【新ゲです】巨大雪だるま出現

 その日、ログインするとファストの街が雪に埋もれていた。比喩表現とかではなく、ガッツリ、具体的には二階部分までガッツリと埋まっており、二階の窓からの出入りを余儀なくされるレベルで埋まっていた。
 私が起きてすぐ、控えめながらどこか焦ったような気配をにじませたノックがされた。このときの私は外のことなど何も知らなかったので、なんかやけに静かだな。なんて思っていた。プレイヤーで賑わうファストの街は、朝だろうと夜だろうとそこそこ人の気配がする。

「主、よろしいですか」
「あぁ、問題ない」

 入ってくれ。と、言う言葉が終わるやいなや、カルが入ってきた。これもまた珍しい。だが外の状況を聞いてすぐに理解した。たしかにカルでも慌てるだろう。
 この大陸は――もし球体状の星ならば――南側に位置している。はずだ。拡張で実は他にも大陸があります。とかなれば別だが。元は大きな大陸だったらしい。それが中央に開いた穴によって大小4つの大陸に分かれた。
 以前、ミスティフの引っ越しを探す際に見て回ったが、エルフと魔族が住むと言われている左右の大陸は上部が万年雪に閉ざされていたので多分、サウオイェル大陸は赤道より。ファガットの気候的にも間違ってないはず。
 ジーアスも位置的には南寄りなので、冬でも雪はあまり降らない。では北寄りの帝国といえばというと……。

「帝国はアシャの守護を受ける国ですから、雪は降れどここまでは……」

 カルが困惑したように言う。いやこれもう守護がどうこういうレベルではないのでは? こんな雪、テレビで豪雪地帯の映像でしか見たことないぞ。

「とりあえず、一階は無事か?」

 雪の重みで窓ガラスやドアが割れたりしてないだろうかといえば、そちらは問題ないらしい。普段から強固な守りを施しているので。と、微笑まれてしまった。何を想定しているんだ。うちはただの雑貨屋ですよ?
 ただ、屋上の物干し竿も完全に埋まっているのでそちらは心配とのこと。そりゃそうだ。

「とりあえず、二階のリビングを一時片付けて出入り口にしていますが……」
「うわ……」

  思わず声が出た。ひとまず部屋着から普段着、ではないレンガードの姿になると足早にリビングへ。するとたしかに部屋が片付けられ、窓の下には汚れてもいいようにか布やらが引かれていた。そして外に広がる白い景色。うわぁ、なんだコレ。
 そして寒いだろうに、ガラハドとイーグルが窓の外で警備している姿が見えた。

「中を覗こうとする不届き者が……」

 聞く前にカルが渋い顔で教えてくれた。たしかに普段は見えない場所だからな。二人が睨みを効かせているおかげか、人通りもあまりない。ちなみに営業も止まってしまっている。

「あ、レンガード! そっちも大丈夫そうか」
「ロイ」

 通りを挟んで向こうの窓から身を乗り出して声をかけてくるのは【クロノス】のロイだ。そちらも無事なようで何より。

「何が起きたんだ」

 私より先にログインしているだろうロイに話を聞くべく外に出る。なんとなく不安だったので羽を広げて浮かびます。いや、【運び】があるので滅多なことで全身が沈まないとは思うんだが、アーカイブで読んだ北の大地で頑張る獣医部学生たちの漫画が頭をよぎりました。

「どうやらこの雪、普通の雪じゃないっぽいな」
「うちのクランを中心に何人かのプレイヤーで雪かきをしようという話が出たんですが、やってもやっても減らないんです」

 ロイの説明に、クラウが付け足してくれた。なるほど、イベントですね? そこに私にお茶漬からメールが来た。

『ファストが雪で埋まってるってマジ?_転移門もファストだけ使えなくなってるっぽい』
『マジか、ちょっとまってくれ』
「ロイ、街の外にはでたか?」
「街の外? いやまだだが……」
「今お茶漬からメールが来て、どうもファストが封鎖されているみたいだ」
「今巡回しているクランメンツから連絡がありました。外に出ようとすると猛吹雪に襲われ、視界が白くなってしまって気がつくと街の中に戻ってしまっているようです」
『お茶漬、いまロイの方で確認が取れた。街の外からでられない仕様だ。神殿には確認を取ってないが、おそらく閉じ込められた。と、言ってるそばから神殿から連絡だ』
『オーケー、こっちはホムラ以外はハウスにいる状態。情報に疎い炎王にも回しておく』
『頼む』

