バケツいっぱいの愛をきみに - ローラ+ローガン

 ン"ッンー、あー、OK。マイクテストはいる? もうオンエア中か、早く言ってくれよ。
 まず、1つ言っておくべきことがある。このパートはR・R・R(お誕生日おめでとう)もしくはY・K(ホワイトデー生まれ。知ってた?)の声で再生されるべきところだ。ノイズだなんて言うなよ、傷つくだろ。違う、本当に言いたいことはこれじゃあない。あと言っておくべきことは、実は3つある。
 1つ目、聖骸Xの墓を暴いたことについては、まだ誰にも話してない。ジャム工場が爆発したみたいな現場はサンドイッチ野郎のお抱え隊がキレイキレイしたはずだけど、俺の行い自体は他のどこにも漏れてないはず。そんな責める目で見るなよ、本当に死んでると思ってなかったから、あの時点で俺にとってあそこは「墓」じゃなかった。土づくりのモーテルで冬眠してるところに起こしに行ってあげたくらいのつもりだったんだ。結果として、墓ではあったけど。
 まあいい、そのことは後で話し合おう。2つ目は、俺が死体に性的興奮を覚えるっていうのは誤解だ。これは解消されてる? よかった。じゃあ3つ目。
 ローガンの思い出を汚さずにできるか────もちろん、言っただろ?

 無理だね。




「何あれ」
 リビングのほとんど中央、ソファの上に在る不審物を目にしてローラは言った。ガラスボウルの中身をヘラでかき混ぜながら、レシピに文句をつけていたウェイドが声に反応して顔を上げる。
「おかえり、カップケーキちゃん。それ? 準備も片づけも手伝わない呑んだくれのアホが製菓用のリキュールを飲み干した刑罰を受けてるところ」
 早口で捲し立てるウェイドに、ローラは足元にまとわりつくメリー・パピンズを抱き上げながらふうんと鼻で相槌をした。おざなりな返事は決して答えに興味がないからではなく、しっかりと口を噤んでおかないとメリーの深い親愛の情が口の中まで入り込みかねないせいだった。今このタイミングで他に来訪者があったとして、ドアの正面に位置するソファに鎮座するジャック・オ・ランタンへまったく興味を向けないでいられる人はいないだろう。
 メリーを下ろすついでに、カーキのリュックを肩から下ろす。その時、リュックの中でスタンレーの水筒が鈍く床に打ちつけられる音がしたが、ソファの背もたれに身を預けて眠りこけるジャック───もとい、ローガンはしかし微動だにしなかった。じっと見つめればわかる程度にだけ、フランネルシャツを着た肩が上下している。
「懲役は?」
「あー……あと3時間ってとこ」
 窓から入り込む午後の陽ざしを受けて、ローガンの頭部を覆ったかぼちゃは新鮮で瑞々しい輝きを見せている。中身をくり抜いているとはいえ、厚みのある生のかぼちゃはそれなりの重量があるだろう。
 ローラはシンクで適当な布を濡らして、メリーの愛情で満たされた顔を拭いた。布の間から時計を見れば、三時間後にはいつもの顔ぶれで予定されているハロウィンパーティーがスタートする頃合いで、つまり「パーティまでそうしてろ」ということらしい。既にどれだけの時間が経過しているのかわからなかったが、そこそこの重罰だといえた。
 ふと横を見ると、ボウルをかき混ぜる手を止めたウェイドが、ローラを茫然と見つめていた。
「何?」
「ごめん、止める暇がなかった。それ台拭きでも手拭きでもないんだ」
「……何拭き?」
「メリーのごはん皿」
「………顔洗ってくる」
「ほんとゴメン、そうして」
 気づけば、メリーが一週間着ていた服に頭から突っ込んだように顔中いっぱいにメリーのにおいがこびりついていた。実際にやったことはないけど、きっとそう。内心独り言ちながら、ローラはむずつく鼻からくしゃみをひとつ、勢いよく弾けさせた。
