
「案外似合ってるかもよ? おめェっていい匂いして美味そうだし、集合かければちゃんと来るあたり構われたがりなんだろうし? な、ホラ」
 一瞬。盗むように口付けて、寅を担当した男は獣めいた笑みを浮かべて。
「そうやって顔真っ赤にして震えてるとこなんて、まんま小動物みてェ。ぴったりっしょ?」

 ──笑顔で青筋を浮かべたニキに店を叩き出されるまで、あと五秒。

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