ルーシル4
二人が親しくなってからしばらく経った日のことだ。ルーはシルヴァンにこう訊ねた。
「お前に誇りはあるのか」
シルヴァンはすぐに答えようとはせずに「そういうルーはどうなんだ」と訊き返した。すると躊躇うことなく「俺にはそんなものはない」と答えた。
少し沈黙が流れたあと、シルヴァンが口を開いた。
「俺にはある。いや、断言すれば嘘になるけどな」
「?」
「意地でもそれを胸に抱いていないと死刑執行人として生きていけないってことだ。それだけ弱い人間なんだ」
シルヴァンは淡々と話すだけだったがその声色にはほんの少し哀しみの色が混じっていた。
ルーは返す言葉が見つからなかった。
後日、死刑執行が行われるという話を聞き処刑場へ赴いた。
今度はちゃんとした『観客』として、死刑執行人を『演じる』シルヴァンの姿を観に来た。公開処刑などルーには娯楽のうちにも入らない。
やはり処刑台に立つ彼は堂々としている。表情ひとつ変えない。シルヴァンの横には断頭台という『舞台装置』が聳えているというのに。
この『舞台』に立つには多くの覚悟と運命と、そして誇りが必要なのだ─。そうでなければ彼のようにこの『役』は務まらない。
先日のシルヴァンが言っていた言葉の意味がようやくわかり鳥肌が立った。
「(シルヴァン……これが表舞台に立つお前の生き方か……)」
何故か心が激しく揺さぶられる。どこか似通っていて、それでも自分とは対照的な彼の姿勢に。
シルヴァンが死刑執行人として処刑に臨む姿から決して目を離すまいと、瞬きすら耐えた。
断頭台の刃が落ちた後、死刑執行人が首を掲げて『観客』に見せた。ルーは今度こそその様子を見届けた。全身の血がざわめいた。
シルヴァン……貴方は弱くなんかない。俺の方が弱い人間かもしれない。
自分は落ちぶれて何もかも「どうでもいい」「どうにでもなれ」と思っていたのだから。でもそれでは自分の名前が意味を成さないではないか……。
シルヴァンの姿勢と生き方にすっかり惚れ込んでしまったルーは岩のようだった心を突き動かされたのだ。
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