 ローラがウェイドとアルの家───家賃の支払い状況により、アルとウェイドの家と呼ぶ必要がある───に訪れると、メリーはいつも彼女を歓待する。パーティの招待を受けた一週間前にも遊びに来て、顔のみならず鼻も口も合わせられるすべてを合わせていたはずだが、メリーは今日も3年ぶりの再会といったふうに喜びを発露している。メリーは他の来訪者に対してもいつもそうして喜ぶので、彼女は来訪者にとって常に喜びでいっぱいの犬であり、来訪者もその喜びを受け取ることを歓迎せざるを得ないのだ。おかげでドアを開けた時には感じられた甘いキャラメルと香ばしい小麦粉のにおいが、今は遠く行方も知れない。
「あ~~~~、またか」
 不意に、ローラの首裏に走るものがあった。同時にウェイドが低く呻き声を上げ、一拍置いて、玄関ドアが物々しく打ち鳴らされる。
「ウェイド・ウィンストン・ウィルソン」
 ウェイドは返事の代わりにオーブンを足で閉めて、パーカーの上につけていたエプロンをキッチンに投げ捨てた。
「あいつらって人のお楽しみに割って入るのが趣味なのか? だとしたら性格悪すぎ。今日こそ全TVAのファイアーフォンにカップル用のスケジュール共有アプリをインストールさせてやる」
 嗅覚はすっかりメリーに支配されてしまっていたが、訪問者の正体はドアを開けて確かめるまでもなかった。ローラがこの家にいる間にもTVAは何度かウェイドを訪れて、その度に違う隊員がドアの向こうに立っていたが、何故か呼び出し方は全員同じだった。
 ローラが聞いたかぎりでは、ウェイド曰く「過去に奇跡のアップル・ウォッチを使ってやったマジックのせい」で、TVA曰く「様々な時間軸に影響が出ている」とのことだった。これまではTVAが対処に当たっていたその後始末に、ウェイドがTVAの存在を知り、関わり、かつ実働部隊員として有用ということもあって、ウェイドは参加を強く要請された。おかげでウェイドはドアが叩かれるたび、自分の尻を拭いに別の次元へと赴かねばらない。
「ローラ、そのプリン液冷蔵庫にしまっといてもらえる? 揺らさないように、そっとな。あんまり揺らすと底に沈んでるカラメルが海底火山のマグマみたいに上ってきちゃう。パイはオーブンかけたところだから、焦げそうになったときだけ開けて良い」
「わかった」
 言いながら、ウェイドがキッチン上部の棚を開け、ハンドガンの安全装置を確かめてウエストに押し込む。傘立てに紛れこませた刀を二本抜き出し、つま先で玄関カーペットをめくって床板の下にはめ込んだ弾倉を取り出した。テーブルの裏に手を回したローラは、指先に硬い革を感じるとそれを掴んで引きはがし、ウェイドに投げやる。ナイフを受け取った手とは反対の手で、ウェイドがドアノブに手をかけた。
「すぐ戻るよ、そんなにかからないはず。何か必要なら呪われたフェルト人形を売りに行ってるアルに電話して」
「あれ、そんなに悪くないと思うよ」
「優しいね、スウィーティー」
 フードを被った顔が、ローラを見つめて口端を持ち上げる。ドアの向こうへ一歩を踏み出し、半透明のオレンジ色に切り出された異次元に消えた背中に、ローラは小さくいってらっしゃいを投げた。
 束の間、空間には静寂の波が押し寄せ、ローラの胸を落ち着かなくさせた。それを振り払うように腕をまくり、ローラはキッチンへと滑りこんだ。
「………プリン液か」
 シンクの脇には、スチール製の丸型になみなみとかぼちゃ色が注がれたままにされている。ローラはウェイドに言われた通り、丸型をそうっと持ち上げた。極めて慎重な足取りで歩を進め、足先で乱暴に冷蔵庫を開け、丁重に平坦な空きスペースへと納める。プリンの表面に色の変化は見られず、小鼻が満足げにふん、と息を吐く。オーブンの中身はまだ焦げつく気配もないので、しまう場所がわからないもの──キッチンに出ていたものの七割はわからなかった──はそのままに、ローラは洗い物に手をつけることにした。