 さすがクラマス。こういうときには頼りになる。ロイとクラウには神殿に呼ばれたことと、以降はお茶漬、炎王と連携を取ってくれるようにいって、彼らの部屋をでた。えぇい、神殿にも【転移】できんのか。これは完全に閉じ込められたな。

「カル、神殿に行く」
「お供します」

 ロイたちの屋敷を出るとすでにカルがいつもの装備で待っていたので声を掛ける。一つ頷いて神殿に向かって歩く。

「カル、雪の上でも平気か?」
「えぇ、昔はいろいろなところへ行きましたから」
「そうか」

 おそらくは【運び】みたいなスキルを持っているんだろう。この状態で歩いたら【雪上歩行】とか生えるのか? 後でためそう。この姿(レンガ―ド)でやって万が一埋まったらこう、ほうぼうから責められる気がですね。
 そういや指輪を運ぶ映画だとエルフは雪の上を普通に歩ける設定だったが、この世界だとどうなんだろうな?
 そんなことを考えていると、神殿が見えてきた。もちろん神殿も雪に埋まっており、あちこちに神官や巫女さんがアワアワと動いたり、運ばれてくる急患に対応していたらしい。
 雪に埋もれたとか、あと怖いのは酸欠だな。一階まで雪に埋もれてるからなぁ。土地が限られている分一階しかない。って家は稀だが、上下階で別に人間が住んでいることは多々あるのでまぁ色々と。
 そして神殿に行くと、待っていたのはカイル猊下とエカテリーナ。そして冒険者ギルドの副ギルド長、それにアルだった。ギルド長は遠方に出張中とのこと。

「お待ちしておりましたわレンガード」
「私が最後だったようだな」

 おまたせしてしまって申し訳ない。という意味をこめて言えば、ほかも今さっき集まったばかりとのこと。本当かどうかは知らんが気遣いはありがたく。せめてもとホットプディングを出す。簡単に言うとシロップに漬けたスポンジをオーブンで焼いて焦げ目を付けたら生クリームとココア、いちごソースをトッピングして、色合いにミントの葉っぱをのせたものです。ついでにスパイスを利かせたホットワイン。外は寒いのでね。

「主」

 大丈夫。そんな恨めしげな顔をしなくても帰ったら雑貨屋でも出します。

「あぁ、温かいですね」
「酸っぱくないワインも、雑貨屋のお陰でファストを始め王都にも入ってきているようですね」

 副ギルド長とアルがそんなことを話す。雑貨屋だけの功績ではないだろうが、プレイヤーを中心に酒の流通が始まったことで、住人たちの酒の物流の流れもだいぶ変わったようだ。要するに、今までは古い酒でもいいや。と、なっていたところ、新しく旨い酒が別ルートから入ってくるからいらん。となった結果、住人ルートでも旨い酒がこちらに流れるようになったというわけだ。

「それはそれとして、この雪はどういうことなんだ? クロノスの警邏から外に出ようとすると雪に巻かれてもとに戻されるという話は聞いたが」
「あぁ、雑貨屋の前がクロノスのリーダーの屋敷でしたね」

 エカテリーナが頷く。なんだか色々と忖度と思惑が絡んでいる気がします。いや、目の前が知らん人よりロイたちで良かったんですがね。
 そちらは住人たちの方でも把握しており、アルが昔の資料をひっくり返して調べた結果、数十年前にも同じ事が起きたらしい。その時はファストではなかったようだが、やはり町ごと閉鎖されてしまったとか。

「原因は。それと対処法はありますか?」

 エカテリーナの問いに、アルは少し緊張した様子で頷いた。

「はい」




お茶漬:で、その方法が、世界各地に現れる雪の精霊の分身を倒すってことね。
ホムラ:そうらしい。
    ファストの町中にもいるが、街での戦闘は不可能なので、特殊な薬剤?
    炎? みたいなのを今生産職が一丸となって作っている。

