愛や恋や
「ちっ、本当に面倒だ」
俺の番は、もういる。「運命」なんだ、それ以外欲しいわけないだろう。
優秀なαだなんだともてはやされたところで、結局は第2性の奴隷でしかない。だがそのおかげで、「運命」というどうしようもない縛りで、あの男が自分の隣から逃げださないと思えば、昏い喜びが沸き上がる。
そんな男と過ごす時間を少しでも邪魔されるのは、我慢できなかった。こんな面倒なことは早いところ方をつけて、男と気兼ねなく過ごしたい。俺の頭の中には目の前のことを処理することしかなくて、一番大事な男の感情を見過ごしていたのに気づいたのは、あいつが目の前からいなくなってからだった。
俺がゾロ屋に出会ったのは、遠縁の麦わら屋に無理やり誘われた宴と呼ばれる飲み会でのことで、こういう席が嫌いな俺は、隅っこで飲んで適当に時間を潰して帰るつもりだった。
そこにわざわざ絡みにきたのが、あいつだった。最初の印象は「俺とは相容れないうるさい奴」だったが、そんなことを思ったのも最初のうちだけで、無理やり隣に座り込んだ男が、最初の印象が嘘のように、程よい距離感を保って話しかけてくるのに驚く。麦わら屋の親友だと聞いていたから、てっきり同類で「付き合うのも疲れる奴」だと思っていたが、傍にいるのが自然だと感じるくらい付き合いやすい奴だった。
◆
そんな男と、二人きりで飲みに行くようになるのに、時間はかからなかった。
偶然にも自宅が近かったことがあり、最寄り駅で待ち合わせては飲むのが常だった。人嫌いの気がある自分が、出会って間もないというのに、男と一緒にいるのが苦痛ではなく、むしろ楽しいと感じるのが不思議でならなかった。
くだらない話をして、適当に酒を飲む。そんな時間が何とも心地よくて、誘われれば忙しい仕事の隙間をぬってあっていたと思う。そんな時間に癒されて、男といることが自然と増えていった。
そんなある日、男から心地いい匂いが香ってきた。珍しい、香水でもつけてるのか?と何の気なしに問いかけたところ、ふむと一つ頷いて男が帰り支度を始める。
「ゾロ屋、なんか香水とかつけてるか?」
「ああ、匂うか?なら、そろそろ帰るか」
わけのわからない男の行動が理解できなくて問いかけてしまう。
「ちょっと待て、なんで匂うと帰るんだ?」
「そういやいってなかったか?俺は、Ωだ。そろそろヒートだから、フェロモンが出始めてんじゃねえかな?」
その言葉を聞いた瞬間、直観的に俺は「こいつが俺の運命だ」と感じた。
正直、混乱しなかったといえばウソになる。今まで男相手なんて考えたこともなかったのに、第2性の本能とはいえ、男が「運命」だと気づいても、何の違和感もないのはさすがにショックだった。
しかし、何故あいつは何の反応もしないんだ?「運命」だと思う俺の感覚は間違いなのか?そんなことを考えていたせいで、いつの間にか男が金をおいて帰っていたことにも気づかなかった。
ただ、ショックなだけで男を抱くことに「嫌悪感」がなかった時点で、俺の気持ちは決まっていたんだと思う。思い返してみても、あの男とは妙に馬があって、一緒にいるのが苦痛じゃなかった。むしろ一緒にいることに幸福を感じていた。自分の隣にずっとあの男がいる未来を考えて、それが当然じゃないかと思ったあたりで白旗を揚げた。
あの男を俺の番にして、ずっと一緒にいるために捕まえてやると心を決めた。
◆