 キッチンシンクに立つと、玄関ドアに面したリビングにあたる空間が見渡せる。いつかのパーティーほど大々的ではなくとも、部屋のあちこちにハロウィンを思わせるものが散らばっていた。テーブルには使いかけのろうそく(かつて3と7だったものと、クリスマス用だろう赤色と緑色がキャンディみたいにねじれたもの、びんの中でカラフルな蝋に囲まれて芯がすっかり埋没しているもの)と、こうもり型のウォールアクセサリー(すべて黄色い背景に翼を広げた姿をしている)が壁の隙間を縫って飾られて、蜘蛛のぬいぐるみ(割引された値札がついたまま。脚が一本白くなっているのはメリーの涎の跡らしい)とそしてその他、普段の二人が暮らす空間にはあまり見かけないものたちが、ハロウィンナイトを想起させるように棚や床に並んでいる。
 手の中でいつの間にか握りつぶしていたスポンジを、ローラはそっと開いて広げた。くしゅくしゅと音を立てた泡がシンクの縁をすべって落ちていく。
「……覗いてみないか……不思議すぎる世界を……」
 もしかしたら、これらは、これらのどれかは自分のために用意されたのかも───そう思うと、バターのこびりついたヘラを拭う手が逸った。誘われたときには少し子供っぽい、と半分笑っていた自分が、今はうきうきと膝を弾ませている。部屋の奥から這うようなうめき声が聞こえるまでは、自分が鼻歌を歌っているのにすら、気がつかなかった。
「ローガン?」
 手を拭きながら近づくと、厚い肩が少しだけ動きを見せた。足元で前足を引っかけて跳ねているメリーに気づく様子はなく、まだ眠りは深いらしい。ローラは湿った手でメリーを抱き上げて、再び喜びを向けられる前にソファの上へと乗せてやった。ぷりぷりとした毛のない尻尾を見て、思い出したようにくしゃみが飛び出す。
 ソファの空いた傍らに腰をかけ、かぼちゃで作られたマスクをのぞく。ご丁寧にも彫り出されたジャックの顔は、まさにハロウィンといった様相でローラの口元にも笑みがのぼった。表情は歪で、切り口が荒く、ジャックが誰の作品かは一目瞭然だった。片側に比べて奇妙に大きい目の穴から覗き込むと、皺のある瞼は溶接されたようにしっかりと閉じられ、力のない手元には件のオレンジリキュールの小瓶が転がっている。
 文句をつけながらも起こしもせずにそのままにさせていたあたり、ウェイドはそこまでローガンを責めているわけではないんだろう、とローラは思った。薄く隈の刻まれた目元が、今日も眠れない一夜をやり過ごして、日暮れ前にようやく寝入ることができたのだろうとも。
 さすがに首が痛くなりそうだと思い、かぼちゃのマスクに手をかけて外そうとしたが、顎がつっかえているのかうまく外すことができない。
 何度かローガンの脚の上を往復したメリーは落ち着く場所を見出せなかったのか、彼のかぼちゃの臭いを嗅ぐとさっさと下りてしまった。
「ローガン、重たいなら外しなよ」
 肩を叩きながら言うと、うん、と低く唸って、かぼちゃ頭がガクンと大きく揺れた。息を呑む音がして、力の抜けていた手が自分の頭を覆うものを叩く。
「ッ なんだこれは、」
「おはよう。よくそれで眠れたね。ひどい仮装だけど、パーティーもそれで出る?」
「…………ローラ?」
 戸惑った声に笑いかけて、ローラはスマートフォンを取り出した。親指に一番近い位置にあるアプリをタップして、並んだ写真をスクロールしながら眺める。SNS上には早速お祭り騒ぎの様子がハッシュタグ付きで続々とアップされていて、時々誰かの犬の写真が間に挟まり、またグロテスクでスイートなハロウィンの写真が続く。また時々、お祭りにはなんにもかかわりのない、誰かの生活の様子が流れていく。
