2023.11.19 ワンドロ
ホカホカと、澄んだ空に白い湯気が立ち上る。煙の出所は移動屋台だ。蒸し器らしきものが積み上がり、温かな湯気を立てている。屋台には「蒸し饅頭」の垂れ幕と肉と餡子の二種類がある旨が書かれていた。
店頭に立っているのは黒い髪の若い男だ。
「にいちゃん、一つおくれ。肉の方だ」
「こっちもだ」
「はいよ」
職人風の男が二人連れで店主の若い男に声をかけた。男は笑顔で頷くと、手早く懐紙に包んだ饅頭を二人にそれぞれ渡す。
「温かいなぁ」
「うめぇ」
冷えた手のひらで暖を取ろうとする男と、もう一人はさっそく口にしたようで、うっとりとした顔をした。
「早く食え、うめぇぞ!」
「わかったわかった。そう焦らすな」
連れの男をつつきながらそう言う男に、暖を取っていた男も饅頭に食いつき、途端に相好を崩した。
「な、なんだこれ、うめぇ! 兄ちゃん、もう一つくれ!」
「あ、ずるいぞ。俺も一つだ。今度はアンコをおくれ!」
「はいよ」
職人の二人連れはもう一つずつ買うと、上手い美味いと言って去っていった。
ペテロ:……さすがホムラの饅頭、好評だよ
ホムラ:それはよかった。それで、上手くいきそうか?
ペテロ:ターゲット確認、まぁしばらくは様子見だね
ペテロは一瞬だけ依頼の対象になっている人物に視線を向けると、ホムラとのチャットを中断した。
扶桑での忍者クエストで街に溶け込んで情報を集める必要があった。そこでペテロが選んだのは、屋台だ。これならば同じ時間に同じ場所にいても怪しまれない。この頃寒くなったという理由でふかしまんじゅうを選んだのだが、長時間どうでもいい客の相手をしなくてもいいという理由でかなり当たりだった。
これがラーメンやらそばやら、その場で食うものだったらそれなりに大変だっただろう。加えて売るものをホムラに融通してもらったのだから、むしろ対象が買いに来ている。
ちなみに評価10だと評判になりすぎて困るからと言う理由で評価6程度で済ませてもらっている。逆に大変だと文句を言われたが、最近評判だとお忍びで天音が買いに来てしまったのでこれくらいで済ませてよかっただろう。――なお、双方お互いが誰か即座にわかってしまい、何とも気まずい思いをした。
閑話休題。
ペテロ:今日も売り切れ、千客万来。本当に助かった
ホムラ:評価6くらいなら素材を選べばペテロでもできるだろうに
ペテロ:私だとついつい毒を仕掛けそうになるのでダメでした
ホムラ:毒饅頭はご勘弁ください
ペテロ:wwwww
ひとまずクエストはあと少しで終了だ。それとは別に結構な儲けにもなっているので、ホムラにはあとで何か例をしなければな。と、ペテロはターゲットとは別になにかよさそうなものでもないかと情報を集めることに決めたのだった。
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