そうやって自分の心と向き合って結論が出た頃、男から「前回の詫び」ということで飲みの誘いを受ける。いい機会だと思って、ちゃんと確認してから、男に「運命」だと伝えようと思っていた。いつものように飲み始めてから、不自然に感じられないようにこっそりと男の香りを確認する。やっぱりこいつは俺の「運命」だ。そう確信したが、やはり男の態度はかわらない。
そこで、ふと思いつく。俺が「運命」だと気づかないのは、もしかしたら、他のαと番っているせいじゃないかと。そんなことは許せない、こいつは俺のモノだ、誰にも渡さない。そんな凶暴な感情が湧き上がって、我慢できそうにない。
「…ゾロ屋は、Ωとして番はいるのか?」
「なんだそんなことか。いねえよ。そもそもこんだけお前と飲んでて、付き合ってる奴なんているわけないだろ?」
「立ち入ったことを聞くが、ヒートはどうやって過ごしてるんだ?」
プライベートすぎる内容に、言った後に悔やんでみても、口から出た言葉はもう元には戻せない。そんな俺の心配をよそに、男は気にしたふうもなくすんなりと答える。
「そんなの気合いで乗り切るに決まってるだろ。だいたい、俺はどうやらΩとしては出来損ないに近いらしくって、ヒートもあまり起こらないし、軽い。それにそういう衝動も少ないんだ」
あまりに男らしい答えに少しだけ笑ってしまう。そうして、番う相手がいないことに胸の奥がむずむずとする。だが、それならどうして俺のことがわかからないんだ?この状況で「俺が運命だ」と伝えても、この男の性格上納得はしないだろう。それに、自分だけが「運命」だと喜んでいるように思えて、素直に伝えるには自分のプライドが邪魔をする。だけど、どうしてもこいつを俺のモノにしてしまいたい。
そんな本能的に突き動かされていた俺は、おかしなことを提案してしまっていた。
「ゾロ屋、決まったパートナーがいないなら、俺と仮でいいから、番になってくれないか?」
言った瞬間、自分のバカさ加減に笑いそうになったが、何故か男はそんな提案に頷いてくれた。それならこのまま少しずつ囲い込んで、俺のものにしてしまえば問題ないと、明るい未来を夢見ていた俺は、男の顔が少しだけ曇っていたことに、愚かにも気づいていなかった。
一刻も早く男を手に入れたいと思う俺の気持ちを知ってか知らずか、それからも男は今までと変わらず、飲み友達としてのスタンスを崩すことはなかった。それが歯がゆくないといえば嘘になるが、男とホテルで抱き合ってしまえば幸福感に満たされて、それ以外はどうでもよくなってしまう。我ながら、動物のようだとおかしくなるが、自分に誂えたかのように俺を包み込む男を感じてしまえば、そこで甘やかされて、それだけで満足しちまう。
この男を大事にしたい、そう思う反面、男の身体を奪いつくしたいとも感じて、性急にこいつと繋がりたいと本能が頭を埋め尽くす。恥じらう男が「もっと乱暴でいい」と言うのに理性が吹き飛ばされそうになりながら、ことさら丁寧に身体を開いていく。初めて触れる「運命」の身体は麻薬のように俺を酔わせて、何度でも味わいたいと求め続けた。
男もそんな俺との行為はどうやら悪くはなかったようで、それからヒートが訪れるたびに抱き合うようになった。だけど、やっぱり男は俺のことを「運命」だとは気づかない。自分だけがやきもきしている気がして、素直に男にそのことを告げることに躊躇ってしまう。俺は、ゾロ屋からも求められたかった。
◆
そうして関係を繰返していくたびに、自分の傍に男がいないことが寂しくてしょうがない。どうして、俺の「運命」は傍にいてくれないんだろう、所詮体だけでいいのか?そんな卑屈なことまで考えてしまう。
