アンバーの髪で遊ぶサラちゃんが見たかった話


どよん。
そんな効果音がじわりと滲みそうな雰囲気を屋敷の大広間が覆っていた午前10時。その時間はclownという組織においてはまだ起きていない人間か、葬儀屋の仕事に従事している人間の二択にほぼ絞られるような時間帯なので更に静けさが強く表に出るような心地だ。何よりそのどよんとした空気の中心にいたのが、普段なら歩く騒音のように振る舞うアンバーなのだから大抵の人は薄気味悪く感じることだろう。否、そもそも膝を抱えて丸まっている背中がアンバーのものだとすぐに気付く人もどれほどいるのか。

「誰かと思ったらアンバーだ!」

そんな中で1つの明るい声音がパンッと心地良く響いた。この雰囲気の中に響いたその音は最早破裂音のような威力で落ち込んだ雰囲気を霧散させていることに本人―サラは気付いているのか否か、座り込んでいるアンバーの前にしゃがみ込むと、“にこー!”なんて効果音がついているかのような笑顔を浮かべて覗き込む。その勢いに引き摺られたのか、もしくは単純にトリガーになったのか。アンバーはバッと顔を上げるとサラの頬を両手で挟み、ぷいっと自身から視線を逸らさせるように強引に横へ向かせたかと思えば、今までの沈黙が嘘のように大袈裟な泣き真似をし始めた。

「サラちゃああん!!あんまり今の俺を見ないでえ!!!!」
「え、なんで?」
「地味いいいいいい!!!!!!」
「それは確かに!」

アンバーの絶叫を聞いたサラはケタケタと笑ってみせると、アンバーのふわふわの“黒髪”を指先で擦るように摘んだ。それはいつものような痛々しい赤でも緑でもなく、間違いなく黒だった。

「なんでこんななっちゃったの?」
「なんかあ、赤と緑混ぜたらもおおおっと最高になるかと思ったってゆうかあ!!」

要は染髪する際に2色を混ぜてー正しく言うなら緑の上に赤を重ねて見たところ、素直に混ざって黒になったとか。本人曰く黒は黒でもなんかごちゃっとした気持ち悪い感じになってしまって非常に不愉快らしい。何から何まで自然に考えれば当たり前な話ではあるのだが、アンバーにそれは当てはまらないし、サラも特にツッコミめいた言葉を言うわけでもなく必死の様相で説明をするアンバーに「おもしろーい」なんて言って笑っていた。

「今日はもう染められないの?」
「俺はこれでも頭皮に優しいのお!」
「そっかぁ」

手で顔を覆い隠しながらおーいおいおい、シクシクシク、と声に出しながらわざとらしい泣き真似を続けるアンバーにサラはうーん、と顎に手を当て首を傾げると、ぽんっと手を打って閃いた。

「ちょっと待ってて!」
「見捨てんのお!?!?」
「ちょっとだけ!」

そう言ってサラは駆け出すのを見送りながら、アンバーは自身の髪の毛を摘む。少し澱んだ黒。せめてもう少し綺麗な黒だったら良かったものの妙に美意識の高いアンバーはその中途半端な黒が許せなかった。同じ中途半端でもこれが明るいマーブルだったら飛んで跳ねて喜んだだろうが、黒という色がどうにもつまらなく感じてしまう。こんなつまんない色ならいっそ刈り上げちゃうう?なんて考えている間にサラが戻ってくることを知らせる足音が響いた。

「はっえええ!」
「ちょっとって言ったじゃん、ねぇほらこれつけよっ」

そう言って箱から取り出したのは色取り取りの髪飾りだった。無論、女の子向けの。しかしそんなことは露にも気にしていないアンバーは、何よりもそのカラフルさや、キラキラとした彩りに目を奪われて仕方ない。普段のアンバーは彩り勝負、何か物で飾るという発想が頭からすっかり抜け落ちていたので正に目から鱗だ。

「なーにこれえ!」
「なんかねー、貰ったり余ったりしてたやつ!その髪なら逆にこういう派手な奴が目立ったりしないかなぁ?」

そう言ってサラはアンバーの返事や反応を聞く前にクリスマスツリーに飾り付けでもするかのようなテンションで真っ赤なリボンがついたヘアゴムをアンバーの髪に器用に括り付け、次のアクセサリーに手をつけていく。アンバーはされるがままに頭をぐわんぐわん動かしてはサラに“じっとしてて!”と言われては背筋を伸ばすことを繰り返す。経つこと約10分、サラは満足げに笑った。

「アンバー、できたよ!ほら!」
「わあああ!?!?すっげえええええ!!!!」

一緒に用意していた手鏡をアンバーに向けて見せれば、アンバーは一気に破顔した。そこにはキラキラのストーンがたっぷりと乗ったヘアクリップやリボンなど、とにかく大小様々なヘアアクセサリーが髪に飾られていた。がちゃがちゃとした、正直まとまりのない、子供の人形遊びでもここまでしないような。言ってしまえばカオスな状態になっている訳だが、それは即ち、アンバーが楽しくなってしまうもので。

「めっちゃいいじゃあああん!」
「いつものクリスマスアンバーとはまた違った派手さだよっ」

ふふん、と満足げにサラは腕を組んだ素振りをすると、アンバーの背中に回り込みそのままぽすんと体重を掛ける。そして後ろから覗き込むように笑いかけた。

「ほらほら、元気になったよね?あそぼ!」
「あひゃひゃっ、遊ぶううううう!!!!!」

すっかり元の調子に戻ったアンバーは、サラをそのまま背中に乗せたままアクセサリーが入っていた箱を拾い上げつつスクッと立ち上がる。サラが自然な流れでその空き箱と手鏡を受け取ったのを確認すると、アンバーは慣れた様子でサラの腿を膝で固定し一気に走り出した。常識的に考えて室内で出すようなスピードではない猛烈な勢いだったが、そこにツッコミを入れてくれるような人物は軒並み未だ夢の中だ。繰り返すようだが、何故2人が既に起きているのかは分からないが時刻はまだまだ午前中なのだから。

「あひゃっ、お片付けはちゃんとしないと怒られちゃう!!!!!」
「ねえねえ、何して遊ぶ?」
「寝起きドッキリとかあ!!!!」
「さんせーい!」

寝起きドッキリを仕掛けた先々で飾ってもらったヘアアクセサリーを落としまくり、2人がドッキリ遊びに満足した頃にはアンバーの頭がすっきりしていたのも、そのことにまた絶叫するアンバーと大爆笑するサラがいるのももう少し後のこと。

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