あまこい企画/明日♡するふたり
ティナリとツンデレ幼馴染の話
(数年後/まだ付き合ってない)
⚠︎名前はリタで書いています。
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「ひどいめにあった」
彼自慢の艶のある耳もしっぽも、いつもだったら凛として通る声も今や見る影もない。酒気に浸された頬を水の入ったコップにつけてボヤくティナリが面白くって声を上げて笑うと湿度の籠った目で睨まれた。
宴会の端、学者達の飲みの席に誘われた面々ではあらゆる話題が飛び交う。近況報告から、はてには結婚報告まで。盛り上がりを見せている席から逃げてきた彼は当たり前のように私の横を陣取った。
「…おかわりはいる?」
「…君ねぇ」
「ふ、ふふ。あははっ!冗談だって、もう」
謝罪の意味も込めて新しい水を渡してやる。いつもは余裕綽々な”優等生君”が、フニャフニャになって根を上げている姿に久しぶりに気分が良くなっている私は、彼がぼやくようにいい性格をしているかもしれない。
レンジャー長、はたまた学者として活躍する彼は教令院の中でも有名人だ。幼馴染という立場であっても彼の隣は人の目を引いて居心地が悪い(まぁこれは私が気にしすぎな所はあるけれど)。今でも距離を置いているにも関わらずそれでもこの場から離れないのは、彼が逃げてきたのが誰もいない端の席で、宴のメインが別のところで盛り上がりを見せているからだ。
ちびちびと飲んでいた麦酒を見てか、飲みすぎてないかとか、それアルコール度数高いやつでしょとか。いつものお節介が顔を出してくる。こんなになっても世話を焼くなんてどれだけ人がいいんだか。
「まぁまぁ、ティナリも一緒に飲もうよ」
「……わかった」
あれ、と思う。また断られると思っていたから、自分の杯に注ごうとしていた。その辺の新しい杯を持ってきて、その中に少し少なめに注いで渡すと微かにこちらに傾けた。傾け返して一気に呷ると、じんわりと体温が上がっていく。やっぱりお酒はいいなぁ
「……そんな飲み方して帰り歩けなくても知らないよ」
「あはは、ティナリは心配しすぎだよぉ」
「以前それで泣き上戸になったのはどこの誰だったっけ?」
「……いじわる」
「はいはい。ほら水も飲んで」
確かに前もこんな感じだったかも。
それでも記憶はまだ無くしてないからセーフだと威張って言えば、呆れて眉間にチョップを入れられた。女の子になんてことをするんだ。
「ぼうりょくはんた〜い!」
「痛くしてないと思うけど。痛くした方が良かった?」
「……や、やだ」
おでこを抑えて引き下がる私を、勝ち誇ったかのように鼻で笑う。普段から口で勝てたことはないけど、こんな下らないやり取りでさえ勝てないのが腹立たしい。なんとかやり返したくて弱点を突いてやりたいところだが、それが見つかっていれば今までこんな思いはしていないだろう。
「あっ」
「どうしたの?」
「…………。」
いや待て、弱点ならあった。
ティナリをじっと見つめて動かない私に、僅かにたじろぐ。彼に身を寄せると、焦ったように名前を呼ばれたが全て無視した。
「――ティナリ」
甘やかに名前を囁くと、彼の肩がびくりと跳ねた。ティナリはとても耳が良いのだ。こうやって近くで囁かれるだけで、きっとぞわりとするのだろう。
彼からするお香の匂いと、草花の香り。
そういえば昼間調合していたな、と記憶の隅の彼の背中を思い出す。確か、彼が手に取っていたのは――花の香りの正体を探ろうとして、ティナリの様子がおかしい事に気付いた。
「……え〜っと、ティナリ?」
「…………そんなの、何処で、覚えてきたの」
あっ、これは、怒っている。
まさか、私は彼が耳を触れさせる”親しい人物”に入っていなかったのだろうか。顔には出さないけど、それは、ちょっと悲しい。
謝罪を述べようと身を引いたら、追いかけるようにティナリは顔を近づけて来て——今度は私が声にならない悲鳴をあげる番だった。
「……リタ」
耳元で、ティナリの声がする。
宴会の音なんて遠くにいってしまって、まるで私と彼しか居ないように錯覚してしまう。もしかしたら、彼は耳が良いから、このバクバクと喚いている心臓の音まで聞こえてしまってるかもしれない。確かにこれは、良くない。私はティナリが好きだからいいけど、ティナリは嫌だったんだろう。
ごめんなさいと謝罪を述べれば終わると思ったのに、ティナリは一向に離れようとしない。それどころか身を引こうとした私の腰を抱き寄せてくる。
どう考えたってこの顔の赤さはアルコールだなんて誤魔化しは効かなくなってしまった。今この顔を見られる訳にもいかない。離れて欲しいけど、離れて欲しくない。もうすでに、アルコールなんてどこかへ行ってしまった。
「あ、の、ティナリ」
「……」
おかしい、と気付いたのは肩の重みが増してきた時だ。まさかと思い、顔を上げて見ればティナリの顔は真っ赤で、すっかり酔いが回ってしまっている。
一体、何杯飲まされたんだ!