こうなったら、物理的に間を縮めてしまえと、借りを作りたくもないドフラミンゴにまで頭を下げ、番用の物件を準備する。そうして男とどうにか同居できないかと考え始めた頃、都合のいいことに男の自宅が取り壊されるという。そのまま流れるように男を言いくるめて、無事に同居できるようになった俺は有頂天だった。
本当は家賃もいらないし、家事なんて人を雇えばいい。家に帰って男の気配を感じられると思えば、それだけで十分だった。だが、おそらくそれでは納得しない男のために、適当に同居の条件を決めていく。ようやく男を囲い込める、そこから少しずつ俺だけを見てくれるようにしていけばいい。そんな考えは、俺を幸福にさせた。
ようやく男が引っ越してくるその日は、残念なことに急患でどうしても俺以外にできない手術が入ってしまったため、泣く泣く出勤する羽目になった。帰ったら、ゾロ屋がいるんだということだけを楽しみにして、30時間労働をこなした。
寝顔を見ることはさすがにかなわないだろうが、男が同居しているという事実だけでもかみしめられたら最高だなと思って帰宅すると、予想外に男は起きていた。
そうして「おかえり」と声をかけてくれる。まるで夫婦みたいなやり取りに胸をときめかせている俺に、さらにサプライズがおとずれる。いつかはと思っていた男の手料理を、まさか初日から食べることができるとは思わなかった。あまりの幸福に、手にもったおにぎりが宝物だとしか思えなくて、食べるのがもったいない。
「トラ男、眺めてないで食えよ。そんで風呂に入って、早く寝ろ」
「…ゾロ屋が俺のために作ってくれたかと思うと、もったいなくて食べられない」
本音を貰えば、しかたないなといった顔をした男がわしゃわしゃと俺の頭を撫でまわす。
「また作ってやるから、早く食え」
「そうだな、せっかく作ってもらったんだし」
疲れた体に男の気配がしみ込んで、疲れが溶けていく。
これからいつでも男の料理が食べれる生活が始まるのが嬉しくてしょうがない。そんな未来に胸の奥が温かくなる。そうして、食べたおにぎりは今まで食べた中でいっとう美味しくて、きっと世界一美味かった。
男との同居はぶつかることもあったが、案外と面倒見のいい男に俺が甘やかされる形でうまくいっていた。
男のヒートは、俺という「運命」といることで安定したのか、定期的になって、軽くなっていったように思う。この調子なら、男も俺のことをいつか「運命」と気づいてくれるかもしれない。そんな甘い夢を見ながら、少しずつ男にアプローチしていった。
だけど、男はいつまでたってもどこか遠慮がちで、ヒートの時しか頼ってくれない。それに、Ωとして本能ともいえる「巣」を作ってくれる兆候もない。やはり、きちんとうなじを噛んでいない、仮の「番」だからなのか。だけど、無理やり「番」にすることだけはしたくなくて、なんとか気づいてもらえるよう行動し続けた。
そんな時だ。前に「番」のことを報告したコラさんが「ローの同居相手にあってみたい」と押し掛けてきたので、ゾロ屋を紹介することになった。念願通り、養い親であるコラさんにゾロ屋を紹介することができて、まるで結婚前のお互いの親への挨拶のようにだと、俺は一人悦に入っていた。
予想外に二人は気が合ったのか、すぐに俺がいなくても飲みに行く仲になったのだけは計算外だった。養い親と嫁が仲良しなのは嬉しいが、自分が一緒にいけないのが悔しくてたまらない。
