その羞恥の、/月山月(2024.04.18)
駅で待ち合わせて、二人で住む家に向かうまでの途中で薬局に寄る。
「何買うの」
「シャンプー少なくなってたよね?」
「ああ、うん。洗剤もじゃない?」
「なかっ……たかも!」
「探してくる」
「わかった!」
ツッキー、ありがと! とおおげさなほどの声で礼を述べ、山口は目当ての棚へと歩いていく。いつも使ってるやつ、を探しに月島も食器用洗剤の棚に歩を進める。暮らし始めて数ヶ月、だいたいの位置は把握し始めたところだ。越してきた当初は、ふたりでここでもないそこでもないと見て回ったものだけれど。今日はちょっと、疲れたかも。とぼんやりながらも思っていたから、できれば早く帰りたいのだった。
見慣れたパッケージを手に取って、周囲を見渡す。髪関連の製品の方が入り口に近いはずだから、山口はもう買うものを手にしているだろう。月島からすれば十センチも差があるけれど、世間からすれば大きい方の恋人は、基本的に店に置いている棚からすこしはみ出す。予想していた場所とは異なるところに立ち止まっていて、記憶違いかな、と思いながら近寄った。
「山、口」
何見てるの、と尋ねる前に気がつく。真正面ではなくて左にちょっとだけずれて、でも視線があからさまに向いている。手のひらに収まるほど小さな箱。記載、0.02ミリ。バレてるよそれ、と喉まで出かかるのを抑えて、うっすら色づく頬を眺めた。別に、そういった行為をするようになって短いわけでもないのに。熱心に考え込みすぎて、隣に立っても意識の外だ。
すっとしゃがんで、これも見慣れたパッケージをつまむ。びくりと飛び上がった山口が真っ赤になるのを横目で確認したまま、その手に携えたカゴに放り込んだ。
「ツッ、キー、ちょっと……」
「何。そこ突っ立ってる方が恥ずかしいデショ」
「う、そうだけど……」
たぶんローションはまだある、と記憶を探って、レジへと踵を返す。後ろからついてくる足音を聞きながら、たったこれだけで元気が出てしまう自分をおかしく思った。疲れているとはどの口が言ったものか。
「待ってってツッキー!」
「なんで。僕は早く帰りたい」
「ちが、なんか、そういうつもりじゃ……!」
もごもご弁解しようとするから、くるりと振り返ってちゃんと目を見据える。じゃあ、どういうつもり? って、聞いただけでまたまた発火しそうなくらい赤面して、なんだ、やっぱり「そういうつもり」なんじゃないか。
握りしめている指先を解いてカゴを奪って、会計の列に並ぶ。小さく、「ツッキーは今日するつもりだったの」、問われて口を開いた。
「しないつもりならなんで見てたの」
「だから迷ってた!」
「僕は山口がしたいならしたいけど」
うっ、と言葉に詰まって、聞き取れないほどのボリュームで「したい」と告げる山口に、月島は心の中でこっそりガッツポーズをした。
powered by 小説執筆ツール「arei」