のしかかって来る彼に水を差し出そうとしたが、意識が半分夢の中の相手に、うまく飲ませられる筈もない。やっとかっと抜け出して、長椅子に横たわる彼に、……。
「ごめんね、ティナリ」
どうか明日、覚えていませんようにと願いながらうまく働かない頭で水を口に含んだ。ゆっくりと水を嚥下する喉を確認し、少しほっとする。
「しなないで……」
「勝手に殺さないで……」
少しマシになった、と呟きながら半分据わった目で空中を見つめるものだから——言及してこないのが怖い。違和感が残っているのか、自分の唇に触れてはいるけど。
「ティナリ、立てるならビマリスタンいく?」
「……そこまで大事じゃないから。それよりさっき」
「……なによ」
「さっきの」
アルコールなのか、怒りなのか——据わった目で、私の唇に指先を触れて顔を寄せる。私の言葉を待っているかのようにじっと見つめたまま動かない。さっきの——それが指す言葉なんか分かりきっている。
「もう一回」
「ひっ…」
顔から火が出るかと思った。彼の指先が触れる唇に、視線の重なった瞳まで熱いのに、どれもこれもアルコールのせいじゃない。こんなティナリを、私は知らない。いつもわたしをからかって、傍に居てくれる優しい彼しか知らないのに。
ぎゅっと瞑ったまま、彼からの視線に耐えようとしたが——時間が経てども、力は緩まず、解放してくれそうにない。恐る恐る片目を開けてみれば、とろんとした目で見つめるティナリが意地悪く笑った。
「……キスされると思った?」
――そこから先は、あまり覚えていない。
いつものように彼に手を出してしまった気もするし、そうじゃないかもしれない。あまりの恥に記憶が飛んでしまったんだろうと、二日酔いで死にそうな頭で考える。起きることも出来ず、周囲を手で探れば、枕とシーツの感触——ベットの上だという事だけが確認できた。
「ここ………どこ……あたまいたい………」
起き上がろうとして即断念。もうお酒は止めようと何十回目の誓いを立てた瞬間である。
「そうだね、まだ起きない方がいいよ」
「言われなくと…も……、は?」
すぐ背後からの聞きなれた声に、焦って体を起こそうとして――お腹に回された腕によって、身動きが出来ないことに気付いた。
「あ、大きい声は出さないで…。僕も二日酔いなんだから」
「〜〜〜ッ、〜〜〜ッ!?!??!」
「わ、うるさっ……!」
割とガチめの苦情を聞き入れる余裕はこちらにはない。耳を押えながらも彼はベットから起きるつもりはないらしい。私だって起きたくは無いし!叫びたくも無いけど!
「な、ベッ、ど…ッ…ハ……むぐ!?!?!?」
「落ち着いて。全くもう……警告はしたし、それを聞かなかったのはナマエだよ」
叫び声は彼の胸元で虚しく消える。余計混乱する頭を、私を抱き込んだままあやす様に撫でた。びっくりしすぎて、今度は叫び声にすらならない。
数分と経つにつれ、暴れることを諦めて、私の心臓は落ち着きを取り戻した。だというのに、ティナリが私を離す気配がない。離して欲しいという意味を込めてちょっと胸板を押してみてもビクともしない。なんなのよ!
「も、はなして。あ、あばれないから」
「…………本当に離していいの?」
あ、確かにと妙に冷静になる。それもまずい。今きっと顔が真っ赤だ。寝起きで髪もぐしゃぐしゃだし、顔も見られたくない。ばかかも、なんでよりによってティナリの部屋で眠っているのか。
「先に言っておく。君が言ったんだよ、僕と一緒に寝たいって」
「………。」
嘘をつけ!と言いたいが残念な事にティナリはこういった場面で嘘をつくことは無い。しかも昨夜の自分の状態からして、なにを考えてそう言ったのか、想像ができてしまうのが心底嫌だ。
「…………昔みたいに一緒に寝たいって」
「あぁ、寝るまでは僕のしっぽを離さないとまで言ってたね」
「おねがい、わすれて………」
「……どうしよっかな」
くすくすと笑うティナリは私の髪で遊びながら「もう深酒は僕のいない所ではしないって約束して。そうしたら、忘れてあげる。」…この人はどこまで私を甘やかす気だ。
「も、しない、から。あの、ちょっとあっち向いて。顔、ひどいから見ないで」
「はいはい」
腕の束縛が解かれ、顔と髪を必死に整える。一緒に寝ただけ。そう、なにも間違いなど起きていない!自分に言い聞かせるように安心しようとして、ボタンがやけにガタガタになっている事に気付いてしまった。
「昨日、なにもなかった…よね?」
「なにも、って?」
「……なんでもないわよばか!!」
最悪な捨て台詞に、逃げの一手。よく寝起きの二日酔いであそこまで素早く動けたと思う。見知った自室に駆け込み、更にベットの中へ逃げ込む。有難いことに下はちゃんと履いていたし、他におかしい所は無かった。きっと何か間違いがあれば、責任感の強い彼のことだから、絶対言及するはずだ。
ただ、問題は――
「どうしよう、も………顔見れない…………」
暫くの間、ガンダルヴァー村で赤面しながら逃げ回る女学者を追い回すレンジャー長の姿が見られたとか、見られなかったとか。まるでそれは狩りのようだったとか。
――真相は、彼等が知るのみである。
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