同居するようになって俺の忙しさを心配した男が、外で飲むよりは楽だろうと、二人で飲む時は家飲みになっていたのも、そう思うことに拍車をかけていたんだろう。いつか、ちゃんと心が通じたら、男を連れてどこにいこうと店を考えることで、自分を慰めていた。
◆
だけどどれだけ抱き合っても、相変わらずゾロ屋は俺のアプローチにも、俺が「運命」だと気づかないまま淡々と過ごしていた。だから、俺は焦っていたんだと思う。男に許可を得ずに、自分の子供を妊娠してもらおうと、避妊具に細工をしだした。そんな姑息な手を使ったせいで罰があったたのか、いつまでたっても男は妊娠することはなく、ヒートは訪れ続ける。
「巣」をつくることがないヒートは来て、愛するΩは妊娠してくれない。俺は、男には何とも思われてない、ただの「性処理相手」としか考えられてないのではないかと恐れ始める。
さらに、そのころ病院の上司から、面倒な見合いを持ち込まれてしまう。そんな奴の相手をしているぐらいなら、ゾロ屋と過ごしたい、そう思えてしょうがなく、何もかも面倒だった。幸い、コラさん達のツテでそのあたりはどうにか始末できたが、もう二度とそんな話は持ち込まないよう、クソ上司に釘を刺すのは忘れなかった。
そんなごたごたもようやく片付いて、ようやくゾロ屋と過ごせると帰宅した自宅で待っていたのは、手紙となぜか現金だけで。必死で部屋の中を探してみても、男の私物すら見つけることができない。俺は何が起きたかわけもわからず、ショックで呆然と立ち尽くした。
◆
そこから仕事の合間に必死に男の行方を捜したが、手がかりすら見つけることができずに焦燥感が募っていく。絶対に男の行方をしっているだろう、遠縁の男を問い詰めてみても、のらりくらりと交わされるばかり。俺は、自分の傍に男がいないことで、おかしくなりかけていた。
大事な大事な「番」が見つからずに、俺の傍から消えた。いったい何が悪かったのかわからない。そんな必死な俺をみて、コラさんが不思議そうに問いかけてきた。
「ロー、なんでそんなに必死なんだ?」
「ゾロ屋がいないんだ…」
「うん?なんか、ローの番がくるなら迷惑だから、引っ越さないとっていってたけど、ゾロはローに伝えてないのか?」
は?俺の番はゾロ屋だが。反射的にそう言い返したくなるが、考えてみればコラさんに明言したことがなかったことを思い出す。
「コラさん…俺の番は、ゾロ屋だ」
そうしてゾロ屋が俺の「運命」であること、だけど何故かそれを感じ取ってくれないこと、だけどどうしても手に入れたくて同居に持ち込んだことを伝える。
「は?マジか?…あ~ドジっちまった。もしかして、俺のせいかもしんない」
そういうコラさんが語った、男との会話を聞いて、地の底まで落ち込んだ。中途半端にしかコラさんに説明していなかったせいで、コラさんにも男にも誤解をうけるような状況になってしまっていた。全部俺のせいだ。そう思いながらも「俺に迷惑をかけるから」と引っ越していった男に、俺への好意を感じて少しだけ浮上する。
お詫びだとコラさんがドフラミンゴに頼んでくれて、ようやく男を見つけることが出来たのは、あいつが部屋を出ていってから三か月後のことだった。
「ようやく見つけた、ゾロ屋。一緒に部屋に帰ろう」
「あ?トラ男、どうしたんだ?」
驚いた顔をした男をざっと確認して、元気そうな姿にホッと胸をなでおろす。いや、少し太ったか?
