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部屋に帰り着いたときにはすでに0時を回っていた。

上着を脱いでベッドに倒れ込むともう、まぶたを開けることもできなかった。
暗闇のなかで、自分の体の規則正しい呼吸の音を聞くだけの時間。眠りに沈むその瞬間、ひた、と腕に触れる手を感じた。

ああ、あいつにルート確保の練習をやらせていた頃の感触が再生されているのかと思った。だが、その手は想像通りには動かなかった。

肘の内側のくぼみに置かれた指先は、皮下の血管を探らず、腕の内側のやわらかい皮膚をすっと撫でた。指はそのまま腕の内側をゆっくりとなぞっていく。皮膚の上に軽く置かれた指が残すあわい感触に息をひそめて集中しそうになったが、体は意識についていかず変わらず規則正しい呼吸を繰り返していた。

指先はまっすぐ線を引くようにすすんでいく。一定の速度で、軽い感触を保って。
あえかな感触を感じながら、体の上辺の皮膚をなぞられながら同時に心臓を、息を撫でられていると、疲れきった頭と体で思った。

指先は、やがて手首に達し、手のひらの柔い部分に触れる。
まぶたを開ける気力もなかった。なのに、手のひらの真ん中をなぞられて、ピクリと手が震えた。

譲介の指先は、薬指の付け根をかすめて指の腹をたどる。薬指の先端にたどり着くと、うすい皮膚と皮膚がたった一点で触れ合い、かすかな感触が一層淡いものになる。

指先が離れると同時に「眠ってください」と言葉が落とされた。
諭すような、言い聞かせるような声音だった。

わずかに触れ合う感触が消えた後、最後に体に残ったのはその声だけだった。

後には、深い眠りが待っている。

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