テレーズの悪夢
わたしは母の部屋に置いてあるピアノを弾いていた。隣にはお母様がいて、わたしの演奏を聴いてくれている。
「本当にテレーズはピアノを弾くのが上手ね」
「うれしいわ。わたしもママみたいな音楽家になれるかな」
「それは……」
お母様はわたしの演奏をいつも褒めてくれる。しかしどこか悲しそうな顔をする。どうして。わたしは音楽家にはなれないの?
そんなことを考えながら自分の部屋の扉を開けた。すると目の前に聳え立つ断頭台の姿があった。
「──!」
ぎらりと大きな刃が不気味に光ってこちらを見下ろしていた。わたしは驚きのあまり力が抜けてその場に尻もちをついてしまった。
後ろから足音が聞こえる。それは段々と近づいてきた。
「テレーズ」
その声はお父様。
怖くて後ろを振り向けなかった。お父様はわたしの背後にしゃがんで耳元で囁いた。
「テレーズ……お前には処刑人の血が流れている。わかっているな? 余計な幻想を抱くのは無意味だ」
「!」
はっと目を覚ますと天井が見えた。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。今までの出来事は夢だったのだ。
それでもわたしの頭の中にははっきりと断頭台の姿とお父様の声が残っていた。夢はとても現実味を帯びていた。
居間に行くとお父様とお母様がおはようと挨拶をした。わたしは黙って頷くだけだった。
「どうしたの? あまり元気がないみたい」
「大丈夫か?」
二人は心配している。わたしはたった一言、こう言った。
「こわい夢を見たの……」
2021/3/24
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