「どうしたも何も、お前がいきなり出ていってから、ずっと探してたんだ!」
「何でだ?置いていった金だと、足りなかったか。そのあたりよくわからなくて、すまん」
頓珍漢な返事を返す男に、本当に俺の気持ちはかけらも伝わってなかったんだなと肩を落とす。
「…違う。それより教えてくれ、なんで出て行ったんだ?」
もしここで、否定的なことを言われてしまったら、どうすればいいんだろう。そんな不安な心を隠して、男の答えをじっと待つ。
「何でって…お前が俺のヒートの相手が『面倒だ』っていってたから。それなら、同居してるのも迷惑だろうと思って。それにあそこは、お前の番と一緒に住むマンションなんだろ?いつまでも、そこに邪魔してるのも悪いと思って」
は?俺が、ゾロ屋を面倒だなんて言うわけねえ。いったいいつそんなことを聞いたんだ?どう考えても思いつかない。だけど、このまま誤解されたまんまじゃ、俺の腕からこいつは擦り落ちていってしまう。
もうなりふり構わずに、全てを話すことを決めた。
「ゾロ屋、俺の話を聞いてくれないか?」
「あんまり時間がないんだが…列車の時間があるし」
「すぐに終わる。それにちゃんと駅まで車で送る」
乗り気でない男に傷つきながら、必死で引き留める。
「それで、お前の話というのは?」
「ゾロ屋、愛してる。番になってくれ」
どれだけアプローチしても気づかなかった鈍感な男には、もう直接言葉で伝えるしかない。最初からこうしてればよかった。
「俺はヒートの時の性欲処理の相手だろ?それがどうして、番になったんだ?」
俺の言葉は予想外だったらしい。男が目を白黒させながら、俺の言葉を否定する。自分の意気地のなさからの自業自得とは言え、信じて貰えないのは辛い。
「性欲処理の相手なんて、お前に告白するのが怖かった俺の嘘だ。最初から、お前と番になりたかったんだ…」
「嘘だ!じゃあ、なんで俺が住む前から『番相手』用のマンションに住んでたんだ?それに、俺が同居する前には、一緒に住んでた奴もいたんだろ?」
お前と番う準備が中途半端に伝わってたせいで、変な誤解を生んでいたのか。きっとそれを伝えたのはコラさんだよなと思って恨みそうになったが、そもそも俺の伝え方が悪かったんだと、反省せざるをえない。
「…だから、全部お前と同居したいためについた嘘だ。同居相手なんて元からいないし、俺が一緒に住みたい『番相手』はお前だ」
変なプライドにこだわらずに、最初から全てを打ち明けていれば、こんなに拗れることもなかっただろう。自分のバカさ加減が恥ずかしくて、顔が熱くなっていくのを感じる。
言葉を尽くしたおかげで少しは信じてくれる気になったのか、男の声が柔らかくなっていくのを感じる。それにホッとしていた俺に、男がおずおずと言った言葉が俺には信じられなかった。
「マジか…だけど、俺が家を出る前ぐらいにヒートの相手をしてもらうたびに、ため息をついていたのは?それに『面倒だ』ていってただろ?」
「『面倒』?俺がお前とのことで、そんなこと思うはずがない。どんな時に俺はそんなことを言ったんだ?」
そうしてようやく、最後の誤解を解くことに成功する。くそ、あのクソ上司め。あんな見合いを薦められたことが、ここまでたたるとは思わなかった。自分の説明不足を棚に上げて、八つ当たり気味にそんなことを考える。
「なら、なんでため息なんて…」
結局、情けない自分の謀を全て話すことになった。
男との子供が欲しかくて避妊をしていなかったこと、子供がいればずっと自分の隣にいてくれると思ってたこと、だけどどれだけしても子供ができることはなくて、卑怯なことをしていた罰だと感じていたこと。離すたびに、心が軽くなっていく。
全て話し終わった後、男が涙を流す姿を見て、ショックをうける。やっぱり、俺なんかの子供を産むのはいやなのか?そんな最悪な想像をしてしまう。だけど、どうしても俺はこいつを諦められそうにない。勢いこんで思いのたけをぶつけた。
「ゾロ屋、泣くな!俺が全部悪かった。告白から、全部やり直させてくれ。どれだけかかっても、お前を俺に惚れさせてみせる。絶対に幸せにするから」
それを聞いた男が、泣きながら吹き出すのを見て頭を捻る。
「バカだろ、お前。最初からさっさと告白してれば、ここまで遠回りしなくてもよかったのに」
「返す言葉もない…」