「………ローラ」
 ローガンの手が、ローラの肩先にそっと触れた。まだ肩寝ぼけているらしく、くりぬいた穴の向こうから夢うつつに判然としない声が響く。
「うん、ただいま。ウェイドならいつもの件でTVAに引っ張られてったよ。たぶんあと二時間くらいで戻るだろうけど……必要なものはある? アルが帰ってくる前に買い物に出て、そのまま迎えに行こうかと思ってる」
「……買い物……………」
 ジャック・オ・ランタンはぐるっと部屋を見回してから、ぼんやりとそう言った。買うものリストを思い返しているのか飲みたい酒リストを考えてるのか、しばらく思案している様子だったが、そのあとになかなか言葉が続かない。ローラが手元の画面から視線を上げると、不器用に笑ったかぼちゃがローラをじっと凝視していた。手を伸ばしてそのまま、まるで時が止まったかのように動かない。
「……どうしたの?」
 様子がおかしい。そう思ってローラが中空に留まった手を取り───はっ、と息を呑んだ。
「ローガン、………?」
 皮膚の強張った大きな掌は、既によく知った体温でローラの指先をやわく掴む。いつもと同じで、しかしどこかぎこちない仕草がローラの手に厚く硬い節々を感じさせた。ローガン、ともう一度名前を呼ぼうとして、震える声につられて視界が揺れた。確信よりも確かな直感に、今にも叫び出しそうな興奮がローラの全身を包む。
「……無事だったんだな」
 砂漠の緑を撫ぜる声が、ローラの胸に沁み入り安堵で満たした。効かないはずの嗅覚に、砂埃と安酒の匂いがたちまち蘇る。ローラは迫り上がる嗚咽を噛んで、喉を絞り上げた。
「おとうさん」
 かぼちゃの内側で、は、と吐く息が震える。歪んだ三角形の窓から、同じように震えて潤んだ瞳が、優しくローラを見つめていた。
「よかった、本当に」
「ねえ、escuchar(聞いて)。言えなかった、あの時に、つらくて、言いたくなくて」混乱の内に、ローラは叫んでいた。手の中に捉えた手を胸に抱き、必死に言葉を紡ぐ。喉が引きつって呼吸もままならず、伝えるべき言葉と伝えたい言葉とがあふれてもどかしく、ローラの唇が震える。陰った赤黒い隈が、そんなローラを見つめてわずかに細く弓を引いた。
「ローラ」
「おとうさん、やだ、目を閉じないで、por favor(おねがい)」
 掠れた声が重たげに揺れて、乾いた眦に雫が伝う。濡れた頬を撫でる手にすがり、ローラは耳をそばだてた。
 もう一度、ローラ、と空気が低くそよぐ。
「おとうさん……おとうさん、Come back(戻って). Por favor……」


「ローラ、」
 鼓膜の震えが、ローラの意識にそっと忍び入る。暖かくも暗い意識の底から浮かび上がり、瞼を開いて見えた明るさに、ローラは目を瞑っていたことを知った。
「ローラ」
 薄く霞んだ視界に、握りこんだ手が映った。顔を上げると、肩を預けたローガンが心配そうな顔でローラの顔を覗き込んでいる。ローラが捕らえた手とは反対の手に、あのジャック・オ・ランタンが半分に割れていた。
 瞼を瞬かせて、幾分か明瞭さを取り戻した目でローラはもう一度ローガンを見上げた。紛れもなく、知っている顔だった。はっきりと濃い髭に、隈はあるが、肌は血色よく日焼けしていて、治りきらない傷が血を滲ませているところもない。土や砂埃にまみれてもいない。握りこんだ手もやはり厚くて強張っているが、その手の中に収まった手は記憶よりも大きくなっている。
「大丈夫か……?」
 虚脱した全身を傾け、茫然としたままのローラを慮りローガンが軟く手を握り直す。足元にはパタパタと足音を立ててメリー・パピンズが存在を主張して、ローラの膝を前足で軽く叩き続けている。