 町中なので生産職や低レベルに配慮した形だろう。ぶつけたら溶けるアイテムがあるとのこと。私のレシピを貰ったので、アライアンス会話をしながら作成中です。

炎 王:出現地域は今のところプレイヤーがいったことがある場所だけみたいだな
ロ イ:クロノスの大部分はファストかアイルにいるんで、そっちは任せてくれ。
    あー一応、黒百合の方にも話を回しておく。
炎 王:うちはバロンだな。冒険者ギルドに話を回しておく。
お茶漬:それじゃうちはファガットかな。まぁうちメインってわけでもないけど。

 こちらも冒険者ギルドに話を回すのがメインだろう。

ホムラ:帝国のほうは、カルが話を回してアキラくんが奮起してるみたいなんで大丈夫だと思う。

 あいつか。という感じが主に炎王から伝わってきたが、まぁあの会心具合を信じよう。実際話が通ってるプレイヤーがいるのはありがたいことだ。ちなみに帝国にはカルからドリル、じゃなかったガウェインを通して、兎娘からのアキラくんというルートです。兎娘本人は神殿で運ばれてくる急患にてんてこ舞いのご様子。まぁそのへんはどうでもいい。
 それよりもですね。はい、炎王が雪の精霊の分身が出るのは「プレイヤーが行ったことがある場所」と言っていた訳でして。

『ちょっと! ホムラがファストに封印されたってことは扶桑は私一人?!』
『がんがれ!』

 別メールでペテロの悲鳴が届いておりますが、どうすることもできません。あとで酒を大量に渡してやるから今は頑張ってほしい。こっちが早く終わったらすぐに駆けつけるので!

『絶対運営にクレーム入れてやる!』

 ペテロの泣き言に近い捨て台詞。うん、まぁ、突発的なイベントはそれはそれで面白いのだが、負担が偏るのは良くない。え? 二人しかいけてない地域を運営が想定してない? それは知りませんね!
 そんなわけで、幸いなことに【クロノス】や【烈火】、一応【黒百合姫】などのトップクランの活躍によってファストの雪の妖精による街閉鎖は一日で解決できました。
 最後にファストに超巨大雪だるまが出現してのレイド戦はなにかと思いましたがね!

「めちゃくちゃノリノリで号令かけてたらしいじゃん」
「その場のノリです。ノリ」

 求められたら思わず応えたくなる。なんてことはなく、カルとエカテリーナによって整えられた舞台に乗るしかなかったんですよ!
 まぁ、溜まった鬱屈を『アシャの掃討の大剣』に込めてぶった切ったらHPバーの半分消し飛んだんですがね! もうそういうイベントだったと。はい。運営さんごめんなさい。でも町中に出てくる雪だるまにアイテムぶつけるだけでも攻撃判定あつかいでゲージ溜まるのが悪いと思います!

「ペテロ、大丈夫だったか?」
「ルバとか左近とかも協力してくれたからなんとか。もともとあそこはルシャの結界があるから、結界のハズレとかしか出なかったみたいだしね」

 それでもあちこち駆け回る羽目にはなったが、その分好感度も稼げたでしょ。と、肩を竦める。お疲れ様の意を込めてビールと日本酒を樽で渡しておこう。
 そんなわけで、初めての予告無しイベントは幕を閉じたのだった。




「だからいったじゃないっすか、いったじゃないっすか!!!!」
「しょうがないだろ。他のチームとの折衝もあるんだし」
「評価6までは数個ぶつけないと消えない雪だるまが評価8とか9が出回っているせいであっという間に消えましたね」
「そもそも素材の一つがあの人の庭の水っす!」
「普通の水だとどんなに頑張っても評価6だが、あのプレイヤー経由で神殿に提供される神水のお陰で最低評価が7だもんな……」
「せめてあのプレイヤーが外に出ていれば、扶桑で暴れるだけですんだのに」
「扶桑に行ってるもう一人の暗殺者プレイヤーからお気持ちメール来てるっす」
「それは、うん。申し訳ない」

powered by 小説執筆ツール「arei」

107 回読まれています