本当にそうだ。最初から素直に口説いていれば、こんなにこいつに迷惑かけることもなかったのにと反省していると、男がふっと笑う声がする。
「俺も惚れてるよ…お前と性欲処理するだけじゃ辛いと思うぐらいには」
幻聴か?あまりに自分に都合のいい言葉に、自分の耳を疑ってしまう。
「本当に…?」
「惚れてるという言葉じゃ足りないなら、愛してるよ」
「ゾロ屋!」
想いのままに男を抱き締める。温かい身体を感じながら、幸福はここにある、そう感じて目の前がぼやけていった。
◆
そうして、ゾロ屋が実家に送っていた荷物を引き取るために、男の養い親と対面することになった。どういわれてもしょうがないと覚悟をして出かけた先で、俺は鋭い目をした男に詰め寄られた。
「どういうつもりで、あいつとの付き合いを続けている」
「俺は、ゾロ屋を愛してます」
「笑止。自分のプライドにこだわったせいで、ロロノアに離れられたお前が?」
確かに言われた通り、男に一度は見捨てられかけた。だけど、俺には男のいない未来なんて考えられない。
「何と引き換えにしても、ゾロ屋がいない未来は考えられないんです。もう二度と、あいつを離したりはしない」
気おされそうになりながら、決して目を逸らしはしない。恐ろしいほどの威圧がふっと消えて、家の中へと消えていく。
「二度とその言葉を忘れるな。俺なりにあいつを可愛いと思ってるので、不幸にするのは許さない」
「あいつを不幸にするなんてありえない」
言われるまでもなく、縋り付いてでも男を話す気はない。どうやら猶予期間を与えられたらしいと、無意識に入っていた身体の力を抜いていく。何度か男に何を話していたのか?と聞かれたが、きっとお義父さんは知られたくないだろうと口をつぐんだ。
◆
その後、男の妊娠について、仲間たちと一緒に聞かされたのは業腹だったが、愛するΩが自分の子供を産んでくれることが嬉しくてたまらない俺には、ささいなことだった。
「お前のここに俺の子供が…」
「こら、やらしい触り方すんな」
ゾロ屋の腹を撫で回していた手を、べしりと叩かれる。痛い、ってことは、これは夢じゃないんだな。
「お前も、子供も絶対に幸せにする」
「ばかやろ。俺とお前と子供とで幸せになるんだよ」
「ああ、本当にその通りだな。さすが俺の『運命』だ」
「だろ?っは?『運命』ってなんだよ!?」
頬を染めた俺の番が可愛くてたまらない。俺だけを誘う匂いを堪能するために、首に顔を近づけようとしたら、力任せに引き剥がされた。男に触れることを邪魔されてムッとする。ただそんな感情も、男が俺をしかたないなといった顔で見ているのがわかれば、霧散してしまう。
「お前って、結構甘えただったんだな。ってそうじゃねえ『運命』てなんだよ、答えろ」
「あ、言ってなかったか?俺とお前は『運命の番』ってやつだ。俺はそんなの信じちゃいなかったがな」
「は?いつから…」
「最初にお前がΩだと聞いたときから」
どうやら混乱して考えがまとまらないらしい男を、こっそり腕の中に閉じ込めて、今度こそ男の匂いを堪能する。
「いつまでたっても、お前が俺を『運命』だって気づいてくれないから、意地になって伝えなかった。すまん」
「いや…」
「でも、どうしてお前はわからなかったんだろうな。まあ今となってはどうでもいいが」
「たぶん…」
「ん?」
「お前の傍にいるだけでいっぱいいっぱいで、他の事に気づく余裕がなかったんだろう。俺はずっと、お前が好きだったから」
真っ赤になってそんなことを言う男に、心臓がうるさいほどに高鳴っていく。俺はいつかこの男に、ときめかされすぎて死ぬのもしれない。
「いつから?いつから俺に惚れてたんだ?」
「ん?いつからか…気づいたら、惚れてたからなあ」
困ったように笑う男に見惚れて、何もかもどうでもいいと思うくらい、心の奥から温かいものが溢れてくる。
俺が意気地がないばかりに遠回りして、相手も傷つけてしまった恋だけど、どうやら物語のように「めでたし、めでたし」というゴールに辿り着いたらしい。
とは言え。これから家族も増えて、まだまだこの恋は続いていく。
きっとこれからも、いろんな事が起こるだろう。それでも、こいつと歩む未来は幸せに違いない。何故か、そんな確信があった。
powered by 小説執筆ツール「arei」
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