「………ありがとう、ローガン」
「何を…………礼を言うなら、俺の方だろう」
 再びこみ上げる涙を堪えきれず、ローラは目の前の厚い肩にしがみつき、必死に嗚咽を噛みしめた。


「たっだいまぁ~~~~~~ハアまったく、結局この時間だよ。なあアルもう帰ってきた? まだならブラッドソーセージはいらないって連絡してくれる? あぁ安心して、これは俺ちゃんの取れたて新鮮な小腸じゃない。時間旅行先のちょうど目の前が肉屋で、そこで拾ってきた腸詰めを……………おっとォ……?」
 玄関ドアを勢いよく開いて帰宅したウェイドは、振り回していたソーセージでドアを閉じくるりとその場で一回転したところで、深く息を潜めた。ドアの正面、ソファに隣り合って座った親娘の後ろ姿は仲睦まじげで、しかし傍らのローガンに寄り添ったローラの肩は震えている。小さな嗚咽までもがウェイドの耳に触れた。首だけで振り返ったローガンの貌はすっかり困り果てて、眉間に皺を寄せながら両眉尻を下げてと器用にウェイドに助けを求めていた。状況はまったくわかんないけど───ウェイドは首に掛けたソーセージをキッチンに放り投げ、いいからハグしろ! とローガンにジェスチャーした。自らの肩に手を回し、ぎゅっと音が立つほどに強く自己愛を示すウェイドにローガンは一度首を傾げたあと、ややあって意図を理解したのか、ぎこちなくローラの肩に手を添える。
 出迎えに駆け寄ってきたメリーを抱き上げて、ウェイドも鼻を鳴らすローラの肩に手を置いた。赤いマスクの半分を持ち上げて、メリーの歓迎を受けながらローラに微笑みかける。
「……おかえり、ウェイド」
「ローラ、どうしたの。何かあった? 俺かダディかメリーに話せる? 敵がいるタイプの悩みならそいつの名前か住所かSNSアカウントを教えてくれたらどうにかしてやれるよ。今日は都合よくハロウィンだから、大抵のことならお祭り騒ぎに乗じて片づけられるし、犯人はスクリームのコスプレをしたアホかフレディのコスプレをしたクソ野郎のせいにできる」
「大丈夫………ごめん。すごく良い夢を見たんだ」
「そう? サンドマンならなんとかボコれなくもないぜ。今後ネトフリ限定配信の作品は見れなくなるかもしれないけど」
 ううん、と首を振るローラに、ウェイドとローガンは顔を見合わせ、そうか、と手を解いた。二人が離れ間際にぽんと触れた手に目を赤く潤ませながらも、ローラはありがとう、と笑顔を浮かべた。
「ウェイド、お願いがあるんだ。今度、彼に会いに行きたい」
「"彼"?」メリーにキスを返して下ろしたウェイドはローラの言葉を反復して、すっ、と一度喉を詰まらせた。それから何事もなかったかのように、「あー、あの、ノースダコタね。美しいダウンタウンの森にいる」といつもよりは歯切れ悪く言葉を繋げた。ローラはとくに気にした様子もなく、袖口で頬と目尻を拭い、地図アプリを表示させている。
「ローガンも行って平気かな」
「どうかな、ハハ……生者と亡者でドッペルゲンガーだね。どうだろう? 俺ちゃんが大丈夫じゃないかも。つまり、運転してくなら交代要員が欲しいし、」
 そこまで言って、階下でゴン、と鈍く階段を叩く音がウェイドを遮った。続けて一定の間を置きながら、ゴン、ゴン、とそれは距離を詰める。鼻先を引くつかせたローガンが「アルだ」と言い、鼻づまりの解消されたローラも「本当だ」と呟いた。メリーは既に玄関先に座り、この家のもう一人の主の帰宅を今か今かと待っている。
「うん、よし。食事をしながら話そうか。ハロウィンディナーの話題に最適だ。英雄の墓参りツアーの計画なんて、楽しみじゃないわけない」
 

 




@amldawn

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